介護保険制度改正が何のために行われるのかと問われるとしたら、その答えは「制度の持続可能性を担保するため」になるのではないだろうか。
制度が続くための一番の問題は、65歳以上の一号被保険者の保険料月額がいくらまでなら負担可能なのかということである。そして介護保険事業計画第5期に向けた2012年の制度改正の際、厚生労働省老健局内で一番苦心したのは、平均保険料月額を5.000円以内に抑えるということだったと思う。
そのため2012年度に限定した形で、都道府県が財政安定化基金の一部を取り崩し、保険料上昇の緩和に充てることができる特例規定が設けられた。この取り崩しと、市町村の介護給付費準備基金の取り崩しで、保険料軽減効果が月額244円あったとされる。しかしそれでも第5期(2012年4月〜2015年3月)の1号被保険者の平均保険料月額は、第4期4.160円から、全国平均で月額4.927円と、19.5%の大幅アップとなった。しかも2013年と2014年は、すでに全国平均の保険料月額は5.000円を超えているわけである。
このまま給付が膨らみ、月額負担金額が1万円を超えるようになれば、介護保険制度は持たないという考えから、団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年位向けて、介護保険料の全国平均月額を8.200円程度に抑えるために介護保険制度改正が2012年に続いて3年前倒しで行われたのである。
それでも保険料の上昇は抑えられないわけで、第6期の保険料のアップは利用者に重くのしかかるとして、特に低所得者の救済が必要とされ、下記の図のように、保険料の標準6段階から標準9段階への見直しを行い、負担軽減割合も新第1段階で7割軽減まで拡大するという見直しが検討されていた。

この軽減を行うために必要な費用は1.300億円であるが、この部分については別枠公費で負担することにしていた。これにより保険料と公費5:5の負担割合で運営されていた介護保険制度の原則が事実上崩されるわけである。
その理由は、軽減対象者の負担軽減策を今まで通りの財源方式で行う場合、そのために軽減対象者ではない被保険者の保険料がアップしてしまうという矛盾が生ずるからである。軽減対象外の被保険者の保険料をアップさせない方法で、軽減対象範囲を広げ、軽減割合を増加させようとすれば、別枠で公費を投入するしか方法がなかったわけである。
この「別枠公費」1.300億円分は、消費税が8%から10%にアップする分を財源と考えていたところであり、上の図でいえば赤く示された部分に投入される予定であった。ところが消費税の10%へのアップが先送りされたことから財源が失われ、この軽減見直しの完全実施ができなくなった。そして2015年4月からの見直しについては、この別枠公費は200億円程度に圧縮し、見直し予定の一部のみを実施することとされた。
具体的には、「世帯全員が非課税で、本人の年金収入が120万円超など」で、現在の軽減率25%を30%に拡大する予定と、「世帯全員が非課税で、本人の年金収入が120万円以下など」で、現在の軽減率25%を50%に拡大する予定については、軽減拡大が見送られ現行通りとされた。
「世帯全員が非課税で、本人の年金収入が80万円以下など」で、現在の軽減率50%を70%に拡大する予定については、軽減率拡大を55%に圧縮したうえで実施されることになった。
見送りになった部分の完全実施については、消費税が増税された際に実施される予定である。
ところでこの別枠公費の投入は、今後の介護保険制度の持続可能性を論ずる上で、重大な原則変更になるのではないかと考える。今回の制度改正では利用者の2割負担、補足給付対象者の見直しなどの負担増が行われたが、2号保険料の総報酬割などは議論されなかった。
しかし今後の財源を考えた場合、いつかの時点で2号被保険料の総人数割りから総報酬割への変更は必要だと思う。
(※現在の2号保険料負担額は、それぞれの健保組合に所属する加入者(被保険者+被扶養者)の数によって決まっている。よって加入者数だけで組合が負担する介護保険料を決めるこのやり方では、収入が低い人が多く所属し、財政力が弱い組合は、苦しい運営を強いられることとなる。このため財政力の低い健保に対し国庫補助分が支出されている。一方、組合の総報酬額の多寡に合わせて負担の額を変動させる総報酬割であれば、収入の多い人が多数所属する健保組合の負担額は増えるが、財政力が弱い組合は、それに見合った負担をすればよく、公費負担で援助する必要はなくなる。つまり総報酬割の1番のメリットは、国庫補助分の公費支出が必要なくなることで、例えば第2号保険料をすべて総報酬割とすれば、1000億円を超える国費が捻出できる計算になる。)
それでも今後の少子高齢化を考えれば(別枠公費を除いた)公費5:保険料5で制度を維持し続けるのは難しくなるのではないだろうか。その時に別枠公費で原則を崩した前例を橋頭堡に、公費負担割合の増加が議論される必要が生ずるだろう。当然その際の財源は、別に必要になるわけであり、消費税が10%になった後に、15%とか20%とかが論じされる根拠として、介護保険制度維持のための公費投入割合の増加が唱えられるのではないだろうか。
そういう意味でも、今回の別枠公費投入という意味は大きな意味を持つと考えるのである。
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