我が国における2030年の年間死者数は、1.597千人と推計されている。これは2010年の年間死者数1.192千人より40万人以上死者数が増えるという数字である。
現在我が国では、死者の8割以上が医療機関で亡くなっている。しかし今後は医療機関のベッド数は増えないので、増加する40万人以上の人が、どこで最期の時を過ごすのかが問題となっており、「看取り介護の場、ターミナルケアを受けることができる場所」の確保が緊急の課題とされている。
このため4月からの介護保険制度改正・報酬改定でも、医療機関以外で亡くなる方を支援する方向の考え方が示されており、小規模多機能居宅介護に「看取り介護加算」が新設されるほか、全体の介護報酬が下がる中で、特養・特定施設・グループホームの「看取り介護加算」は増額されることになっている。(老健のターミナルケア加算も同様)
これは減額された報酬分を補う費用にはならないが、特養等の介護施設や特定施設、グループホーム、居宅サービス全体に求められる社会的使命といえ、特に生活の場である特養は、終生施設として、看取り介護の機能を備えているのが当然との考え方から、新たな看取り介護加算の要件をクリアする運営体制を整え、質の高い看取り介護を実施できる施設としていくことが、地域包括ケアシステムの一翼を担うために求められる。
一昨年、地域包括ケア研究会による「地域包括ケアシステムにおける今後の討のための論点」という報告書の中には、次のような指摘事項が記されている。
・毎日、誰かが訪問してきて様子は見ているが、翌日になったら一人で亡くなっていたといった最期も珍しいことではなくなるだろう。
・常に「家族に見守られながら自宅で亡くなる」わけではないことを、それぞれの住民が理解した上で在宅生活を選択する必要がある。
これは死の瞬間を誰からも看取られることなく迎えるケースは確実に増えることを示した指摘事項であるが、同時にそれは、孤独死はゼロにならなくとも、周囲の支援があることによってできるだけ早く亡くなられた隣人を発見できる地域の体制も、地域包括ケアシステムとして考えられてよいのではないかという意味でもある。
少子高齢社会の中で家族単位が縮小し、親類縁者も近隣に存在しないという人が増える中で、地域の中で孤立死をさせない地域システムを考える場合に、新聞配達員や乳酸飲料配達員が重要な地域資源になる可能性が高くなるだろう。そして隣人の存在を、腐臭によって初めて知るような地域社会にしないという意識が、地域住民全体に求められてくるだろうし、対人援助の専門家やチームには、孤独死を発見するという観点から、地域に積極的にアウトリーチしていくという意識がより求められるであろう。
そんな状況下で、暮らしとケアが分離していない特養だからこそできることがある。そこでは生活の継続性を維持したまま、住み慣れた場所で、慣れ親しんだ介護のプロによって、最期の瞬間まで孤独を感じることなく過ごすことができるための看取り介護の実践が求められてくるのだ。
高齢者介護にかかわる専門職には、誰かの人生の最晩年期に関わるという責任があり、それは誰かの人生の幸福度に、決定的な影響を及ぼしかねないという責任でもある。そういう意味では、すべての介護サービス従事者が「看取り介護」を関わりの延長線上に置いて考える必要があるのではないだろうか。なぜなら「看取り介護」とは、特別な介護ではなく、日常介護の延長線上に存在するもので、人生の最期を安全・安心に支援するという意味でしかなく、看取り介護に対する正しい理解があれば、特別な援助技術であると考える必要はないからである。
当施設の看取り介護の開始から終了までの流れは以下の通りである。
・看取り介護計画の同意を得て、看取り介護開始決定
・相談室より各セクションに連絡
・看取り介護計画に沿った看取り介護の実施
・毎朝の朝礼時に、看取り介護対象者の状態の報告と、訪室の促しを担当者より行う
・看取り介護終了(死亡)〜看取り介護終了後カンファレンスに向け、各セクションで課題・評価の記録を行うように連絡
・指定日までに各セクションは、PCの共有ファイル上の書式に課題と評価を入力
・看取り介護終了後カンファレンス〜ケアマネジャーは全体の課題・評価をまとめ、報告書作成
今後は新しい看取り介護の算定要件に合せて、この過程を少し修正していく予定である。特にPDCAサイクルの構築を急ぐ予定である。(参照:看取り介護加算のPDCAサイクルを考える)
看取り介護とは、人生の最終ステージにおいて「生きる」という姿をいかに支えるか、という意味がある。そこでは看取り介護対象者が、最期の瞬間まで安心して安楽に過ごすことができる支援でなければならない。
「誰かの赤い花になることができる看取り介護」を合言葉に、その方法論を常にチェックしながら支援に当たっていく必要があるだろう。この大事な介護を避けるようなことがあってはならないのである。
先日もある地域の方から、「これまでも看取り・ターミナルケアの研修会はございましたが、介護現場の方々が求める核心に今一つ触れられていない気がして、もやもやしたものを抱えておりました。そのような時、先生のブログを拝見し、ここに答えがある、ぜひ〇〇〇の介護力、質の向上にお力をお貸しいただきたいと思いました。」という看取り講演依頼メールをいただいた。
このブログがそのような評価につながっていることは非常にありがたいことである。そして僕の実践論がそれらの方々のお役にたつのであれば、看取り介護講演という形での協力は惜しまないつもりである。
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