おむつゼロのため、利用者全員に一律・水分1.500ml摂取を行っている施設の職員の皆さん、きちんと考えてくださいよ。
「水中毒で入院患者死亡、病院に賠償命じる判決」
宮崎市の民間病院に入院していた当時36歳の女性が、水を大量に飲んだことによる急性低ナトリウム血症で死亡したのは、病院の管理に問題があったことが原因だとして、家族が病院に損害賠償を求めた裁判で、宮崎地方裁判所は、家族の訴えを認めて、病院に対し、3.500万円余りの支払いを命じる判決を言い渡しました。
詳細はリンク先を参照してほしいのですが、本件は統合失調症で、のどが渇く副作用のある抗精神病薬などを服用していた女性が、自ら大量の水分を摂取して急性低ナトリウム血症を引き起こしたことについて、水道の元栓を閉めるなどの予防措置を取らなかったことなどは、病院側が管理責任を果たしていないと責任が問われ、損害賠償を認めたものです。
そうであれば・・・。
自分で水を飲んでいた人の水分量の制限ができなかったと損賠賠償が認められるならば、本人が望んでいないのに、施設の方針として無理やり水分を過剰摂取させられ、そのことが原因で病気が悪化した場合や、死亡した場合は、もっと重い責任が問われますよ。
水あたりや水中毒という言葉は古くからあります。腎機能が低下していなければ水中毒と呼ばれる低ナトリウム血症を引き起こすことはないでしょうけど、そもそも水分の過剰摂取は、内臓にダメージを与え、腎不全・心不全・高血圧を悪化させ、場合によってそれは死因に直接つながります。
必要以上の水分摂取を毎日続けていると、それが腎機能低下につながり、やがて低ナトリウム血症につながる危険性は常にあるのです。だから個別のアセスメントが必要なのです。
もちろん、今の時期、暑さで発汗量も多くなりますから、冬期間より水分摂取量を増やすという視点は必要ですよ。そして脱水予防は大事ですよ。でも脱水を防ぐための水分摂取量は個人によって異なりますし、失われた水分を、水だけで摂取しようとした場合、電解質異常が起こり、これは認知症の人の行動・心理症状の悪化にもつながります。よって水分補給は、同時に適度なミネラル補給も考えねばなりません。麦茶などは、ミネラルを補ってくれるので、水分補給に適していると思われます。
高齢者は脱水になりやすいということは、その通りです。細胞数が若い人より格段に少なくなっているので、細胞内液量の低下が脱水を引き起こします。しかし水を必要以上に摂取することは、脱水と同様か、それ以上に恐ろしい結果を招くのです。だから水分が過剰ではないかという確認や、事前の必要量予測のアセスメントは欠かせないのです。
多すぎる水分量とは、人によってその量の基準は違いますよ。汗以外に皮膚等から失われる不感蒸泄の量を考えると、食事をきちんととっている人の場合、高齢者であったとしても1日食事以外に、1.500mlもの水分を必要とする人は少ないと思われます。特に皮膚からの不感蒸泄の量が少なくなる身長が140センチ台の人の水分摂取量は、食事がきちんととれておれば、発熱でもしていない限り、1.000mlで十分な場合があります。
その人に、毎日1.500mlもの水分を摂取させ続けていたら、内臓ダメージが起こるリスクは高まりますよ。それが低ナトリウム血症の引き金です。その責任が取れますか?
心不全や腎不全、高血圧の持病を持っている人に、1.500mlもの水分を与え続けたら病状は悪化するリスクが高いですよ。病状が悪化した時、年のせいにするつもりですか?きちんとした医師が診察すれば、水分摂取過多であることが明らかになるケースもありますよ。その時責任は取れますか?
