ご夫婦で施設入所されている方のうち、どちらかが看取り介護の対象となる場合、残される方のグリーフケアという視点を早くから持つ必要があると考えている。

なぜなら、グリーフケアとは、愛する人を失って大きな悲嘆にくれる人をサポートするだけではなく、悲嘆にくれないようにサポートする事もそれに当たるだろうと思うからである。

共に暮らしていた特養で、人生の残り期間のカウントダウンが始まった連れ合いが、最期の時間をどう過ごすのか、その時に自分が何をできるのか、そのことが重要ではないだろうか。そしてその期間に、亡くなった連れ合いがどのような時間を過ごしたのかを振り返って、残念な思いを残さず、できる限りの事をしたと感じられる事こそ、最高のグリーフケアになるのではないだろうか。

僕たちは、看取り介護の対象となる人に、最期の瞬間まで安心・安楽に過ごす支援を行うとともに、残される家族の方々にも、悔いが残らないように何をすべきかを考えながら、真摯に人の死までの時間に関わっていかなければならないのだろうと思う。

ご夫婦で当施設に入所され、夫を看取ったケースの評価表を紹介する。残された奥様は、現在も当施設で元気に暮らし続けている。

本ケースは反省点がたくさん生まれたケースで、このデスカンファレン結果から、看取り介護の方法を全般的に見直したという意味で、当施設の看取り介護の現在の実施方法に、大きな影響を与えたケースである。具体的には、看取り介護の開始時期の判断の明確化、職員への周知と、利用者居室への訪室の促しなど、様々な改善策をとった。そのことは後日、別に紹介したいと思う。

家族の評価
長男より「何もいう事はありません。全てにおいて満足しています。ありがとうございました。母もなんとか葬儀に参加でき、立派に喪主を務める事ができました」と伺っています。

看護部門の評価 ・ 課題
・病状により徐々にレベル低下あり、内服薬調整や点滴等対応が出来ていた。
・状態の変化にともない都度、職員やDrからご家族へ説明がされており、急変時も心の準備は出来ていたと思われる。
・看取り期間が短かったこともあるが、大きな皮膚トラブルなく過ごされ良かった。
・最期まで住み慣れた居室で妻と過ごす事が出来てご本人にとっては精神的には心強く、穏やかに過ごされていたと思われる。しかし、妻にとっては徐々に症状が悪化していく中、職員の妻への配慮はなされてはいても精神的には辛かったのではないかと思われる。
・今後は一人残された妻に対し、支え、励まし見守っていかなければならないと思う

( 担当ユニット以外の介護部門の評価 ・ 課題 )
【〇〇〇〇ユニットケアワーカー】
・看取り期間が短かったのもあるが、訪室する機会が少なかったように感じた。
・看取り介護がしばらく無く、職員の意識が薄くなっていたように感じる。また、
・看取り介護を経験していない職員に対する指導がきちんと出来ていなかった。

【〇〇〇〇ユニットケアワーカー】
・看取り介護期間が短かった為訪室する機会があまり作れなかった事が残念です。 奥様である〇〇さんが付き添ってくれているとうい安心から訪室機会が少なくなってしまったと思われます。七夕祭りの参加中〇〇さんが〇〇さんの事を気にして早々に帰って行く姿が印象的でしたが励ます言葉が出てこなくその事も後悔しています。今後は〇〇さんを励まして笑顔が1日でも早く見られる様にしていきたいです。

【〇〇〇〇ユニットケアワーカー】
・訪室する機会は少なかった。久しぶりに看取りとなっていたにも関わらず、最近では急変する方が多く、看取りに対しての認識が薄くなっていた気がする。
・何年も居室で共に過ごしていた〇〇さんにとって〇〇さんが亡くなるという気持ちをもう少し気に掛けてあげた方が良かったと思う。声はかけていたがいくら覚悟はしていたにしろかなりの落ち込みはあると思うのでしばらくの間は全体で〇〇さんを見守っていきたいと思った。

