僕たちが見ている利用者の姿とは、本当にその人の真の姿ではないのかもしれない。
僕たちが感じる思いとは、誰かにとっては全く的外れな思いなのかもしれない。
僕たちは対人援助のプロではあっても、万能の神ではないのだから、常に間違いを犯すかもしれないという危うさを併せ持つ存在であることを自覚し、そのことを心しておかねばならない。僕たちの判断は、専門性に基づいた正しい判断であることが求められるが、常に正しい判断ができるわけではないということも一面の真実なのだ。
対人援助とは、本来ならば知ることはない自分とは違う誰かの、生活歴などの個人情報に触れながら、その誰かのプライベート空間に踏み込むことになる。そこは利用者や家族等の様々な感情がうごめいている場所であり、その感情とは、僕たちからはうかがい知ることができない他人の感情である。
人の感情とはそれぞれ人によって違うものであるのだから、僕たちが良かれと思って行った行為が、相手の感情とマッチしない場合、その行為は相手にとって受け入れがたいものとなるかもしれない。その時僕たちは、受け入れてくれない人を、おかしな人と審判するのではなく、なぜ自分が良かれと思った行為が受け入れられないのかを、専門家として客観的に分析する冷静さが求められるのである。
だから僕たちは、顧客である利用者に教えてもらうという姿勢が求められるし、そこでは卑屈になる必要はないが、真摯に学ぶべきものは学ぶという態度が求められる。
そういう意味において、僕たちはどのような経験を積んでも、いくら年を重ねたからと言っても、他人から教えてもらうということが必要でなくなることはない。利用者やその家族から教えていただかないと、見失ってしまうものがたくさんあることを心しておかねばならない。
僕たちの見えるものなんてそれほど狭い範囲でしかない。だから見えているものだけではなく、見えないものさえもみつめようとする心構えが必要だ。僕たちが働く場で出会う人々。利用者と呼ばれるそれらの方人々の向こう側にあるものをしっかり見つめなければならない。
それは人々の生活史であり、それらの人々の感情であり、それらの人々の家族の思い等である。それらもひっくるめてみつめる姿勢が必要だ。
人は必ず役割があってこの世に存在しているはずだ。どんなに年をとっても、障がいを抱えていたとしても、認知症になっても、人はそこに存在しているだけで尊い。その尊さを敬うためには、見えない背景もすべてひっくるめた人間理解が必要だ。そして僕たちはそれができる専門家でなければならない。
インターネットで検索をしているとき、偶然たどり着いたサイトで、ふと目に留まった和歌がある。「車いす座りし父の薄い背は、稲穂かついで我を負うた背」という和歌だ。
きっとこの和歌を詠んだ人は、小さく見える父の背中を見たときに、それを単なる背中ではなく、幼い自分を養ってくれた背中、自分をおんぶしてくれたかけがえのない父がそこにいるという思い歌に込めたのだろう。
この和歌に込められた思いを大切にしないと、僕たちは何かどこかで間違ってしまうのではないかと思う。
和歌の良し悪し、出来不出来を評価するセンスは僕にはないが、この和歌から伝わる思いには大いに共感する。
僕たちの前にはいろいろな人がおられる。介護サービスの場では、様々な理由で支援を必要とされている人が存在する。
それらの方々は多くの場合、身体的に、あるいは精神的に様々な困難事情があって、日常生活に援助を必要としている人だ。そのため僕たちは、それらの人々の生活課題に対応して、それを解決するための手段を考えるわけであるが、それ故に、今生活上の不便となっている原因を見つめるあまり、その人々の背景になる様々なものの中から、今現在の身体状況や精神状況だけを取り上げて、その人のことを判断してしまうことはないだろうか。
例えばAさんという人がいたとして、その人が認知症で、周辺症状への対応が必要とされている場合に、その人がもともとどのような性格の人であって、家族とどのよう関係性を築き上げ、家族がその人にどのような思いを寄せているかということを考える前に、認知症で〇〇行動のあるAさんとしか見ない場合がある。それは少し違うだろうと思わねばならない。
その人を車いすに乗せ、移動を手伝っている家族が、「私を優しく養ってくれた父の背中が、こんなに小さくなっている。」と感じる思いにも寄り添うことが本当は必要ではないのか。
だから・・・人々の背負ってきたものを、背負っているものを見つめる介護者でありたい。少なくともそれを見ようとする人でありたい。人になりたい。そう思った。

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