間違ってほしくないのは、1日1.500mlの水分摂取そのものが駄目だということではないのです。それだけの量を摂取でき健康が保たれ、脱水を防ぎ心身が活性化して、なおかつトイレで排泄できるようになるのであれば、それは素晴らしいことですよ。個別性への配慮も行って、おむつゼロを達成している施設は称賛されてよいと思います。
実際に心身を活性化するためにそれだけの水分量が必要な人もいるでしょう。しかしそうでない人も、例外とか特例と言えないほどたくさんいるのです。そのアセスメントをどうしてしないのかという問題なのです。
水分を十分とり、脱水による意識低下等を防いで、尿量が増えたタイミングを見計らって、トイレで排泄する習慣を身につけ、おむつが必要なくなる。その一方で、足の浮腫が増強したり、水あたりの症状で受診したり、高血圧や腎不全が悪化したりする人がいたとすれば、それはプラスマイナスゼロとかいう問題でもないし、メリット・デメリットの両方があるという問題ではないのです。個別アセスメントのない状況で、一人でも水分過多の症状が出る人がいれば、すべての人がトイレで排泄できても問題なのです。
そんな事実が全くないなら、こんなことは書きません。しかし僕に寄せられるメッセージの中に、実際に「おむつゼロ」で表彰を受けている施設の職員さんから、「これでよいのか?」という疑問の声が含まれています。施設名は出せませんけど、そこでは利用者が低ナトリウム血症の中度の症状で病院搬送され、入院先で水分制限を指示されたケースや、腎不全や心不全の症状悪化が目立ってきているという情報が寄せられているのです。
立ち上がれる人が、歩行訓練と称し職員3人で引きずられるように歩かされている情報も寄せられています。水分摂取に関連したブログ記事にはコメントがたくさん寄せられています。それらを改めて読んでみてください。
もしこのブログを読んでおられる人の中で、一律全員に、食事以外で1日1.500mlの水分摂取を推奨している施設に入っておられる利用者の家族の方がおられましたら、高血圧や内臓疾患の悪化がないかを確認してください。そういう症状があれば、年のせいにせず、水分の過剰摂取ではないかということも医師に尋ねてください。場合によっては、セカンドオピニオンが必要になるケースもあるように思えます。
この問題で疑問を呈すると、食事以外で1日1.500mlの水分摂取させるように指導している、「介護力向上講習会」では、きちんと例外や、個別性を見るように指導しているといわれる方がいます。しかし講習会出席者は、そのような指導は受けていないという人が多いですよ。どうしてこのように勘違いしている人が多いのでしょうか?伝え方が間違っているからではないですか?そもそも下記の画像は「月刊老施協5月号」に掲載されているものですが、何ページも割いて掲載されているこの特集記事にも、個別性への配慮、個別アセスメントの必要性には全く触れられていません。あくまで全利用者に対し、食事以外で1日1.500mlの水分摂取を「基本」としています。それでいて個別性への配慮がいらないというふうに勘違いするなと指摘することには無理がありますよ。

(参照)
「一を探して、一を足す介護」に寄せられたコメント
「賞される資格があるのかを自らの良心で判断してください」に寄せられたコメント
「ご入居者はモルモットではないという叫び」に寄せられたコメント
「科学的介護と竹内理論に対する疑問」に寄せられたコメント
和歌山地域ソーシャルネットワーク雅(みやび)の皆さんが、素敵な動画を作ってくれました。ぜひご覧ください。
介護・福祉情報掲示板(表板)
4/24発刊「介護の詩・明日へつなぐ言葉」送料無料のインターネットでのお申し込みはこちらからお願いします。
「人を語らずして介護を語るな 全3シリーズ」の楽天ブックスからの購入はこちらから。(送料無料です。)
自らが実践せずに、何故 それが正しいと 言えるのでしょうか。無条件に 最低1.5リットルは摂取させろ というのなら、まず自分が 1日2リットル〜3リットルは摂取して、どのような時間間隔で、どう工夫してそれだけの水分を毎日無理なく 体に取り込んでいるのか、説明してもらいたいものです。自立している健常者であれば なおさら簡単にできるはずです。
この介護のやり方いかんで 施設現場における 職員の "介護力" を判定している(されている)かのような ケアワーカー及び 管理者も、まずは自分達が実践しましょう。そして 職員自体が もっと健康になって 利用者やその家族に胸を張って 接しましょう。オムツゼロの証明じみたものを飾るのは そのあとです。
コペルニクスが 地動説を唱えて 異端児扱いされたのち、それが正しかったと証明される。そのような展開にだけは この件においては ならないと思われます。