( 担当ユニットの介護部門の評価 ・ 課題 )
・看取り介護開始時には酸素も使用しており、速やかに居室内の不要な椅子等を移動したり、サクションを置くスペースの確保やキャビネット上の整理を行った。あまり居室内の環境を変えたくはないという〇〇氏の意向を踏まえながら行ったこともあり、十分に環境整備ができていたのかという点では疑問が残る。しかし〇〇氏から主の様子が伺えるよう配慮し極力傍で付き添える環境にはなっていたと思う。看取り介護開始後もSPO2安定せず、常時酸素吸入が必要な状態であり、期間中は一度も入浴できなかったが、体拭は毎日行い目立った皮膚トラブルも見られなかった。
・口腔ケアについては歯磨きの他、綿棒を使用する等してみたが、噛む力が非常に強く口腔内の清潔を保つことが最も困難であった。日中は比較的状態は安定していたものの、夜間帯になると痰絡みが見られる傾向であり、苦しそうな声を出している際には〇〇氏も心配で眠れていない事があり、頻回に訪室し口腔内清拭を行ったり、呼吸状態・SPO2も安定していることを分かりやすい言葉で伝えると安心されていた。
・主が亡くなられた後の〇〇氏の精神状態が心配であったが、妹さんが宿泊して下さることとなった。葬儀等で疲労が溜まっているものと思い、和室の使用も勧めていたが、「こんな時でなければ一緒に寝ることもないでしょうからお部屋で休ませてもらいます」とのことで居室にて昔の思い出話をしながら一緒に過ごしていただくことができ、〇〇氏も大変喜ばれていた。ご家族の協力により〇〇氏の精神状態が大きく変化することもなく穏やかに過ごすことができたのではないかと思われる。
・急変後はすぐに〇〇氏に傍に来ていただき、CW2名と主任CWで一緒に最期を看取ることができて良かったが、他ユニットのCWにも積極的に訪室を促す必要があった。これは毎回課題として挙がってくる部分である為、緑風園で最期を迎えることを選択していただいた方に対して命の尊さを考え直す必要があると感じた。ご夫婦で入園されるケースが少ない中、今回看取り介護を経験させていただいたが、看取る側の精神的な支援の重要性等、多くのことを学んだ看取り介護となった。

【担当ユニットリーダー】
・看取り開始から約一週間と短い期間ではあったが、内容に沿った援助ができたと思う。他ユニットの職員の訪室は少なかったが、短期間という事と、夫婦部屋という事もあり遠慮もみられたのではないかと思う。しかし、入浴や行事等で妻の〇〇氏に会った際には声を掛けてくれる職員も多かった。自分の事以上に〇〇氏の事を気にかける性格であり、そういった心遣いで〇〇氏の心の安定も図れたのではないか。夫婦同室での看取りという、初めてのケースであったが看取る側のケアも重要であると考えさせられた。
・最期は職員が訪室中であり、すぐに〇〇氏に声を掛け、手を握っていただいたりと傍らで看取る事ができた。最期の瞬間まで、寂しい思いをせず過ごせたのではないか。
・今回、大変だったのが口腔ケアであり、自歯があり口を閉じてしまう方に対しどういったケアをおこなえば良いか。又、口臭対策が課題となった。

【主任ケアワーカー】
・病状によりADLのレベル低下で臥床して過ごす時間が多くなり褥瘡悪化が心配でしたがスタッフの対応により完治出来て良かったと思う。息を引き取った後、手の爪が伸びており爪切りを行ったが、常に側で手に触れる機会が多かった〇〇氏は、伸びている爪が気になっていたのではないかと思うと自分自身の訪室の少なさが後悔となった。
・口腔内も痰が上顎に硬く膜が張った状態になっており口臭もあった。こまめに口腔ケアを行っていたとは思うが、どうしても自分の歯がある方の口腔ケアは介護職だけでは補えない部分もあり大変だと思うが、専用の口腔内ケア用品を使用したら、よりケアし易く、更に口腔内環境が清潔に保たれたのではないか・・・以前に口腔ケア用品のサンプルがある事を知らせていたが、時間の経過と共に引き継ぎが風化していたと感じた。スタッフからの相談待ちでは利用者のケアが停滞してしまうということを痛感したので、これからは、積極的にアプローチしていきたいと思う。
・今後の課題として、自分の歯が有る方の口腔内ケアは介護職だけでは補えない部分があるので、看護師からの指導や協力も得ながら創意工夫をして保清が保たれていかれるよう努めたい。

 ( 相談援助部門の評価 ・ 課題 )
【ソーシャルワーカー】
・下肢筋力の低下から転倒を繰り返される事で常時の車椅子使用となった。車椅子を使用することで、益々、身体状況が悪化されて行ったように思われる。その後、嚥下機能が低下され、最後は誤飲性肺炎で死亡されている。ADLを維持することが、いかに大切であるかと言う事を改めて痛感した。
・〇〇さんのリハビリで居室を訪問していたので、看取り介護になる前から〇〇さんに対する声掛けを行う事は出来ていた。毎朝、挨拶をすると時々『おはよう』と答えてくれる事もあった。日々、身体の状況が悪化されているのを実感する事ができた。常に〇〇さんが〇〇さんの傍らに居る事で忠さんも安心されていた様に思われる。また、最期を看取る事が出来た事は良かったと思う。看取りになるまでに時間が掛った様に思われる。もう少し早く看取り介護になる事で違った対応が出来たのではないかと思う。

