今月14日、日本介護福祉士会は、技能実習制度による介護業界への外国人労働者の受け入れ案に強い反対姿勢を示した要望書を、4人の国会議員に提出した。

「国民の介護を守るための要望書」と題した内容は、同会のホームページから見ることができる。

その中で日本介護福祉士会は、認知症やターミナルケアなどの幅広い業務が求められるため、日本語によるコミュニケーション能力や一定の介護技術がないまま外国人が介護分野に参入することは、介護サービスの質の低下を招き、国民が安心して介護を受けることも出来なくなる懸念があるとしている。 また、安い労働力参入は、現在の介護職員の賃金の低下を招き、更に日本人による人材不足は深刻化する恐れがあり、技能実習制度に基づく外国人の受け入れは、介護業務を単純労働ととらえているとし、同制度による外国人受け入れに強く反対している。

この要望書にも理解できる部分がある。まず外国人技能実習制度の問題である。

これは在留できる期間を3年から最長6年に延長する方針を定めたもので、第1弾として建設業での外国人の受け入れ拡充が検討され、2015年度から五輪開催までの時限措置とするものである。2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて施設の建築需要が急増し、建設業界で大幅な人手不足が予想される労働力不足の急場をしのぐ苦肉の策と言えよう。

政府は、この制度によって、介護の分野でも外国人労働者の活用策の検討を始めるとしているが、それが単に、外国人労働者が就労しやすい条件を整えるだけで、安上がりな外国人労働者の受け入れに終わってしまえば、日本介護福祉士会の懸念の通りになってしまうわけである。そのことに反対姿勢を明らかにするということは、職能団体として会員ニーズに応えるという意味では、分からなくもない。

しかし一方では、介護の現場の人手不足は、ますます深刻化してくるのは確実だという現状がある。政府推計では、2025年までに介護職員を100万人増やす必要があるというが、この100万人という数字は、現在就業している人より100万人多くの介護労働者が必要だという意味で、2025年までにリタイヤする職員の数を補って、さらに100万人の介護労働者を増やさねばならないという意味である。つまり2025人までに新たに確保せねばならない労働者数は100万人+αなのであり、α部分の数字もかなり大きなものになるということだ。

しかも国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2055年の総人口は8993万人となり、いまより3割減少する。しかも、15〜64歳の生産年齢人口は、さらに減少率が大きく、現在のほぼ半分になるという。そんな中で介護労働者を必要数確保が可能なのかという部分にも、何らかの考え方と、その根拠となるデータを示さねば、日本介護福祉士会の主張は、介護福祉士の既得権益を守るためだけの、社会全体の利益を鑑みないあまりに無責任な主張であるというそしりを免れないだろう。

日本介護福祉士会は外国人を介護職員として広く受け入れることに反対するだけではなく、将来的に介護労働力をきちんと確保できる方策を、どこに求めるのかというマクロの視点からの主張も同時に行う義務があると思うが、この要望書からは、そのような主張は見えてこない。

例えば、日本介護福祉士会は、「外国人が介護職員に従事するためには、 現在行われているEPA対応を必須条件として国家試験合格が最低条件とすべき」と主張しているが、経済連携協定(EPA)に基づく外国人の介護労働者の受け入れは、フィリピンとインドネシアの2国だけが対象で、両国の介護福祉士の資格取得を目指して来日する場合に限られている。

しかもこれまでの試験合格者は約240人に過ぎず、そのうちの幾人かは既に帰国してしまっており定着率ははっきりしていない。つまり現状の外国人労働者の受け入れでは、介護業界の人手不足の解消にはほど遠いといいうことで、将来的にもそれは有効な手段とならず、日本介護福祉士会の要望書の内容だけで、介護業界の人手不足は解消できないことは明白である。そもそも外国人労働者の質の担保が、なぜ経済連携協定(EPA)に基づいた人材受け入れでなければならないという理屈と結びつくのか意味不明である、さらに日本人の介護職員全部に介護福祉士の資格を求めているわけではない現状を鑑みると、外国人労働者だけはその資格がないと就労を認めないというのは、あまりに身勝手な主張である。

今後は、リーマンショック後、求人が冷え切った不動産、建設、金融も復活し、2020年のオリンピックに向けて勢いを増して、求人が増えるのである。よって介護業界から、それらのい産業へ流出する人材も増えこそすれ、減ることはないのである。

そのためには、きちんとした待遇を保障できる介護報酬を求めるということも必要で、このことは介護労働者数の増加という背景を背に、現在の日本社会を構成する特定の塊と言える職種である介護労働という側面から、それらの人々の経済に与える影響や効果が小さくない事を主張し、景気回復、デフレからの脱却、経済活性化という視点から介護報酬増を要求していくことは必要だろう。同時に、日本人だけで必要なサービスの量を確保することは困難な中で、どのように質を低下させずに外国人を受け入れていくかを示すべきである。

勿論、外国人労働者を無秩序に受け入れたり、移民政策的な方向に持って行くことは、文化摩擦や治安悪化、日本人労働者の失業問題に繋がっていくのだから、そうしてはならない。その事に対してはきちんとセーフティネットを創っていかねばならないだろうが、しかし現行のままでは、介護労働力はいずれ枯渇し、それは社会全体、国民全体に著しく不利益をもたらすということだ。

そうであるならば、外国人の介護労働者を、経済協定という仕組みの中だけで受け入れていくことでは、介護業界の人手不足は解消できないという観点から、外国人労働者の受け入れとは、我が国の介護労働力の一定量の確保という部分で、必要数を受け入れるという方向に基本姿勢を変えるべきである。そのとき同時に、一定の技能を持つ外国人に門戸を広げなければ、今後の需要はまかなえないという観点から、介護福祉士という資格試験だけではなく、新たな技能検定試験なども検討していくべきである。

こうした議論まで摘み取るような要望があってはならないし、むしろ官民一体となった、国民議論を展開していく必要があると思う。

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