地域包括ケアシステムの必要性が、盛んに唱えられているが、本当にそのシステムが機能するには、そこで所属を超えた多職種連携が、目に見える形で機能していくことが必要となる。
そのためには、システムがあればよいということではなく、そのシステムの中で、所属事業主体が異なる専門職が、お互いにものを言い合える関係づくりが不可欠である。そのことは「地域包括ケアシステムに欠けているもの(その1)」でも指摘しているところである。
そして、そういう関係を作る場として、法制化される「地域ケア会議」を利用すべきではないかということを「法制化される地域ケア会議では何が求められるのか」で提言したところである。
ところで、この「ものを言い合える関係」とは、単に知り合いであって気安く声を掛け合えるという意味ではなく、それぞれの専門性に基づいた会話が成立する関係でなければならない。
様々な専門家が、地域包括ケアシステムの連携軸の中に存在しうるのであるから、話し合いの中で、いちいち通訳が必要となる状態では困るわけである。そこでは極端にわかりづらい専門用語を使わないという配慮も求められるが、基礎的な知識は他分野の知識であろうとも、ある程度理解できるスキルが求められるということだ。
よく福祉系資格に基づいた介護支援専門員が、医療知識に欠けると言われるが、それは介護支援専門員という資格者が、医師や看護師が持つべき専門知識を持たなければならないということではないだろう。逆に医師や看護師だって、介護保険制度の細かな法令とか、ソーシャルワークや介護実務のすべてを知る必要はないわけである。
例えば自分が担当する利用者に医療ニーズはあるのか、ないのかと判断は、ケアマネジメントの中で求められるわけである。その判断をしないと、医療ニーズに的確に対応する社会資源としての「医療」が、利用者に結びつかなくなり、それは健康状態の悪化という形だけではなく、生活課題の解決につながる利用者ニーズを隠してしまい、いつまでも生活課題が解決しないまま、利用者の暮らしぶりが良くならないという形で、暮らしの質を下げてしまうかもしれないのである。
しかし医療ニーズがあるというアセスメント結果を引き出す責任がケアマネにはあるといっても、その医療ニーズに対応する個別の処方を、ケアマネジメントで見つけることまでは求めていない。むしろそれを行うのは、ケアマネジャーの職域を超え、医療法等の違反さえ問われかねない問題である。
医療ニーズに対する処方は、医師の専門行為であり、ケアマネジャーは、かかりつけ医師への照会や、サービス担当者介護で意見を求めるなどで、その処方をケアプランに落とし込むだけである。
この時点で、何もかも通訳を要しないと、処方内容がわからないということでは困るわけであるから、他領域の基礎的な知識をある程度知らねばならない。
例えば、糖尿病を持病として持っている人の、血糖値管理は重要であるという知識を持っていない人はいないと思えるが、そもそも血糖値とは?その管理の方法はどのような方法があるのかを、血糖値が高い状態が続いた場合にどのような症状が起こるのか、逆に低血糖が起こったらどうなるのかということを全く知らない状態であれば、医師の助言や処方内容が適切に理解できずに、ケアプランで血糖値管理の必要性を十分に落とし込むことができなくなるかもしれない。それではまずいということなのである。
同時に、医療関係者と福祉系資格に基づくケアマネジャーの関係を考えたとき、それは常に前者から後者に指示命令を行うという関係ではない。それは連携とは言わないのである。
医療の処方については、その専門家に判断をゆだねることはあっても、自らの専門領域である、ケアマネジメントについては、自らの判断で、その内容を医療や看護の専門家にも理解できるように説明し、その方針に基づいて支援チームに参加してもらうという考え方が必要である。
ケアマネだけではなく、介護の専門職にも同じことが言えるわけで、例えば医療の手が届かない認知症の行動・心理症状に対するケアの専門家の活躍場面は多いわけであるが、この時経験則からの勘だけで発言しても説得力はないわけで、タイプ別認知症の対応法などを根拠に基づいて示したうえで、ケアのコンサルティングを展開できなければ、指示命令を受けるだけの立場になってしまう。
そういう意味では、多職種連携とは、お互いの専門性を尊重しあうという意味でもある。それは常に様々な分野のコンサルティングを受けることができる専門家を、チームの内部に抱えた状態ともいえる。
ということは、自らの専門性を言葉で語ることのできないスキルしかない人は、連携軸に入れないということになる。介護の専門家であるなら、少なくとも介護については、医療・看護職の人々にコンサルテーション機能を持ったスキルが求められる。そういうスキルを持たない連携はありえず、自分の専門性を言葉にできず、自分の専門領域についてのコンサルテーションができない関係とは、それは連携しているのではなく、指揮命令されるだけの存在になることだという自覚が必要である。
建設的意見を、「云い合う」関係。それがなくなれば、多職種協働は言葉だけの形骸化したものとなる。チームの魂を「鬼」にしないためにも、お互いの専門性を発揮して、云い合い、高め合うコミュニケーションスキルが求められるであろう。
※北海道医療新聞社から発刊されている、「ベストナース8月号」の寄贈を受けました。
僕の書いたものが載っているわけでもなく、僕の取材記事が載っているわけでもありません。
今回は、4月に発刊された拙著、「介護の詩〜明日につなぐ言葉」の紹介が、Book Reviewのページに掲載されました。紹介分には、「介護に悩んだとき、紐解きたい1冊です。」と書いてくださっております。
本を紹介していただいた上に、冊子までご寄贈いただき感謝です。ありがとうございます。
和歌山地域ソーシャルネットワーク雅(みやび)の皆さんが、素敵な動画を作ってくれました。ぜひご覧ください。
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