【ケアマネジャー】
・状態が悪くなってから看取り介護に移行となるまでの期間が長く、看取り介護自体が短かったため心をこめた援助を自分自身十分に行えなかったように感じる。主が動けていた時に、もっとできたであろうことはなかっただろうかと考えてしまう。また、安静臥床となってからの援助として苦痛緩和等の意識を高め、もう少し早い段階で援助内容の見直しをすべきであったと反省する。夜に訪室した際に、両眼を開け手を強く握った主の姿が目に浮かぶ。主の『声なき声』を私は理解する事ができていただろうか。あの時、主が伝えたかった事を掴みとる事ができなかった事が残念でならない。日頃の関わりの大切さを痛感した。
・ご家族の面会が少なく主の状態に対する理解が十分ではなかったように感じる(「まさかこんなに早いとは思わなかった…」との話があった)。看護師サイドだけではなく、私もこまめにご家族に連絡を入れ状況報告等をしていけば一緒に過ごす時間がもう少し長く持てたのではないか。悔いを残さない支援をもっと真剣に考えるべきであった。ただしケアワーカーサイドで主の事と含め〇〇氏にも細やかな配慮をしながら援助にあたっていた。一番身近な存在としてケアワーカーがいる“意味”を改めて学んだ。
・〇〇氏にとっては、これからが次の生活のスタートとなる。主への思いを互いに大切にしながら〇〇氏がこれからもっともっと笑顔で過ごして頂ける援助をするよう、主に大きな宿題を残された気分である。看取り介護を行う事自体がしばらくなかったが、常に最期の瞬間を意識する働きかけを行っていきたい。居室内環境整備・活動参加や好きな事をして過ごす時間、ADL援助等も状態が悪くなる、その前にできる事があると思う。ご本人・ご家族が悔いのないよう、そして私自身も悔いのないように取り組んでいこうと思う。

( 給食部門の評価 ・ 課題 )
・〇〇月〇〇日の朝食まで副食ミキサー食を提供、昼食から食止めになった。厨房では以前提供していたソフト食やすぐに提供できるゼリーやジュースを用意していたが最期まで口にする機会はなかった。看取り期間中の食事提供は難しいと思われるがその中でできることを見つけていくことが今後の課題であると感じた。

( 総合的な評価 ・ 課題 )
褥創を作る事なく過ごして頂くことが出来た。亡くなられるまでの間、体調の回復が無く入浴が出来なかった。しかし、毎日、体位清拭を実施する事ができ身体の清潔を保つ事が出来ていた。看取り期間が〇日間と短く、他ユニットからの訪室が少なかった。看取り介護がしばらく無く、看取り介護に対する意識が薄くなっていた。同室者として妻の〇〇さんがおり、訪室を遠慮するケアワーカーもいたと思われる。最期の時を、妻の〇〇さん、副主任ケアワーカー、主任ケアワーカーで見送る事が出来き、〇〇さんに寂しい思いをさせる事なく見送る事が出来たと思われる。
 
《課題としては3つの事について意見の交換が行われた。》
1、噛む力の強い方に対する口腔ケアの方法
2、夫婦同室者の方が看取りになった場合の残された利用者の精神的ケアについて
3、看取り介護を開始する看護職員の統一的な基準について

1.について
・無理に口を空けて頂き口腔ケアを行うことは利用者を傷つける事になり避けた方が良いとの意見が看護職員から出ていた。口腔ケアの方法としてはガーゼを手に巻いて静かに利用者の口の中を傷付けないように行うのが基本と介護職員から指導を頂いた。〇〇さんは自歯があり噛む力も強い為、前述の様な方法で行うと逆に、ケアワーカーが怪我をしてしまい、対応が難しく口腔ケアをしっかり行うことが出来ていなかった。
・酸素マスクの汚れについても課題に上がった。看護職員からマスクの予備は十分にあるので汚れに気がついた場合は看護職員に連絡をする事で交換をしてくれるとの話しがあった。

2.について
〇〇さん自身、弱音を吐く方ではないので気丈に振舞われていると思うが、〇〇〇〇のスタッフが中心となり〇〇さんが亡くなられた後のケアを継続的に続けていくとの結論になった。最近では、毎朝のリハビリや日課活動にも普段通り参加され笑顔も見られている。また、花瓶の製作等にも積極的に取り組まれている。

3.について
看取りを開始する時期の判断について、看護職員はその中心的な存在であり利用者の状態を医師に正確に伝える事が必要ではないかとの意見が出た。ここ最近は急変されて無くなられる方が多く、看取り介護を開始する前に亡くなられている。この事から、この話しを持ち帰り、看護職員間で話し合いを継続的に続けていくとの話があった。話し合いの結果、経口摂取(食事・水分)ができない、点滴が施行出来ない事を総合的に判断して看取り介護を開始するとの看護職員からの報告を受けている。

介護・福祉情報掲示板(表板)

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