今年は、太平洋戦争の終戦から70年目を迎える年だそうである。

終戦の日は1945年(昭和15年)8月15日。実際の戦闘行為はその後も続いていたが、その日が終戦記念日とされている。

僕がこの世に生を受けたのは、それからちょうど15年後、1960年(昭和35年)8月12日である。その当時の日本は高度経済成長期の真っただ中であった。
《※1955(昭和30年)年〜73年(昭48年)あたりまでが高度経済成長期と呼ばれている。》

終戦からわずか15年後に生まれた僕ではあるが、その当時の日本は、戦争の爪痕はすでになく、戦火のにおいも感じず、戦争とは知らない国の遠くの出来事でしかなかった。そういう平和の国に生まれ、平和の国で過ごし、戦火におびえることもなく、「戦争を知らない子供たち」というフォークソングを口づさみながら若き日を過ごし、大人の階段を昇ってきた。

テレビの映像や、新聞や雑誌の写真で戦時下の日本の様子を見たり、外国で行われている戦争の報道に接していても、それは決して自身の身に降りかかるような問題として考えることはできなかった。

今現在もなお、世界のどこかで悲惨な戦争が続いており、同胞である日本人が、過激テロ組織によって無残に殺害されている事実を目の当たりにし、そのことに憤りを覚え、哀しい気持ちに沈んだとしても、戦争そのものを現実世界のものとして直視する感覚にはなりにくいというのが本音である。

少なくとも自分自身の身を、悲惨な戦争の中において考えることなく年を重ねてきた。戦火の恐怖とは何かさえわからない場所に身を置いて過ごしてきた。それは非常に幸運なことで、恵まれた環境なのだと思う。

しかし遠い外国ではなく、僕らが暮らすこの日本で過ごす人の中には、1941年12月 8日の真珠湾攻撃から始まり、1945年8月15日の玉音放送までの3年9ケ月を戦火におびえて過ごしてきた人々がいる。しかも我々が職業としている保健・医療・福祉・医療サービスの場では、あの戦争を生き抜いてきた人々が高齢期を迎え、我々の支援の手を必要としているのである。

介護施設や介護サービス事業所で職を得ている人々は、もう一度そこでサービスを使っている人の生年月日と年齢を確認してほしい。高齢者介護の場では、サービスを利用している人々の平均年齢が80歳代の後半になっているのではないだろうか。サービスを利用する人も後期高齢者と呼ばれる75歳以上の人が多数派となっているのではないのだろうか。

今年75歳の人なら、生まれたときにすでに戦争が始まっていて、食べるものや着るものに事欠く中で命をつなぎ、5歳の時にやっと戦争が終わったわけである。今年85歳の人は、すでに物心がつき食べ盛りの時代に、あの戦争がはじまり、15歳の多感な時期まで戦争が続いたわけである。

そこでは出征していった身内の死が日常的に存在していただろう。父や夫や子や孫を失った人々の哀しみが日常的に存在していたであろう。終戦が近づいた昭和20年には、すでに日本全域の制空権は米軍に奪われていたので、日常的な空襲におびえて過ごしたことだろう。北海道でも終戦のわずか1月前に、北海道大空襲があり、ここ登別の隣の室蘭が最大の被害を受けている。(参照:理念の原点

当時の苦しみ哀しみを手紙に綴ってくれた方もいる。(参照:トシさんの戦争体験

しかしこうした体験談を語ってくれる方は実に少ない。記憶を失っていない方で、意思疎通に問題のない方も、その時期のことを語ってくれることはほとんどない。それは、戦時下の記憶とは、振り返って語ることができないほど、辛く哀しい記憶であるという意味ではないのだろうか。

私たちは、そうした辛い経験を持った人がたくさん居られる場所で、対人援助サービスという職業に携わっている。辛く哀しい経験を経てきた人々の最晩年期に職業を通じて関わっている。そうした人々が、あの悲惨な戦争の時期を生き抜き、戦火の消えた日本の復興のために懸命に働き、平和な国を護ってくれたのである。

我々が少しだけ手を差し伸べることで、それらの人々が幸福に高齢期を過ごし、この国に生まれてよかったと思いながら人生を全うするのか、こんなに辛い思いをするのなら、あの時死んでしまえばよかったと思うのか、その分かれ道は我々の考え方ひとつにかかっているのかもしれない。そうであれば我々の責任は決して軽いものではない。そこに使命感をもって職務に従事したいと思う。

生まれ変わって、またこの国に生まれたいと思える日本。そんな国にするために、介護現場から発信できることがあることを信じて、生まれてよかったと思える人生をサポートする介護を創っていくことが与えられた使命である。その誇りを胸に、日々の職務に従事する仲間とともに歩んでいきたい。

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