次期介護報酬は、H15年度の―2.3%の最大引き下げ率を「若干」下回る−2.27%で決着した。

しかしこれによって収支差率が高いとされる特養や通所介護は、全体の中でさらなるマイナス査定となり、特養の処遇改善加算を除く本体報酬は、マイナス4.5%という数字も示されており非常に厳しい状況である。
(地域区分の、その他の地域については、区分変更によるマイナスがここに加わってくる。)

そもそも厚労省の経営実態調査は諸団体の調査とずいぶん違いがあるにもかかわらず、その数字と一部で声高く唱えられている内部留保金平均3億円という実態のない数字のみを根拠にした報酬削減は経営実態を反映しておらず、頑張って高品質サービスと、職員の待遇向上に努めている事業者ほどダメージを受けるという、まったく納得のいかない報酬削減策である。
(※全国老施協の情報によると、内部留保について財務省予算執行調査で2500万円から5億円まで差があり、実態が不明瞭で調査中とのことである。)

処遇改善加算は+1.65%とし、1万2千円の給与アップが見込まれるとはいっても、加算の対象となる職員は介護職員だけである。同じく人手不足が深刻化している看護職員・介護支援専門員を含めた相談援助職員・調理員などの給与改善は、引き下げられた本体報酬の中で実施しなければならない。これは非常に厳しい。単年度で赤字経営の特養が増えるだろう。

その時、そうした法人で短期的に給与がアップしたとしても、安心して働き続ける動機づけを職員が持つことができるかを考えたとき、それは離職要素にしかならないと思う。処遇改善加算はアップさせているのだから、今回の改定は介護サービスの現場の人手不足の要因にはならないと考える方が間違っていると思う。

特養の内部留保金3億円という数字の実態も検証されることなく(この数字自体、誤った数字であると考える:現金をともなわない額面上の数値が積みあがっていることなどがその理由)、なぜ繰越金を出す必要があるのか、それがどのような方法で繰越金として計上されているのか、という実態を精査することもなく、不必要で不正な蓄財のごとき決めつけはあまりにも乱暴すぎると思う。

何度も主張しているが、内部留保と呼ばれる繰越金を出さない方法は簡単である。繰越金処理をしないで、年度末に役員報酬を支給したり、施設経営者の給与として支給したりすれば良いだけの話だ。

しかし実際には、法人役員の報酬はゼロで運営している社会福祉法人が大多数である。(当法人も役員報酬は支給していない。みな手弁当で役員を務めている)。施設経営者の年棒も1千万円を超えるような施設はほとんどないだろう。社会福祉法人の場合は、給料表を国家公務員準拠で作っている法人が多いため、国家公務員の一般職の課長レベルの給与である施設長が多く、場合によっては経験年数の長い看護職員より低い給与の施設長だっているはずだ。職員の給与を含めた待遇を低下させて、職員から不当に搾取して繰越金を計上しているわけではないのだ。

そうした状況で繰越金を出すのにはそれなりに理由があって、施設などの箱モノの維持管理に必要な経費は、すべて国の補助金でそれが賄えるという事実はなく、法人の持ち出しでメンテナンスを行い、しかるべき時期に建て替えを行って初めて、安定した施設サービスの提供ができるわけである。そのために資金を繰越金処理しているだけである。現に当施設も平成11年の増改築時に、それまでの繰越金の9割を取り崩しており、長いスパンで見れば内部留保金と呼ばれる繰越金は、社会に還元されているのである。さらに言えば、内部留保金と呼ばれる費用の中には、実際には2月後れで支払われる介護給付費であるがゆえに、留保している資金ではなく、2月分の運営費が含まれているという実態がある。このことが議論されていないのはどうしてだろうか?

社会福祉法人と民間営利企業との収支差率の比較で、社会福祉法人がもうけ過ぎだという論調があるが、営利企業は、単年度利益の多くを役職員の給与として支払って、経営者が何千万という収入を得て、それを除いた収支率が計上されているのだから、それとの比較で社会福祉法人がもうけ過ぎだという論理は、とんでもない論理だということになる。そもそもベースとなる費用に大きな金額差があるのだから、同じ1%であっても、金額は大きく違うわけである。このおかしさに気付かず、国の偏った批判に同調する世論が形成されているのは恥ずべきことだと思う。

介護報酬は3年間変わらない。そして施設サービスの場合、医療機関の外来部門のように出来高で計上できる収益部門があるわけではなく、基本的には定員に応じた報酬総額は上限がある。(ショートも定員があり実質この状況に変わりはない)。そのため安定経営のために単年度赤字を出さないようにと考えて、なおかつ定期昇給などの適切な職員待遇を確保するためには、報酬改定の初年度から報酬上限までの支出をするわけにはいかない。3年後にも定期昇給ができるように報酬改定初年度からある程度の繰越金を発生させなければ安定経営が脅かされることになる。つまり報酬改定の1〜2年目には必ず繰越金を発生させなければ職員待遇を改善できないわけだ。内部留保とはそういう資金も含まれているのである。

この構造が、今回の報酬減額で崩れて繰越金を取り崩しながら3年間を運営しなければならず、さらに3年後の報酬改定時に報酬増が見込まれるという保障がない以上、きわめてその先行きは暗いと考える経営者や職員が多くなるだろう。上がるという処遇改善加算にしても、1年目でマックスの算定をしても、その状況では2年目以降それ以上給与を改善することは難しいという簡単な理屈になる。1年目だけ給与があがるのが何が待遇改善なのか。そういう職場に人材は張り付いてくるのだろうか?あり得ないことだと思う。

介護サービスは、国民の命と暮らしを護るために必要不可欠なサービスである。高齢化率がますます上昇する我が国において、それは全ての国民にとってのセーフティネットである。そのネットがモグラたたきのように、収支差率が高いと国が決めつけたサービスからたたきつぶされていく。これで本当に国民を護ることができるというのだろうか。

重ねて言う。介護給付費が上がるからと言って、特養の施設長の給与が上がるわけではない。それによって個人の懐具合が暖かくなるわけではないのである。それにも関わらず介護給付費のプラス改定を必要とするのは、そこでサービスを提供する職員と、サービスを利用する入所利用者の暮らしを護るためにほかならない。

それが否定される報酬改定が続けば、この国の介護は間違いなく崩壊するであろう。

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