介護サービスの場では、毎日様々なエピソードが生まれる。1日たりとて昨日と同じ今日はない。

そこで生まれるエピソードは、単に思い出や記憶として残るだけではなく、介護サービスの新しい可能性や方法論に結びつけることができるものだ。ただ単に、こういうことがあったという記憶に終わらせるのではなく、そのエピソードが生まれた過程を考えることが大事だ。どういうことが、どのような考え方で行われた結果、何が起こったのかを検証する過程で、出来事が教訓に替っていく。

そこでは、利用者の感情や身体状況はどういう状態であったのか、それが我々のケアサービスとどのように関係しているのかを、一つ一つのエピソードから抽出しながら、次の介護に繋げていこうとする視点が重要である。ケース検討はそのための方法論である。

そうした様々なエピソードが積み重なり、それが知識やエビデンスに繋がっていく。だからエピソードは記録として残し、整理していくことが大事になる。

逆に言えば、何の記録もなく、記録があっても整理されていなければそれはただのゴミと同じで、誰かの記憶の中にしか残らないエピソードは、何も生み出さないと言ってよいだろう。

僕のこのブログにも、そうしたエピソードがちりばめられているが、ブログ書籍化本は、それらを整理してまとめるという結果にもなるために、著作本もそうした整理した記録の一つとして活用できるときがある。そして自施設の職員への教育にも使う時がある。

人を語らずして介護を語るな THE FINAL 誰かの赤い花になるために」の「看取り介護期のあきらめない介護」というコラムの133頁に、チェーンストークス呼吸について、その知識のなかった職員が、一旦呼吸が止まった方の名前を呼びながら体を揺すったところ、呼吸が復活するという場面に遭遇したエピソードを書いた。

あきらめない介護
「看取り介護報告書」に本人が、その時の模様を書いて報告しているので、それをここで紹介したい。
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息を引きとる時に傍につく事が出来たが、一度息を引きとった後、何度も大きな声でご本人の名前を呼び体を揺すると、再び息を4.5回程吹き返したが、そのまま静かに看取れば良かったと今思えば反省している。頑張って、頑張って生き、静かに眠る様に息を引きとったのだからもう少し冷静に静かに見送るべきだった。ご本人は元気な時からにぎやかな事は嫌いで、静かに過ごす事が好きだったので「うるさいなぁ」と言いに戻って来た様に思う。最期までご本人らしかったです。ご家族が来て看護職員が死後処置をしている間息を引きとる時の事を伝える事が出来、ご家族の方からも感謝の言葉を頂く事が出来よかった。私の中ではご家族の代わりに看取り、その事をしっかりご家族に伝えるんだという思いが強く、その事は今回はしっかり実践出来たと思う。CWとご家族の関係も長かったのもあり何でも話合えしっかりと絆が出来ていました。
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本の中ではこのことについて、「その気持ちを大切にして、あえてチェーンストークス呼吸というものがあって・・・などとレクチャーする必要はないだろうとそのままにしている。今の時点ですべての知識を与えようと焦る必要はないし〜」と書かせてもらったが、だからといってこの職員が、いつまでもチェーンストークス呼吸というものの知識がないままでいてよいわけがない。

その職員には後日、「ここに君のエピソードを書いたよ。その時は教えなかったけれど、死の直前に起こるチェーンストーク呼吸というものがあるんだ。今後はそのことも知識として覚えておいてね。でも報告書に書いてあるようなことを感じたり、考えたりするのは大事なことだよ。だから今日まで知識の部分については黙っていたんだ。それよりは〇〇さんが君に教えてくれたことの方が大事だからね。」というようなことを言いながら僕の本を渡した。

彼女はそのエピソードがあることで、チェーンストークス呼吸というものを、今後決して忘れることはないだろうと思う。

この呼吸は一旦完全に息がとまった後に、再び息を吹き返すという状況を生む。その後本当の死が訪れることになるが、この呼吸についての知識を僕が得たのは、先ごろお亡くなりになった渡辺淳一氏の自伝的小説「白夜」によってである。

渡辺氏が札幌医科大学で学んでいた学生時代に、実習とアルバイトを兼ねて天塩町立病院で夏休みのひと時を過ごす時期があった。その時当直(医師免許を持つ前で厳密には違法であるが、当時はあまりうるさくなかったようだ)した夜に死亡した患者の死亡診断のおり、チェーンストークス呼吸が起こって、一旦呼吸停止した患者について、渡辺氏は患者を囲む家族に向かって、「お亡くなりになりました」と告げた直後に、再度呼吸が始まり、「生き返った」と驚く家族に向かって、渡辺氏は「いや、すぐに死にます」とあわてて答えたというエピソードが紹介されている。

その時の描写が印象的で、僕はチェーンストークス呼吸の知識を得ていたわけであるが、僕自身はそうした呼吸状態を実際に見たことはない。

そういう意味では彼女は貴重な体験をしたのではないかと思う。それにしても、一旦呼吸が止まった人が息を吹き返した時に、特別あわてるでもなく、怖がるでもなく、「うるさいなぁ」と言いに戻って来た、と考えて冷静に対処した彼女はなかなかの豪傑である。

彼女は現在当施設のリーダー格の一人として、現在も日々頑張っている。当施設を支える貴重な人材の一人である。

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