平成24年度の介護保険制度改正では、先行して高齢者住まい法の改正が行われ、サービス付き高齢者向け住宅が創設された。
その意味は、日常生活や介護に不安を抱く「高齢単身・夫婦のみ世帯」が、特別養護老人ホームなどの施設への入所ではなく、住み慣れた地域で安心して暮らすことを可能とするよう、新たに創設される「サービス付き高齢者住宅」(高齢者住まい法:国土交通省・厚生労働省共管)に、24時間対応の「定期巡回・随時対応サービス」(介護保険法:厚生労働省)などの介護サービスを組み合わせた仕組みの普及を図る、というものであった。
つまり国が推奨する、「地域包括ケアシステム」の中心にサ高住を位置づけ、地域のサービス提供拠点とする考え方があったわけである。その普及を図るために補助金も優遇されてつけられた。
そのイメージ図が下記の「サービス付き高齢者住宅と介護保険の連携イメージ」である。

ここに記されているように、サ高住に診療所、訪問看護ステーション、ヘルパーステーション、デイサービスセンター、定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスなどの事業所が併設され、そこを拠点にしてサービス展開するというイメージ図が、全国各地の研修資料としても使われていた。関係者にとってはなじみ深いイメージ図であったろう。
その際に新設された、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」については、地域包括ケアシステムの基礎的サービスと位置づけられ、その普及が促進されたが、「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)」では以下のような規定が設けられた。
(4)運営基準の8「地域との連携」
「4 指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業者は、指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所の所在する建物と同一の建物に居住する利用者に対し、指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護を提供する場合にあっては、当該住居に居住する利用者以外の者に対し指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護の提供を行うよう努めるものとする。」
↑つまり定期巡回。随時対応型訪問介護看護が併設する同一建物以外への24時間巡回サービスは努力目標とされ義務化されなかったわけである。もともと介護サービス併設型のサ高住は、一つの事業者が高齢者住宅と訪問介護等の介護サービスを一体的に提供することで、全体として利益がでるように組み立てらたサービスであるが、この規定で実質地域巡回が義務化されなかったことによって、もっとも効率的に利益を上げるスタイルは、サ高住のみのサービス提供を行う形であるために、地域を巡回しないサービス付き高齢者向け住宅内だけのサービスしか提供しない定期巡回。随時対応型訪問介護看護が出現したわけである。
そして全国各地にサ高住が建設され、その多くの住宅では介護サービス事業所を併設している。25年7月の実態調査では、訪問介護事業所など、介護保険サービスの事業所を1つ以上併設しているサ高住は82.0%(診療所・配食サービスは含まない)に達している。
そうした中で、サ高住の家賃や管理費、食事・安否確認、相談援助などの利用料を安く設定することによって入居者を集め、その差額を併設した訪問介護や通所介護の利用推進、また系列や提携した医療機関からの訪問診療の紹介料などで利益を出すという、「囲い込みモデル」が問題が表面化した。
サ高住に住宅扶助の範囲内の家賃設定で生活保護受給者を中心に集めて、公費で使える介護サービスを限度額まで使い切る「貧困ビジネス」も問題になっている。
このためサ高住に向ける国の目も厳しものになりつつある。
現在、訪問介護、訪問入浴介護、夜間対応型訪問介護、訪問看護及び訪問リハビリテーションと小規模多機能居宅介護については、事業所と一体的な集合住宅に居住する一定数以上の利用者に対してサービスを提供する場合に減算する仕組みとなっているが,事業所と集合住宅が一体的な建築物に限っていること等についてどのように考えるかが議論された。
また定期巡回・随時対応型訪問介護看護と複合型サービスについては、集合住宅への減算の仕組みが設けられていないが、サービスの提供実態を踏まえ、そのことをどのように考えるかも議論された。
その結果本年4月以降は、訪問介護、訪問入浴介護、夜間対応型訪問介護、訪問看護及び訪問リハビリテ
ーションについてつぎの減算ルールが設けられた。
(ア) 事業所と同一敷地内又は隣接する敷地内の建物(養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅に限る。)に居住する利用者を訪問する場合は、当該建物に居住する人数に関わらず、当該利用者に対する報酬を減算する。
(イ) 事業所と同一建物以外の建物(建物の定義は同上)に居住する利用者を訪問する場合は、当該建物に居住する利用者が一定数以上であるものについて、新たに減算する。
定期巡回・随時対応型訪問介護看護における集合住宅におけるサービス提供については、事業所と同一敷地内又は隣接する敷地内の建物(養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅に限る。)に居住する利用者の介護報酬を新たに減算する仕組みを設ける。
小規模多機能型居宅介護及び複合型サービスについては、サービスの提供実態を踏まえ、事業所と同一建物(養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅に限る。)に居住する利用者に対してサービスを行う場合の基本報酬を設定する。(筆者注:基本報酬を下げるという意味だろう。)
このように24年度改正の折に示された上のイメージ図の通り、サ高住に併設されたサービス事業所から、併設サ高住に提供するサービスについては、居住人数およびサービス利用人数にかかわらず減算ということになるわけである。
併設事業所を持つサ高住にしてみれば、いきなり国から梯子を外されたということになるのかもしれない。
なお事業所と同一建物以外の養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅に居住する利用者が一定数以上であるものについての減算は、その人数が何人で、減算適用が何人目からなのかは不明である。ここは2/6に明らかになるだろう。
どちらにしても、「ケアと住まいが分離しているサ高住」こそ、地域包括ケアシステムの中心となるとして、一時は華やかに持ち上げられたサ高住であるが、実際には厳しい現実の中で、勝ち組と負け組の差が生じ、市場原理の中で淘汰が進んでいくのではないだろうか。
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