今回の報酬改定で、基本サービス費が大幅に減額になった特養にとって、厳しい現実とはなにかと言えば、基本サービス費の減収分を補う加算が実質ないということである。

そのことは、「大減算は加算で活路を拓くことができるのか?」で指摘しているとおりであり、算定要件が厳しくとも、基本サービス費の減収分を補うことができる加算が新設された通所介護とは、この点が根本的に異なるわけである。

その中で現在多くの特養施設長は、来年度の予算編成に向けて頭を悩まし、血圧が上がり、眠れない夜を過ごしていることだろう。

勿論ケアサービスの質をすべて無視して、収入・収益というだけの視点で施設サービスのあり方が決まってしまうのは問題であるが、施設経営・運営あってのサービスであるから、その経営と運営を危うくする財政状況があってよいわけがなく、利用者の暮らしを護り、職員を護るための収支計算というのは必要不可欠なわけである。

そうなると定員がある入所利用者の報酬は大幅に下がるとして、ほかに対策を立てる必要がある。例えば下がる入所利用者収入ではあるが、入院する利用者を少しでも減らすことができれば減収幅は圧縮できるわけであり、そのことは大きな課題になるだろう。そうであれば看取り介護については、年間20件ほどの看取り介護を行っても算定できる加算費用は、減収分を補う額には程遠い額であるとはいっても、看取り介護をきちんと行うということによって、看取りのために医療機関に入院する必要がないというだけでも意味があることだろう。ならば国が構築を求めるPDCAサイクルを積極的に構築して、地域への啓発活動にも取り組んでいく必要があるだろう。

経口維持加算も、会議などの実施と記録の整理を行えば、造影検査を行わずとも高い費用を算定できるので、これらの全員に算定できない費用も、必要な人には確実に算定できるように体制を整えていくべきであろう。

それと同時に、特養の場合はショートステイが入所定員の外枠であるのだから、この利用率・ベッド稼働率を高めて、いかにショートステイの収益を挙げていくのかが課題となる。入院者の空きベットを利用した「空床利用型」と「併設専用ベッド型」をミックスして稼働率を高めることで、ショートステイは大きな収入源になり、この稼働率が高くない地域の特養は、利用者の掘り起こしをはじめとしたショート利用者確保が減収を補う重要な要素になるだろう。単純計算でも、平均要介護1のショート利用者が1日1人増えれば年額約300万円の報酬増なのだから、2人増えれば年額600万円増、3人増えれば年額900万円以上、4人増えれば1.200万円以上の収益が上がるわけだから、入所の基本サービス費の減額分が、かなり補えるわけである。

一方で、すでにショート利用率が100%に近い特養であっても、もしかしたら「空床利用型」の指定を受けておらず、「専用ベッド型」のみで動いている場合であれば、あらたに「空床利用型」の指定を受けて、入院者の空きベッドもうまく活用することで収益確保に繋がる可能性もある。

それもすでに行って、かつ利用率も100%に近い場合でも、基準緩和により「利用者の状態や家族等の事情により、介護支援専門員が緊急やむを得ないと認めた場合などの一定の条件下においては、専用の居室以外の静養室での受入れを可能とする。」とされたのだから、これはショートベッドが満床時に、静養室のベッドを利用できるという規定だから、実質ショートベッド1増加である。これも専用ベッドと空床利用の届け出を行っておれば受け入れ可能となると思われ、これによる利用者数増を目指すという考え方もあり得ると思う。

さらにショートは退所した日に、新たに利用する人が同じベッドを使う場合には、利用時間が重複しないことを条件に1ベッド2人分の費用請求が可能なのであるから、できるだけ退所ベッドに、その日のうちに別のショート利用者の受け入れを行うという意識を高めることで収益は上がる可能性があるが、こちらはかなり厳しいかもしれない。

どちらにしても前述したようにショートの利用者数が1日平均4人増えれば、年間1.200万円以上の収益が確保できるのであるから、この対策は急務である。

とにもかくにも加算算定要件を読み込んで、確実に拾える加算を拾っていくことが必要である。そしてそれは担当部門に任せきりにするのではなく、施設ならば施設長が率先して取り組むべき姿勢ではないかと思う。そういう姿を職員に示したうえで、厳しい介護報酬の減算状況を、全職員に肌で感じてもらい、経費削減・収益増の方法を各自が目標として定める方向に持っていかねば、施設運営は厳しい状況になるであろう。

加えて今後は、保険制度外の収益事業を同時並行的に行って収益を確保していく必要があるだろう。さらにここに加えて、職員確保の課題、そのために職員が辞めない職場環境づくりが加わってくるのだから、管理者が考えなければならないことは山ほどある。頭の痛いところである。

ところで制度改正と報酬改定は、厳密に言えば同じことではないが、両者は密接にリンクしており、特に変更時期が同じ際には、両方を考える必要があるので、制度改正の骨格をしっかりつかみながら、報酬算定の新ルールを見ていく必要がある。このことを正確に理解するためには、今までの様々なルール変更の流れをつかんでおくことが重要になる。

そもそも現行の制度構造や報酬算定構造を知らずして、あたらしい制度の骨格理解や報酬算定ルールを理解することは不可能である。

ところが現状を理解していない人が結構おられる。それも施設経営・運営の責任者である施設長にもそういうような人が混じっており、大丈夫だろうかと思ってしまったりする。そういう人は、よほどしっかりした信頼できる部下がいるということか?そうであっても、施設長が制度に対する理解がないというのは、経営上は大きなリスクだろう。

制度改正や報酬改定に関する講演機会も多くなっているが、僕の説明は「わかりやすい」はずである。少なくとも厚生労働省の方が、国の作成したファイルを使って行う制度改正論や報酬改定の説明より、僕の方が利用者や家族の視点を取り入れたり、介護サービス事業者からみた算定ルールの方法や注意点を説明できるという意味では、間違いなく「わかりやすい」はずである。その僕の話の内容を理解できないレベルであれば、かなりヤバイと言えるのである。

とにもかくにも、一度僕の話を聴いて、あらためて今回の大改正・大減額の現状と課題を認識していただきたい。

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