介護報酬の改定に際しては、改定前年の介護事業経営実態調査(厚生労働省)の数値が重視されている。

この数字が介護事業経営の実態を表すものかどうかについては大きな疑問があり、例えば2014年度の同調査で特養の収支差率は8.7%とされたが、全国老施協の調査では収支差率4.3%(国庫補助金等特別積立金取崩額を除けば0%)であり、その数値は大きくかけ離れている。

この時、どちらのデータに信頼性が置けるのだろうか?常識的に考えれば、調査時期を決算後の特定時期に絞ってサンプル数が圧倒的に多い全国老施協の調査結果の方が、調査時期がバラバラで、サンプル数も少ない厚労省の調査より信頼性が高いと言えるのではないだろうか。

しかしながらそうした実態を無視して、乱暴な特養たたきと報酬減算が行われたわけである。

それはともかくとして、厚生労働省の経営実態調査においては、調査開始以来ずっと収支差率がマイナスの事業が存在する。それは居宅介護支援事業である。

2000年の制度開始以来、経営実態調査の収支差率が一度もプラスになったことがない事業が存続しうるというのもすごいことであるが、それに対して報酬を手厚くしない国の姿勢もどうかしていると思うのは僕だけだろうか。

この背景を考えるときに見逃してはならない通知文が、老企22号通知の、2 人員に関する基準(1)介護支援専門員の員数である。ここでは次のような文言が載せられている。

「介護支援専門員については、他の業務との兼務を認められているところであるが、これは、居宅介護支援の事業が、指定居宅サービス等の実態を知悉する者により併せて行われることが効果的であるとされる場合もあることに配慮したものである。」

つまり介護支援専門員は、居宅介護支援事業のみで報酬を獲得するのではなく、他の業務を兼ねてそちらの報酬を得ることが可能であり、それらをすべて含めて居宅介護支援事業の経営が可能となる理屈が一つ存在するのだろう。

同時に国は、介護支援専門員一人のみの事業所については、その担当者が怪我や病気で業務に就けなくなることに懸念を示しており、複数の介護支援専門員は配置されている居宅介護支援事業所を評価している。それが特定事業所加算の要件にもなっており、居宅介護支援事業単独での安定経営は、特定事業所加算算定事業となることで担保させようとしているのだろうと推察する。

さてその居宅介護支援の基準と報酬見直しの内容を振り返ってみよう。

平成27年度介護報酬改定に関する審議報告が出る直前の介護給付費分科会の議論では、福祉用具単品のサービス計画の場合は、計画作成等の手間がかかっていないのだから福祉用具貸与しか計画されていない利用者の居宅介護支援費については、減額する方向で話し合われていた。ところが報告書では、この方針があっさり覆され、福祉用具のみのプラン減額は取りやめとなっている。これは収支差率14年連続マイナスの影響だろうか?

認知症加算及び独居高齢者加算については、個人の心身の状況や家族の状況等に応じたケアマネジメントの提供であり、介護支援専門員の基本の業務であることを踏まえ、加算による評価ではなく、基本報酬への包括化により評価するとされた。この意味は、もともと認知症の人や、独居の人に対する適切なアセスメントを行うというのが居宅介護支援事業所の介護支援専門員の本来業務であり、求められる能力なのだから、それができない介護支援専門員がいるはずはないのだから(あるいは、いては困るのだから)その部分の報酬は加算ではなく包括化するというわけである。

これにより基本サービス費が引き上げられるのであろうから、そのことには文句はないが、もともと認知症加算及び独居高齢者加算については、ケアマネジメントの質確保のために、居宅介護支援の報酬全体を引き上げるのではなく、ケアマネジメントのアウトカム評価の仕組みを作る必要があるとして創られたものだという経緯を無視しているような気がしてならない。認知症加算及び独居高齢者加算については、認知症のない人や、同居の家族によるインフォーマル支援のある人のプランよりン「認知症の人や独居の人は、計画作成の際に工夫や専門知識がより必要で、なおかつ独居である、認知症であるという判断は、客観的にできるということから、基本報酬と区分できる費用として、加算評価することとしたものである。そうした過去の議論をすべてなしにして、それはもともとケアマネの業務でしょうという理屈には、過去の議論を無視しているという違和感を覚える。

