特別養護老人ホームを経営する社会福祉法人に巨額な内部留保が存在するという指摘から、社会福祉法人に対する優遇制度への批判の声が高まり、介護保険事業のイコールフッティングという理屈が正当性を帯びつつあり、社会福祉法人への法人税課税にまで議論が及んでいる。
同時に社会福祉法人に対する内部留保のアンチコマーシャルは、改訂される特養の来年度報酬に極めて厳しい逆風となっており、人材確保・定着のために必要な処遇改善費用についても、内部留保金を活用せよという強い意見が出されている。
このままだと特養の報酬は、多床室を中心に減額必至という状況で、人件費を繰越金から手当てしなければ運営ができないという状況が生まれる可能性が高い。
加えて通所介護については、予防給付対象者の給付除外・地域支援事業への移行だけではなく、長時間のレスパイトケアに対する評価を下げるという方向が示され、極めて厳しい報酬減が予測される。加えて小規模通所介護の地域密着型サービスへの移行により、顧客確保が一段と厳しいものとなり、同時に市町村による総量規制なども予測される。
社会福祉法人をめぐるこのような厳しい状況が、来年度以降の施設・通所介護事業の経営に危機的状況をもたらしかねない。そうした危機意識を持たねばならない。
内部留保は本来繰越金であり、介護報酬が2月遅れで支払われるために、その金額には実際には2月分の運営費(この費用が施設サービスなら数千万円単位である)としてプールしている額も含まれていることと、それは個人が懐に入れる費用にはならず、長いスパンでは施設修繕や新築の費用・人件費の高騰に充てられるものであるが、仮に借金をして増改築に繰越金を使っても、固定資産として台帳に載る分は内部留保として残るので、資金がなくなっても内部留保が多すぎるという批判がなくなることはない。こういう複雑な会計のことを知らずして内部留保批判している人も多いのだ。しかし状況は、より厳しい方向に向かっている。
社会福祉法人への課税について、6/15に開催された全国老施協の「第3回正副会長・委員長会議(拡大)で、宮内監事は次のように反論していることを、JS WEEKLYが報じている。
社会福祉法人の事業原資は寄付であり、出資者に持分権はない。福祉施策の実現が経営目的であり、残余財産請求権も国または同種の法人となっていることなど、社会福祉法人が税制上優遇されるべき要因を示した。また、特掲事業や地方税法における償却資産などに言及。課税が固定資産税にも及んだ場合、経営が立ち行かなくなる危険性があることを指摘した。そのうえで、「法人課税されることによって、社会福祉法人が自由に活動できるようになるという意見を耳にする。社会福祉法があるのに、なぜ、そのような誤った考えになるのか。非課税を維持する声を上げなければならない」
同じく石川会長の言葉として、次のように報じている。
「社会福祉法人は、介護保険事業だけにとどまらず、あらゆる地域のニーズに応える活動をしてきた。ところが、現在議論されている社会福祉法人に対する法人課税の問題は、社会福祉事業のあり方自体を見直すようなもの。今日は出席者一人ひとりが、我々にとってたいへんな問題であるとの認識の下、十分に討議をしていただきたい」と呼びかけ、「社会福祉法人に対する課税は、先人の努力を踏みにじる行為だ。課税するというなら、国は社会福祉事業をやめるべきだ。なぜ、所轄官庁として責任のある厚生労働省は反対の声をあげないのか。最後は政治的な決着しかない。皆さんには、地元の有力議員に私たちの声を届けてもらいたい。最終手段として、国会議事堂にデモすることもありえる。そのためにも会員全員には、この問題に対する危機感を共有・認識してもらいたい。今後開催される各委員会、講習会、研修会などでも、必ず課税問題をアピールして、情報の周知徹底を図ることをお願いする」と決意表明した。(JS WEEKLY 439 号 / 2014. 6.27より抜粋)
「最後は政治的な決着しかない。」という状況の中で、力のあった政治家、故・中村博彦議員を喪ったことは痛恨の念にたえないが、同時にあれだけ得票を得た中村議員であるがゆえに、同氏が改選期ではなかった参議院議員選挙で、老施協からもう一人の議員を擁立しなかったということが、返す返すも残念に思えてならない。
繰り言をいうだけでは始まらないので、社福関係者は、今いる場所で危機感を持って、そこでできる最大限の努力をしていく必要がある。石川会長の、「皆さんには、地元の有力議員に私たちの声を届けてもらいたい。」という声にも応えて、できるだけ声を挙げていかねばならないと思う。
和歌山地域ソーシャルネットワーク雅(みやび)の皆さんが、素敵な動画を作ってくれました。ぜひご覧ください。
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確かに、ぬるま湯に浸かって何もアクションを起こそうとしない法人の多さが、このような事態を招いている側面は無いのでしょうか。
地域貢献を自らの勝手な解釈で捉え、職員のボランティアとしての近所のゴミ拾い活動だけして、地域貢献だと堂々と広報誌に載せているあたりに感覚の鈍さを感じます。
老施協の集まりでは経営者たちによる高級車の展覧会、はたまたファッションショーかのような光景が常に展開されています。経営陣で無い我々は、冷めた眼でそれを眺めるしかないわけです。
そんな法人は、大多数とは言いませんが、でも一方で、一部という表現では物足りないくらいに存在するのも事実です。
愚直に国の言いつけを守り、頂いた介護報酬を爪に火をともす思いでやりくりしながら運営している多くの法人がさらに苦しむその前に、社会福祉法人たる我々が、本当にすべきことをもう一度見直す必要があるのだと、私も思います。
そしてその上で、国に物を申す。それが物の順序のような気がします。