介護福祉士の資格取得について、27年度(28年1月実施試験)から、養成校卒業者も国家試験を受けて合格しなければならなくなり、実務者ルートでも450時間の実務者研修受講が義務付けられるという問題について、先週「今後の介護福祉士養成校に求められるもの」という記事を書いて、改正要点や問題点を指摘したところである。
ところが、この実施時期が1年延長されることが確実になった。
これは昨日開催された、「社会保障制度に関する特命委員会・厚生労働部会合同会議」で、厚労省が見直しを1年先送りすることを自民党側に伝え、了承されたものである。
この会議では自民党の提出資料にそって話し合いが行われ、ますます深刻化する介護人材不足のなかで、経済状況の好転による他業種への流出懸念が高まっており、資格取得のハードルを上げるだけでは介護業界への入職意欲が削がれる恐れがあり、幅広い方面から人材を確保するための方策を講じる必要性が高まっているとして、以下の2点について、通常国会に提出予定の改正法案に盛り込むとした。
1.介護人材の確保のための方策について、1年間をかけて、検討を行うこと。
2.資格取得方法の見直しの施行時期を1年間延長すること。
もともと資格取得の見直しは、介護福祉士の資質向上のために提案されていたものだが、資格を目指す人のハードルを上げることにも繋がるため、自民党内では、「介護福祉士を目指す人が減る」「人材の確保に逆行する」といった不満の声が出されていた。
介護の人材不足が深刻化している現状では、その対策を行うことなく、介護福祉士の資格取得のハードルだけを上げることが、深刻な現状に拍車をかけてしまう懸念がぬぐえず、資質向上の方策を先送りしても、数の確保を優先させるべきであるという主張に、厚労省側が折れた形である。
この資格取得方法の改正については、以前も実施時期が12年度から15年度に先送りされた経緯があり、延期は2度目となる。さらに「介護人材の確保のための方策について、1年間をかけて、検討を行うこと。」の検討課題の中では、この資格取得見直しが本当に求められることであるのかということも議論されるのではないかと思われる。そうであれば28年度までの延長の再々々延長や、根本的な見直し(資格取得ハードルを上げたルールの撤回)等も議題とされるのではないだろうか。
介護の専門職の資質向上は必要であるが、増え続ける要介護高齢者にサービスを提供する人材の確保は差し迫った課題である。前述したように、そのことに対する具体的な方策がまったくされないままで、資格取得ハードルだけを高めても、それ以後に介護福祉士の資格を取得する人のスキルの最低基準は、ある程度のレベルで担保されるとしても、その資格を持つ人が少なくなるのであれば、最初から介護を職業として選ぶという動機づけを持たない人が増えるだろう。
その中で、介護サービス全体では、安かろう悪かろうという人材をかき集めてサービス提供せざるを得ないか、必要な人材が集まらずに、従業者に過度な負担を強いて、結果的にバーンアウトする人がたくさん生まれ、ますます介護を職業とする人の数が減っていくという悪循環が助長され、介護業界全体のサービスの質は低下が懸念されるだろう。
そういう意味で僕個人としては、今回の延長方針には大いに賛同するものである。
関係者の中には、このことを介護の専門職の地位低下と捉える向きもあるが、国民生活全体を鑑みた時、介護難民を作らないことがまず重要で、質の向上を図る方策と、人材確保の方策をセットで考えていくのが本来であり、後者をおざなりにしたまま、質の担保を先行して図ろうとした厚労省の意図が一旦砕けたことは、勇み足に物言いがついたという意味で、質と数の両面を改善するための必要不可欠な時間がかけられたという意味に捉えた方が良いだろう。
今回の延長の背景には、全国老施協から野田衆議院議員(介護議員連盟会長)への要望と、野田議員からの厚労省への働きかけが大きなきっかけになったようであるが、現場の人材・人員不足に悩む老施協会員施設のトップとして、全国老施協には拍手を送りたいと思う。
特に実務経験ルートは、現状でも全ての人が国家試験を受験して合格した人だけが資格を取得する仕組みになっており、そこで必要な知識や介護実技を審査しているのだから、450時間もの時間とお金をかける実務者研修が本当に資質の担保になるのかという議論があってよいだろうと思う。
例えば養成校では、喀痰吸引等に対応した医療ケアのカリキュラムが50時間増えることになっているが、実務者研修も、実務3年+国家試験というハードルの重みを考えると、この50時間でよいのではないかという考え方もあってよいのではないだろうか。
どちらにしても27年度からの改正は延長されたのだから、実務経験ルートで資格取得を目指す人で、3年の実務に達して受験資格を得られるのが平成27年度試験であった人には朗報だろう。
そのことは今後介護福祉士資格取得を目指す人々に、できるだけ早く情報として伝えてほしいものである。
このことは、介護サービスの深刻な人手不足という問題に対して、具体的な処方がされず、その問題解決の糸口さえ見えないということが根底にあるのだから、政府や厚労省は、抜本的問題書き決に向けた具体的対策に、重い腰を上げて取り組んでほしいものである。
特に介護労働者が、これだけ必要とされる社会というのは、その数が一つのカテゴリーとして社会的な影響を与える数になり、介護労働者の待遇改善が一定の経済効果に繋がるのだから、経済対策として待遇改善ということを考えてほしい。社会保障財源には限りがあるだろうが、経済対策は財源から支出した費用以上の収税効果が期待でき、増え続ける介護職員の給与アップは国民総所得(GNI)のアップ〜国内総生産(GDP)のアップにもつながるのだから、経済対策として国費を投入する価値はあると考えるのである。
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質の向上を確保することと、人材を確保することは両方とも重大な課題ではありますが、現在取得している介護福祉士の質の向上をはからず、これから入る門を狭きものにするのはどうかと思っていました。
同じようなことが介護職員初任者研修でも感じています。
カリキュラムの中にテスト制を導入することで、今までよりも受講生は減ってきています。
テストだけがすべてではないですが、受講生にはかなりの負担を感じているようです。
しかし、質の確保もかなり重要と感じています。
わたくしは、職能団体で研修を開催する立場にもあるのですが、
介護福祉士の方はとても研修参加率も悪いです。
ケアマネや、社士の方は、モチベーションが高く、介護福祉士の方は
モチベーションが低いと感じてしまうのも仕方がないくらいの参加率の差はあります。
この差を埋めていくためにも、そして、人材確保が必要な時代に、質の確保をしていくのは職能団体の役割だと感じ、日々奮闘しております。