僕が就職した当時、昭和50年代の後半は、まだ要介護認定というものがなかったし、障害高齢者の日常生活自立度という尺度もなく、身の回りの支援が必要とされる高齢者が、特養に入所するのか、養護老人ホームに入所するのかという判断基準の重要な目安に、「自分で布団を敷いたり、たたんだりできるか。」ということがあった。

養護老人ホームは、その時代ベッドを設置しているところはほとんどなく、和室・雑居・布団という生活であり、それに比べて特養はすべてベッドであったから、布団の上げ下ろしが重要視されたという経緯がある。

現在では養護老人ホームも、多くがベッドを当たり前に設置し、そこで寝るという生活スタイルになっているので、この判断基準もなくなりつつある。それだけ養護老人ホームの利用者も高齢化し、状態像も重度化しているという意味である。

特養も同じことが言えて、当時そのような判断基準があったという意味は、布団の上げおろしはできないけれど、それ以外の日常生活行為は自立しているという高齢者も、特養の入所対象になっていたという側面がある。

しかし当時存在していた「特養内で身の回りの支援がほとんど必要ない高齢者」というような状態の人はいなくなっており、要介護3以上の中・重度介護者が全体の8割以上に上り、要介護2以下の人も認知症の症状がある人が多くなっている。

当然のことながら、判断能力の低下した高齢者の方が数多く特養に入所しているのだから、成年後見人が専任されている人も増え続けている。

後見人は弁護士や司法書士などが専任されている場合もあるが、多数派は家族後見である。しかし家族は後見制度のすべてに精通しているわけではなく、後見人として当然行わねばならない代理行為の理解に欠けていたり、後見人の代理行為の範囲を超える行為を行おうとしてトラブルになることもある。この場合、法律に基づいたルールの説明が必要となるが、介護施設の管理者や職員にその知識がすべて備わっているわけではないし、仮に備わっていても、信用してもらえないという問題もある。

また介護施設の場合、高齢化が進行し重度化が進行した先に、看取り介護の場として、そこで亡くなる利用者が増えているという実情があり、このこと自体は介護保険施設に求められる責務となっているが、そうであるがゆえに、本来は相続とは関係のない問題であるはずの、遺留金品の引き渡しを巡って、遺族間のトラブルに巻き込まれたり、身寄りのない方の遺留金品処理や葬祭執行について、法的判断を迫られることも多くなっている。
(なお、身寄りのない施設利用者の対応は、こちらを参照ください。)

地域包括ケアシステムは、保健・医療・福祉・介護の専門家の多職種協働と連携が必要であるとされているが、そもそもそこで支援を必要とする人々は、地域住民として暮らしを営んでいるわけで、その暮らしの課題とは、保健・医療・福祉・介護の専門知識の範囲だけで解決する問題とは限らない。むしろそこには様々な法律に関連する問題があり、法律の適用範囲やルールを知るだけで課題解決につながる問題も多いはずである。

そうであるがゆえに、我々のソーシャルアクションやソーシャルワークの展開過程において、法律の専門家の助言指導が得られる方法があれば、非常に助かるわけであるが、実際にはそのことは簡単ではない。対人援助の専門家と法律の専門家がタッグを組んでいる例は非常に珍しいというのが現状ではないか。

しかしそうした法律の専門家と、保健・医療・福祉・介護の専門家が、「顔の見える関係」にとどまらず、意見を言い合える関係を創るという取り組みを行っている人々がいる。

福岡県福岡市で法律事務所を構える、篠木潔氏が今年1月に介護支援専門員と弁護士の連携モデルを構築しようと立ち上げた勉強会、「ケアマネゼミ・チーム篠木」という活動がある。このゼミは、ケアマネ専門の勉強会であり、参加費用は無料で、参加者の法律相談も無料で実施し、ケアマネ業務と利用者の法律問題を支援している。

すでに8回のゼミを実施されているそうであるが、篠木潔先生とmasaがコラボする「ケアマネゼミ・チーム篠木特別講演会&公開討論会」が今週土曜日に行われる。

このゼミは定員300名の予定で案内を出したが、申し込み受付からわずか18日間で予定定員に達してしまったため、急遽会場を変更し定員を増やした。すでに400名を超える申し込み者があるそうだ。そのため事務局の方は、会場設営の人手確保など奔走しているようである。

当日は前半で僕が110分の講演を行う。内容は介護保険制度始まって以来の大改正となる制度改正の概要を説明し、その中で求められている地域包括ケアシステムとは何かを明らかにしたうえで、限られた財源の中で構築されるシステムに潜む問題と、そこで求められる介護支援専門員等をはじめとした専門家の役割を示してみようと思う。

後半の公開討論は、高齢者の性の問題、終末期の過ごし方に関連して自然死〜尊厳死についてどう考えるのかという問題、利用者の権利擁護に関連した、「脱家族論」というテーマ等について、広く意見交換する予定である。

北海道より10度は温かい福岡であるが、当日はさらに会場が熱い議論に包まれるように、できる限り体力と知識を蓄えて向かいたいと思う。

タイトルに書いた「リーガルソーシャルアクション」という言葉が存在するかどうかも知らないし、その言葉が適切であるかどうかはわからないが、法律の知識を対人援助に生かす、という意味でこの言葉を使ってみた。その言葉はどうあれ、「法律知識を生かした対人援助」という考え方は、今後ますます求められていくのではないだろうか。

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