開設前の施設の職員研修講師として、招待を受ける機会がしばしばある。
そうした研修を受講される職員の皆様は、ゼロからスタートする新しい施設で、自分たちの手で新たな施設サービスを作り上げていくことに胸躍らせている。そこで質の高いサービスを創ろうと高い志を抱き、きらきらと輝いた目で講義を聴いてくださる方がほとんどである。
そうであるがゆえに、僕もそれらの人々の期待に応え、身になる講義内容にするように心がけている。
耳あたりのよい話をしても、実践できない机上の空論では意味がないし、実践できる具体論であると言っても、その内容が利用者を無視したもので、サービス提供者の論理に終始し、人を幸せにできない方法論であっては職員のモチベーションにつながらない。
求められているのは、受講してくれる人々が実践できる具体論で、なおかつ高品質なケアを作り上げることができる方法論であり、その実践により、施設の中で利用者の皆さんの笑顔があふれ、その表情を見て、職員の皆様も元気になって、さらに笑顔あふれるサービスを作り上げようとするモチベーションが生まれるような方法論である。
昨年9月1日、大阪市の社会福祉法人 健成会さんが、同市住之江区にユニット型特養「加賀屋の森」を新設オープンした当日に、職員研修講師としてご招待を受けた。
(参照:理想は高く、具体的方法論は足元をしっかり。)
リンクを貼り付けた記事にも書いているが、その講演は「加賀屋の森」のオープン当日に行われ、午前中に僕の講義を聴き、その日の午後から新規利用者の方々を受け入れて、施設が稼働するという、まさにオープン直前の講演であった。
そんな中で、緊張気味で受講されていた職員さんではあるが、僕の目には、どなたも希望に胸を膨らませて、きらきら輝いて映っていた。
あれから1年が過ぎた。加賀屋の森の皆さんはどのような施設サービスを創り上げているだろうと考えていたところ、同施設の佐藤施設長さんからメールをいただいた。
『おかげさまで、あの日菊地施設長のお話を拝聴した新人たちは、皆頑張って仕事に励んでくれています。9月には1周年のお祭りも計画し、入居者の皆様にも楽しんでいただく予定となっております。そこで、頑張ってきたスタッフ達に私からのプレゼントとして、菊地施設長の講演をご依頼したいと考えております。』
大変うれしい連絡である。そのため二つ返事でお引き受けした。
開設の日に話したテーマは、「社会福祉施設職員の使命と誇り〜誰かの赤い花になるために」であったが、今回は佐藤施設長の希望で「看取り介護」について話すことになった。
開設1周年の研修テーマに、「看取り介護」を選んだ佐藤施設長は慧眼の持ち主である。
開設まもなく新人職員が多い施設で、看取り介護に取り組むことに不安を持つ管理者や職員もいると思う。しかしその不安は杞憂であるし、看取り介護の実践は特養の使命である。なぜなら看取り介護とは、対象者が最期まで尊厳ある個人として、その人らしく生きることができる支援であり、決して「死」の援助ではなく、特養が安心して住み続けることができる終生施設であるとすれば、当然その基本機能として備えておかねばならない介護の方法論だからである。
そしてそれは決して特別なケアではなく、日常ケアの延長線上にあるものだ。
そもそも生活施設・暮らしの場であると言われる特養であるならば、そこで暮らしている方が、回復不能で治療が必要ではない終末期において、死に場所を求めるという目的だけで、別の機関に移動しなければならなくなるのはおかしい。そこは安心して住むことができる居場所とは言えないのではないか?
「最後の瞬間は、自宅の畳の上で」という考える人も多いが、そこで考えられる自宅が、必ずしも特養入所前の居所ではなく、住み替えて安心の生活を送ってきた特養の自分の部屋と考えられてもよいのだと思うし、そういう選択の場になることを目指して特養のケアを作っていくべきだと思う。看取り介護は、そうした日頃のケアの先にあるもので、生活の連続性を考えて、暮らしの場に求められる機能として実践されるべきである。
勿論、終末期の安心・安楽の暮らしのためには、それなりの医療・看護・介護の知識とサービスの質が求められる。また施設で備え持っている機能を超えて、無理をして看取ることはあってはならない。それは逆に利用者に不安や苦痛を与える結果になってしまうからだ。
例えば、ガン末期で痛みを伴うために、そのコントロールが必要な人がいたとして、適切に痛みの管理(ペインコントロール)ができる医療体制がないところでは、そうした方を対象にした看取り介護は不可能である。それに対する対応ができない場合は、しかるべき機関を紹介する必要があるだろう。この部分に無理は禁物である。
(※ガン末期の場合の医師対応は、施設所属医師の対応に限らず、特養でも訪問診療を利用できるのだから、その方法も含めて考えてみることが重要。)
自施設が終末期に提供できるサービスの機能をきちんと把握したうえで、利用者が人生の最終ステージである終末期を過ごす場所として、その選択肢の一つになるために、看取り介護を提供できる機能をしっかり持つことが、特養に求められる社会的使命である。
開設後1年を過ぎた同施設では、今後看取り介護に移行する方もおられるようになると思え、その中でスタッフが何をすべきかを考えることは非常に重要である。佐藤施設長からは、『経験に勝る教育は無いとの想いで、できる事から取り組んでいきたいと考えます。菊地施設長の講演は、皆に力を与えてくれるものと信じます。』という言葉もいただいているので、期待に応えるお話をしたいと思う。
どちらにしても「看取り介護」に関する知識と方法論を、この時期からしっかり学ぼうとする同施設の姿勢は、地域のニーズと必ずマッチし、その地域になくてはならない介護施設へと繋がっていくことだろうと思う。
特別養護老人ホーム加賀屋の森での「看取り介護講演」は、26年10月4日(土)19:00〜21:00に行われる予定となっている。近隣の特養にも声をかけて参加できる旨をアナウンスするそうである。お近くの施設で、興味のある方は、ム加賀屋の森さんまでお問い合わせいただきたい。

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