愛媛県には、ひねるとポンジュースが出てくる蛇口があるという噂を聴いたことがある人はいるだろうか?

これは都市伝説でも何でもなく事実なのである。松山空港の2階出発ロビーで、ポンジュースが無料試飲できる蛇口が設置されている。

しかしそれは月に1度程度、日曜日に時間を限って行われているイベントなので、たまに松山空港を利用するくらいでは、めったにお目にかかれない光景である。

僕は過去に4度(愛媛訪問は過去2度であるが、空港は往復で1回に2度利用するという意味)松山空港を利用したことがあるが、そのイベントは行われていなかった。

たまたま今回、宇和島講演の帰りに松山空港を利用したのが18日(日曜日)で、このイベントが行われていた。僕は10:30発の飛行機に乗る予定であったが、このイベントはちょうど10:00〜行われていたので、搭乗口に入る前に試飲してみた。

一口分がやっと入るという使い捨てのコップに試飲するだけであるが、物珍しさもあって、10:00のイベント開始前から行列ができていたが、せっかくの機会だからと思い、その行列に並んでみた。

松山空港
ポンジュース蛇口
130円も出せば買うことができる量の1/10程度のジュースを飲むために、わざわざ行列に並ぶのはどうかとは思ったが、旅の思い出づくりにはなったし、話の種としてはこうした行列に並んで、蛇口をひねってジュースを出して飲むという体験は面白かった。しかし次に松山空港を利用した際に、同じイベントをやっていたとして、その時にもわざわざ行列に並んで試飲したいかと問われれば、即座に「並んでまでは飲まない」と答えるだろう。

行列に並ぶのが好きだという人は少ないと思う。行列に並ばないと何かが実現できないということがあるとしたなら、行列に並んでまでそれを実現したいという価値を見出して初めて行列に並ぶという選択があるのだろう。しかしそれはあくまで非日常であり、特別なことである。

行列に並ばないと日常生活が送れないという暮らしであるとすれば、いったいどれくらいの人が、そのことにストレスを感じずに、毎日の暮らしを営むことができるだろうか?少なくとも僕自身の日常生活の中に、「行列に並ぶ」という行為は存在しないし、毎日行列に並ぶという生活はあり得ないと考えている。

ところが介護施設では、利用者の日常に行列に並ぶという行為が普通に存在していることが多い。

お風呂に入るための行列。トイレで排せつ介助を受けるための行列。食事を食べるために移動するための行列。

しかしそれは極めて異常なことだ。まさに施設の常識が、世間の非常識であるという典型が、「行列に並ばないと1日が過ごせない」ということなのである。

行列ができる理由は様々であるが、根本原因はただ一つ。利用者の暮らしより、施設の都合・業務の都合が優先されているということである。

お風呂の中で入浴介助を受ける時間が15分しかないのに、そこまでたどり着くために廊下に30分以上並ばされているのは、入浴する人の都合ではなく、入浴介助する側の都合である。

お風呂まで移動援助する介護職員と、脱衣所で脱衣介護する介護職員、浴室内で入浴介助する職員が別々だから、移動介助する人の都合と、脱衣介助する人の都合、入浴介助する人の都合、それぞれが存在し、しかもそれぞれの業務が有機的に繋がっていないことによって、この行列に並ぶ時間が長くなる。

これをなくすためには利用者の都合に合わせたケアが必要であり、ユニットケアとはまさにそのためのケアである。それは単にケアの単位を小さくするだけではなく、一人の介護職員が、一人の利用者に対し、一つの介護行為の開始から終わりまで、すべて責任を持ってマンツウマンで対応する行為と言えよう。

居室から浴室までの誘導、脱衣所での衣服着脱介助、浴室内での入浴支援を、一連の行為として職員が替ることなく対応することで、行列はできなくなる。

介護行為を分割して、オートマチックな分業体制でサービス提供することで、効率的な作業となるのだから、分業しないとなると人手の少ない介護の場では、仕事が回らなくなるという懸念はあるだろう。しかし介護は作業ではなく、人の暮らしを支える行為であると考えるなら、どちらが求められるのかは議論の余地がない。

しかし流れ作業で生まれる行列は、一面業務ロスがたくさん生まれているという意味でもある。脱衣所に入るために30分並んでいるということは、その人を30分後にそこに誘導してもよいという意味であり、わざわざ30分前にそこに連れて来て、並ばせて待たせるのは、さほど意味がないということだ。勿論、30分前に連れてきておれば、30分後に介助する行為がなくなり、その分別のことができるということだろうが、別の事を30分前に振り分ければ同じことである。つまり広域型施設でも、分業を見直して、行列ができないケアを実現しても、決して業務量が大幅に増えるとか、人手がより以上にかかるということにはならず、要は行列をなくすことの必要性に気がついて、それをなくそうとする工夫ができるかどうかという問題なのである。

明日はそのことをもう少し掘り下げて考えてみたい。(その2に続く)

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