訪問介護・通所介護・福祉用具貸与の福祉系3サービスに限っていた特定事業所集中減算は、「限定を外す」としており全サービスに対象拡大し、サービスの偏りの割合が90%以上である場合について減算を適用している割合を引き下げる方向で見直すこととしている。(短期入所にも適用される方向であろうと理解している。)

もともとこの減算が福祉系3サービスに限られて適用されていること自体がおかしいのである。その裏事情はあえてここでは触れないが、かねてよりその問題は指摘し続けている。(参照:特定事業所集中減算の問題 ・ パブリックコメントは国のアリバイ作り? ・ 日本介護〇〇〇〇〇協会は医療系利益団体にしか過ぎない、と思う。

もともと福祉系3サービスだけがなぜこの減算対象になるのかという明確な理由を、国は今まで一度も説明してこなかった。本来であればこの減算は、「囲い込み」を防ぐためのルールだから、通所リハビリや訪問看護、訪問リハビリテーションの提供事業所を、母体医療機関の併設事業所に限定させ、利用者を囲い込むことが問題とされていたという経緯を考えると、医療系サービスを除く理由がないはずだ。そう考えると特定事業所集中減算の対象サービスが、福祉系3サービスにこ限定されている意味は、特定事業所加算を新設した際の、プラスマイナスを相殺する取引として、人身御供にされた可能性が高いという意味である。(どの職能団体が、国と取引したテーブルの席についていたのかは想像に難くないが・・・。)その取引のほとぼりもさめたこの時期、この減算を適用しないという形で、医療系サービスの梯子も外されたというわけである。この減算が今後も必要であるとするならば、このことは極めて当然のことだろう。

その他、介護予防支援については、「介護予防・日常生活支援総合事業」の導入に伴い、介護予防サービス計画は、指定事業所により提供されるサービスと、多様な主体により多様なサービス形態で提供される新総合事
業のサービスを位置づけることを踏まえ、報酬は引き上げられることになっている。

また特定事業所加算については3区分として、主任介護支援専門員などの人員配置要件を強化するとしている。また、法定研修等における実習受入事業所となるなど人材育成に関する協力体制を整備している場合を算定要件に追加するほか、当該加算の算定要件のうち、中重度者の利用者が占める割合については、実態に即して緩和するとされている。

運営基準の見直しについては、居宅介護支援事業所と指定居宅サービス等の事業所の意識の共有を図る観点から、介護支援専門員は、居宅サービス計画に位置づけた指定居宅サービス等の担当者から個別サービス計画の提出を求めることとする規定が追加される。

現行の法令ルールでは、居宅介護支援事業所の介護支援専門員が居宅サービス計画を立案した場合、省令第三十八号第十三条十一で、「介護支援専門員は、居宅サービス計画を作成した際には、当該居宅サービス計画を利用者及び担当者に交付しなければならない。」と規定されていることから、居宅サービス計画に位置付けた居宅サービス事業所の担当者への居宅サービス計画書交付義務がある。

一方、「居宅サービス計画が作成されている場合は、当該計画の内容に沿って作成しなければならない」という法令規定がある個別サービス計画については、例えば訪問介護計画を例にとると、省令第三十七号第二十四条4において、「サービス提供責任者は、訪問介護計画を作成した際には、当該訪問介護計画を利用者に交付しなければならない。」としているだけで、居宅介護支援事業所の計画担当介護支援専門員には交付する義務がないのである。これは他のすべての個別サービス計画に共通するルールである。

このことから、今回の改正では交付義務のない訪問介護計画、通所介護計画等の個別サービス計画について、居宅介護支援事業所の介護支援専門員に、提出させる権限を与える運営基準改正を行うというものだ。なぜ居宅サービス事業所の省令を変更して、計画担当者への交付義務とせず、居宅介護支援事業者に提出命令の権限を与えたのかは疑問ののころことである。これにより自分が偉くなったと勘違いする介護支援専門員が出てこないことを祈るのみである。

地域ケア会議において、個別のケアマネジメントの事例の提供の求めがあった場合には、これに協力するよう努めることとする基準改正も行われるが、地域ケア会議で検討されるのは、居宅サービス計画のみならず、施設サービス計画もその対象となるのだから、この基準改正は施設にも加えられなければならないと思うが、施設基準の改正点には、その文言が今のところ出ていない。今後の確認が必要とされる部分であろう。

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