今月の月刊老施協が先週送られてきた。その誌面では4頁から13頁を割いて『科学的介護』を実践するための『介護力向上講習』の特集が掲載されている。そしてそこに大きく載せられているこのキャッチフレーズ・・・。

介護力向上講習
何度も書いているように、この講習の目的そのものを否定するものではない。ここで求められている方法論の中にも正しい方向性だと思えるものもある。

しかしどうして食事以外に1.500mlもの水分を一律全員に飲ませる必要があるのか。このことが最大の疑問である。本来水分摂取量とは個別のアセスメントを行った上で考えられるべきもので、身長が160センチの人と140センチの人で、体重が同じなら、両者の必要水分摂取量には差があって当然であると考えるのが普通ではないのだろうか。食事摂取の状態(摂取量)によっても食事以外の水分量が違うと考えるのが常識である。しかも胃婁の場合は2.200mlとは・・・この量は、人によっては心不全や腎不全などの症状を引き起こしかねない量である。

実際にフェイスブックでは、低ナトリウム血症を発症して、意識不明状態で救急外来に搬送された特養入所者の水分摂取過多の状態を嘆き、水分制限を求める医師の情報発信なども見られている。

前にも書いたが、介護力向上講習会に参加して、オムツ0を達成している施設であっても、実際には一律全員にこのような水分摂取を行っておらずに、個別のアセスメントで水分量を調整・制限している施設は存在する。そのように講習会の「いいところどり」をしてくれる施設ばかりなら問題ない。

問題は、この根拠のない水分量を盲信して強制的に利用者に摂取させている施設があるということである。そこでは一体どのようなことが起こっているのか?オムツを0にするために、施設側が一方的に決めた水分摂取量を強制的に飲ませることが、本当に生活の質向上に繋がっているのか?生活施設の中の暮らしのケアとして、それは許される方法論なのか?

実際に施設の方針達成のために、利用者の権利侵害や尊厳を奪いかねないような状況が生まれているとの情報が数多く寄せられている。

月刊老施協では、水分摂取を全員に1.500ml以上摂取させ、おむつ0を達成した施設の職員が表彰を受けている写真が掲載され、誌面全体で、施設の全職員がその方法論の有効性を理解し、目的に向かって一丸となって取り組んでいることが紹介されている。

しかしそれらの施設においても、この方法に疑問を持つ職員がいるのではないだろうか。しかしそれに反対するなら上司になじられ、場合によっては方針に従えないなら退職せよと迫られるということで、不承不承で方針に従っている職員がいるのではないだろうか。

実際に外にその不満を訴えると、誰がそのような情報を流した反乱分子かと犯人捜しが始まる施設もあるそうだ。

人の暮らしを支援する介護施設の実態が、そうしたものであってよいのだろうか。

以前に書いた「ご入居者様はモルモットではないという叫び」でも僕に個人的に寄せられたメッセージを紹介しているが(貼りついたリック先のコメントも是非参照してもらいたい)、それ以後にも僕宛てに介護力向上講習参加実践施設の職員の声がたくさん届けられている。これはまったく異なる施設の人々の声であり、それだけ多くの施設で疑問を持ちながら、その方針に従わざるを得ない状態の人がいるという悲痛な叫びである。これらの声とは実態のない幻だとでも言うのだろうか?

その声のいくつかを紹介したい。

・介護力向上の研修会の事例検討では、竹内氏の何を根拠にしているかわかりませんが、利用者さんのBPSD等によって「この場合なら最低2500mlは飲ませろ」と言うケースもあります。 利用者が泣いて嫌がると報告した施設には竹内氏だけでなく、洗脳されている他の参加施設の介護職員までもが罵詈雑言です。

・介護職員でしかない人が、医者であるかのような、知ったかぶり発言も見られます。

・助けてください。利用者さんの人権は無視、新興宗教のようになって水分を摂取することが目的化されています。

・心不全、腎不全で亡くなった方もかなりいますが、水分補給とは関係ないとされます。というか最初から水分補給が多すぎるのではないかと言うことは検討されません。ただの病気として処理されるので、家族も年で仕方がないと思うだけです。もし水分が死に影響しているのならと考えると、自分もそれに加担しているのだという罪の意識が頭を離れません。この施設をやめても、その気持ちがなくなるわけではないし。

・介護力研修に行った職員に逆らおうものなら大変な事になります。

・座位がまともにとれない方であってもポータブルトイレへ極力誘導させられ、無理やり座らされて苦痛にゆがんだ表情は無視されます。

・歩行訓練になるともっと悲惨で、片麻痺・拘縮のある方を3人、4人がかりで歩行器で引きずるのを歩行訓練と称してます。 しかもそれは家族には見せません。


本当に水分過多が原因で、心不全等を発症して亡くなった方がいるかどうかは確認できない。しかし水分の過剰摂取が内臓ダメージを与え、死に直接結び付くケースがあることは、一般的な医学的知見であろう。それを否定する医師はいないのではないだろうか。そして個別のアセスメントのない一律1.500ml以上の水分摂取を行うこと自体がそのリスクである。

介護力向上研修が個別のアセスメントを否定しているわけではないし、全員に必ずしも一律1.500ml以上の水分摂取を行うことを求めているわけではないと、老施協の関係者の方は言うが、こうした声があることに、どう応えるのだろうか。

仮にこうした状況が参加者の誤解により生じているもので、老施協の求めている方法ではないとしても、結果的に介護力向上講習会が引き金になって招いている不適切な状況があるということに対し、どのような言い訳ができるだろうか?だってここでは人の命が奪われているのかもしれないのだ。少なくとも利用者の「悲鳴」が無視されていることは事実なのである。

「助けて」と訴えられない認知症の人は、「助けて」と言う代わりに行動異常となるかもしれない。その時に、『BPSD等によって「この場合なら最低2500mlは飲ませろ」と言うケースもあります。』というふうに、さらなる水分の過剰なる強制摂取がされてしまうとしたら、なんと悲惨なことだろうか。

これが本当に正しい方法論なのだろうか?この実践課程で、心不全や腎不全で亡くなった方がいたとしても、水分強制摂取とはなんら関係のないところで闇に葬られることはないのだろうか。実に怖い状況が生まれつつあるのではないだろうか。心配である。

科学的介護の科学とは、科学的根拠の意味があり、エビデンスがあるという意味だろう。ここで掲げられている、食事以外で口から摂る水分量が「1日1.500ml以上」必要であるというエビデンス、胃婁の場合は流動食と水分を合わせて2.200ml以上が必要であるというエビデンスと、それが人体にまったく悪影響を与えないというエビデンスをきちんと示していただきたい。

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