措置から介護保険になった当時、特養への入所も措置ではなく、契約事項となり、いろいろな機関が契約書のフォーマットを作った。

当施設も所属する職能団体が推奨するモデル書式を採用したわけであるが、この契約書式は第3者契約となっており、利用者本人と家族が署名・捺印する形になっている。つまり施設側と、利用者及び家族の3者間契約なのだ。これは利用者本人が認知症等で判断能力に欠ける場合は、家族が代理契約できるというメリットがあるとされている。

子は親の保護者ではないということに鑑みれば、厳密に言うとこの形は、子が親の成年後見人になっていない限り無効ではないかという法律上の疑義がぬぐえないと個人的には考えている。しかし実際には多くの介護施設では、判断能力に欠けた利用者の代理契約を家族と結んでいるし、そのことが実地指導等で問題になったことはない。

ところで家族がいない場合、あるいは家族がいてもその家族にも判断能力がない場合は、どうするべきだろうか。

こんなケースの入所相談があった。

生活保護を受給しながら、子供のいない高齢者夫婦世帯で、夫が妻の介護をしていたケースである。

妻は認知症もあって判断能力がなく、日常生活全般に援助を要する状態で要介護5と認定されている。夫は元気であったが、急な発作で倒れ、緊急入院するも意識がなく、人工呼吸器を使う状態になってしまった。

それまでずっと担当していた居宅介護支援事業所の担当介護支援専門員と、生活保護課の担当ケースワーカーが迅速に対応したことで、妻は医療機関に緊急入院することができた。しかし今後、夫が回復する見込みはなく、他にこの妻を面倒みる家族もないため、特養への入所申請が行われたケースである。入所申請したのは、居宅介護支援事業所の担当介護支援専門員である。

しかしいざ入所となれば、入所契約や施設サービス計画への同意が必要になり、これは市町村の保護課のケースワーカーであっても、居宅介護支援事業所の介護支援専門員であっても、代理できる権利も義務もない。

当然のことながら、この場合は本人が契約を結べないのだから、成年後見人が選任され、施設と成年後見人の間で契約が交わされねばならないはずである。

成年後見制度における申立権者は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、検察官(民法第 7 条)、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人(任意後見契約に関する法律第 10 条第 2 項)とされている。

しかし本ケースの場合は、本人や親族の申し立てができる状態ではなく、市町村長の申し立てという方法によらざるを得ないだろう。
※65 歳以上の者、知的障がい者、精神障がい者について、その福祉を図るために特に必要があると認めるときは、市町村長は後見開始の審判等の請求ができると規定された(老人福祉法第32 条、知的障害者福祉法第28 条、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第 51 条の 11 の 2)。

しかしもう一つの方法として、措置による特養への入所ということが考えられる。

平成12年の介護保険制度施行に関わる改正後の老人福祉法第10条の4第1項、第11条第1項第2号において、訪問介護、通所介護、短期入所生活介護、認知症対応型共同生活介護、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)について、やむを得ない事由により介護保険給付を利用することが著しく困難であるときは、市町村が措置を採る仕組みを存続させており、「やむを得ない事由」としては、

1.本人が家族等の虐待又は無視を受けている場合
2.認知症その他の理由により意思能力が乏しく、かつ、本人を代理する家族等がいない場合


が挙げられている。この2に該当するのが本ケースである。

しかしこの措置の存続という意味は、介護給付費とはまったく関連しない入所措置、つまり現在の養護老人ホームや介護保険以前の特別養護老人ホームの措置費制度で入所させるという意味ではない。

それは市町村の措置という入所権限を示しているに過ぎず、施設と利用者の契約による入所ではなく、市町村の行政処分としての措置入所を残しているという意味に過ぎない。

このため要介護者は介護保険のルールに基づく要介護度別の費用が算定され、当然9割部分は国保連への通常の介護給付費の請求、そして介護保険制度では自己負担とされている1割負担分を措置費として市町村が支弁という意味になる。
措置の場合の費用負担関係
ア 特別養護老人ホーム
「やむを得ない事由」により特別養護老人ホームに措置された者の費用負担については、9割(+食費)相当分は、介護保険給付が行われることから、残りの1割(+食費の標準負担額)相当分について、措置費を支弁することとなる。
改正後の老人福祉法第21条の2
老人福祉法第28条に基づく費用の徴収については、この1割程度相当分を対象として、高額介護サービス費の適用を勘案した介護費及び食費に関する利用者負担と同水準の費用徴収を行うこととする。(保険給付の場合の利用者負担と措置の場合の費用徴収を同一水準とする。)

このように利用者本人からの費用徴収基準も残っているが、本ケースは被保護者だから保護の補足性原理から考えれば、保護費より措置費が優先適応され、所得に応じた費用徴収も行われず、本人負担は生じないと解釈する。間違った解釈であれば、遠慮なく指摘していただきたい。

しかしこれはあくまで成年後見人が選任されるまでの一時的な扱いで、措置費受給を漫然と続けるわけにいかないので、どこかの時点で市町村申し立てによる成年後見人の選任が必要である。

そうであれば、入所時点で必要になる施設サービス計画の同意などを考えた場合、現在入院している医療機関にいる間に、成年後見人を選任してもらって、措置ではなく、通常の入所契約で対応した方がよいと考えられるケースでではないだろうか。生活保護受給しているがゆえに、費用面での本人負担も生じないので、その方向で協議しているところである。

利用者の不利益にならないのであれば、このあたりは施設側から積極的にどうしてほしいという希望を明らかにして、協議していくべきではないかと思う。

介護・福祉情報掲示板(表板)

4/24発刊「介護の詩・明日へつなぐ言葉」送料無料先行予約キャンペーンのインターネットでのお申し込みはこちらからお願いします。

4/24発刊「介護の詩・明日へつなぐ言葉」送料無料先行予約キャンペーンのFAXでのお申し込み。は、こちらから用紙をダウンロードして下さい。

人を語らずして介護を語るな 全3シリーズ」の楽天ブックスからの購入はこちらから。(送料無料です。