先週水曜日のブログ記事に書いたが、僕は介護福祉士養成課程見直しの1年延長に賛成であるし、むしろもっと延長期間を長くして、じっくり時間をかけて本当に必要な施策を考えるべきだとさえ思っている。

そういう意味で、この延長に大きな影響を与えた全国老施協の働きかけには拍手と賛辞を送りたいと思う。

しかし一部の関係者は、このことを否定的に捉えているようで、介護サービスに従事する職員のスキルアップの足かせになると憂いている人もいるようである。ころころ変わる国の方針そのものに不信感を持つ人もいるようだ。

それらの人々の考え方もわからないではないが、問題はスキルアップのためだけに一つの資格だけのハードルを高くして問題ないのか?ということなのだ。

介護職の中心を担う基礎資格である介護福祉士のスキルアップを図ることは重要であり、このことに難癖をつけるつもりはまったくない。しかし国民生活全体を鑑みた時、いま一番求められる施策は、介護難民を作らないことである。介護が必要な人に、必要なサービスが提供される最低限のセーフティネットの構築が最重要課題なのである。

それが今危うくなっているという現状があるにも関わらず、その対策はまったくと言ってよいほどとられていない。そうした中で、介護福祉士という一資格だけの取得ハードルを上げることに、どのような意味があり、結果的にどんなことが起こるのかということを考えた時、今早急に、変更時期が決められているという理由だけで資格取得方法を変えるメリットより、デメリットの方が大きくなるということが考えられ、そのためにここで時期を延長することは必要なことなのだと考える。

一番の重要課題である介護難民を作らず、必要なサービスを必要な人に適切に結びつけるためには、介護サービスを提供する人材の質向上を図る方策と、人材確保の方策をセットで考えていくのが本来である。今回の見直しは、前者のみが先行され、後者の施策がまったくとられていない中で行われてしまうことで、介護という社会のセーフティネットに穴があく可能性がある。そのことを鑑みて実施時期をずらしたと考えるべきだろう。

そして延長された期間を利用して、本当に必要な施策を考え直していくことが何より大事である。

ここでは、介護福祉士の資格取得ハードルだけを高くして、介護支援専門員の資格取得ハードルが今のままでよいのかという議論があってもよいと思っている。

特に実務経験ルートについては、実務者研修というハードルの高さによって、実務経験3年で介護福祉士を取得しようとする動機づけは低下し、逆に実務5年で介護支援専門員資格を取ろうとする動機づけは、ますます増加するだろう。

なぜなら実務経験が2年余計に求められると言っても、介護支援専門員の受験資格は、その実務経験だけでよいとされ、実務者研修などのハードルがないからである。介護サービスの職業に従事しながら、勉強して資格を取るのであれば、時間もお金もかかる450時間の実務者研修が必要な資格より、実務だけでお金も時間も別に必要とされない介護支援専門員資格の方が良いと考える人は確実に増えるだろう。

介護支援専門員の資格試験は、かつてより合格率が下がったとはいっても、試験内容を見ると、さほど難解だとは言えず、仕事をしながらきちんと勉強する人は合格できない試験ではない。ハードルが上げられた介護福祉士資格より、介護支援専門員の資格に魅力を感じる実務経験ルート対象者が多くなるだろう。

その中には、本当は介護職を続けたいが、資格のない不安定な雇用状況でそれを続けることも困難で、しかし実務研修を受けるお金も時間も捻出できないために、それが必要とされない介護支援専門員の資格を取得して、本来の望みではないが、正社員ではない非正規の介護職員をやめて、介護支援専門員として正規雇用されるという人もたくさん出てくるだろう。

そうした結果、何が起きるか?介護福祉士の数が減り、介護支援専門員の数が増えるということは、相談援助職に携わる人の数は増えたとしても、介護職員が社会全体からみると大幅に減るということである。

もちろんその先には、介護支援専門員としての就業場所が確保されるのかという問題が生ずるだろうし、介護支援専門員に対しては、近い将来働く場を提供する事業者の方が有利となる、買い手市場という状況が見えてくるであろう。しかしそこに達するまでに、もっと深刻な状況が生まれるだろう。

それは介護職員の確保が難しいという状況がますます深刻化するということだ。

介護職員が、介護福祉士を取得せず、介護支援専門員の資格を得ることによって、介護施設や介護サービス事業所の介護職から離職する人が多くなるだろう。そこでは夜勤などに従事する人の数は、現状よりはるかにその数の確保が困難となり、利用者はいるのに、サービス提供できずに廃業せざるを得ない事業者が爆発的に増えるであろう。

そんなことになってよいのだろうか?

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