今、我が国が迎えている超高齢社会というのは、過去に経験したことがない様々な困難を生みだしている。まさに今我々は人類がかつて経験したことがない未知の高齢社会を迎えている最中なのだと感じることが多くなった。

制度やサービスでは、どうしようもない問題が全国各地で出現している。我々はこの状況にどう立ち向かっていけばよいのだろうか。

そんなことをふと感じた理由は、今月19日、大阪府高槻市三島江の民家の風呂場で、83歳の夫と82歳の妻が倒れているのを、隣に住む人が見つけたというニュースに接したためである。

浴槽に浸かった妻の上に、夫が覆いかぶさった状態で、2人ともすでに亡くなっていたそうである。死因は溺死とみられている。夫は心臓に持病があり、妻はパーキンソン病で歩行が困難だったというご夫婦は、近所でも評判の仲のよいご夫婦であったそうである。

おそらく妻の入浴介助をしていた夫が発作を起こして倒れ、その後、妻も浴槽でおぼれて死亡したと考えられる。夫妻は2人暮らしで、ほぼ毎日、通所介護事業所に一緒に通っていた。この日も高槻市内で介護サービスを利用し、午後3時半ごろに帰宅したそうだが、サービス事業所で夫は、「高熱がある」などと体調不良を職員に訴えていたそうである。

通所介護に通っている妻が、なぜ通所介護利用日に自宅で夫の入浴介助を受けていたのかという疑問が生ずるだろうが、夫はこの通所介護事業所で入浴支援を受けているが、妻は下半身が冷えるため就寝前に夫が自宅で入浴させていたというのである。それは理由としてなるほどとうなづけるもので、通所介護利用の際に、「入浴しない」というプランを作成していること自体は、担当ケアマネも、通所介護の計画担当者も非難されるべき問題ではない。

遺体が風呂場で発見された19日朝は、隣の茨木市に住む長女が電話したところ応答がなかったため、近所の人に安否の確認を頼んだことで発見されたそうである。

つまりこのケースは、同居家族がいないケースではあるが、近くに長女が住んでいて安否確認が常にされており、高齢要介護のご夫婦であるが、支え合って自宅で生活できていたケースである。必要なサービスも組み込まれていたケースであったろう。

本ケースが、入浴支援を自宅で行うというプランであって、それを介護サービスで行うプランであるとすれば、こうした事故は起きなかったかもしれない。しかしそれはあくまで結果論であって、心臓病の持病があって高齢であるという理由だけで、夫が入浴支援を行うという希望があった際に、それを駄目だと言えるようなことにはならないのではないだろうか。

例えば夫が、「入浴くらいは、他人の手を煩わせず、妻にも精神的負担をかけることのないように自分で支援したい。」と希望されたら、それを否定するなにものも存在しないのではないだろうか。

本ケースでは、夫が通所介護利用中に、「高熱があるなどと体調不良を職員に訴えていた。」という状況は確認されているのだから、そうであれば、その日は無理して自宅で妻の入浴支援をしないでおくようにアドバイスすることは求められるだろうが、だからと言ってそのアドバイスが必ず受け入れられるとも限らないし、妻がどうしてもその日に自宅での入浴を希望して、夫がその時に自分の体調が万全ではなくとも、大丈夫であると判断すれば、いつものように寝る前に入浴させるということは普通に行われてしまうだろう。

こうした状況では、誰も非難される行動をとっているわけではないわけだから、今後どうしたらよいのかという対策や教訓が、なかなか見つけられないというのが本当のところではないだろうか。

地域包括ケアシステムとは、在宅で暮らすことのできる限界点を引き上げるためのシステムでもある。

そうなると、こうした高齢夫婦世帯であっても、お互い支え合って暮らしが成立しておれば、施設入所をせずに、自宅で暮らし続けるという選択が増えていくのであろう。それは何も否定されるものではないが、同時に過去には想定さえされなかった様々な介護事故が、自宅で起きていく可能性が高いという意味になる。

そして高齢者夫婦のみの世帯で、介護を受けるものと介護をするものの間で事故が起きて、両者が同時に被害を受けてしまうという本ケースのような状況は、密室化された自宅でSOSを出せない状態で、被害状況が悪化するという結果に繋がっていく。

こうしたケースを、レアケースと言っている場合ではなく、似たような事故が増えていくのが超高齢社会ニッポンの現状ではないだろうか。しかしすべての危険性を察知して、あらかじめ事故を想定したケアプランを立てるなんてことを介護支援専門員に要求されても、それは無理難題というものである。

せいぜい一人暮らしや、高齢者夫婦世帯の場合に、サービス担当者会議において、自宅で起こり得る事故を想定して話し合うということができるのかもしれないが、それが実効性のあるものなのかどうかは甚だ疑問である。

本当に難しい時代になったと思う。ただ一つ言えることは、在宅重視の介護保険制度だからと言って、施設サービスは必要悪ではなく、高齢期の暮らしの場の選択肢の一つとして考えられるべきだということである。

居宅介護支援に携わる介護支援専門員の皆さんも、施設入所の判断の際に、やむを得ず入所するという意識ではなくて、その人に、その世帯に一番ふさわしい居所として、介護施設が、「暮らしの場」として選択されることがあってもよいという考え方が求められる。

同時に施設サービスに携わる我々は、介護施設という場所を、暮らしを送る場としてふさわしい場所にしていくことが求められていると言えるのではないだろうか。

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