先週木曜日の記事で、介護福祉士養成校の「就職率100%」というキャッチコピーは、生徒募集・確保の有効な手段にはなっていないことを指摘した。

全員が就職できる専門学校ということより、就職先がすべて将来設計を立てられることができる場であるのかということが就業動機として重要になるのだから、その保障に繋がる資格を得ることができ、給与体系のしっかりした事業者に就職できることを就職担当教員や、学生たちに伝える方向に考え方を変えていかないと、介護福祉士養成校に入学する動機づけには繋がっていかないだろうと思うと書いた。

ところでこのことに関しては、27年度の介護福祉士国家試験から、資格取得の条件・方法が変わるという問題がある。

27年度の介護福祉士国家試験(28年1月実施試験)からは、全ての人が国家試験を受験する必要があり、この試験に合格しないと介護福祉士の資格を得ることはできない。また介護福祉士養成校のカリキュラムも、喀痰吸引等に対応するため、新たに医療的ケア50時間が加えられた新カリキュラムが、27年4月から導入される。

介護福祉士国家試験
上のルート図のように変わるわけであるが、これを見て分かるように26年度試験(27年1月実施)までの、介護福祉士養成校を卒業して自動的に介護福祉士資格が付与されることはなくなるわけである。当然そうなれば、試験に不合格となり、介護福祉士養成校は卒業したものの、資格が取得できないという資格浪人者が出てくるわけだ。

新しい試験ルートのうち、実務経験ルートにも変更がある。新ルートは実務経験(3年以上) → 実務者研修(450時間) → 介護福祉士国家試験とされ、現在のように実務3年で、即試験を受けられるということではなくなり、450時間の実務者研修を受講して初めて、国家試験を受けることができるということになる。これにより実務経験ルートでの受験者数は減少するのではないかと予測される。なぜなら実際に仕事を持っている人が、450時間もの時間を割いて、お金をかけて実務者研修を受けることができるのかという問題があり、そのハードルの高さによって国家資格取得をあきらめてしまう人もいるであろうことが予測されるからである。

そう考えると、27年度以降は介護福祉士の資格を新たに取得する人の数が、現在より大幅に減るのではないかという予測も立てられる。その数が半減したっておかしくはない。

しかしそれは介護福祉士の有資格者の価値を高めるかもしれない。少なくとも介護福祉士の有資格者を一定数雇用・配置して介護報酬上の加算を算定している施設や事業所では、その資格者を求めることが今より難しくなるのだから、売り手市場の中で、介護福祉士の待遇自体は改善の方向にベクトルが向けられるのではないだろうか?

それに見合ったスキルをどう担保するのかは別な課題として残されるが、ますます介護福祉士という資格を持っている人は、就業先の確保には困らなくなることは事実だろう。

だからと言って介護福祉士養成校は、今より生徒確保に困らず、経営が安定するかと考えた時、必ずしもそうとは言えない。

前述したように、介護福祉士養成校で2年間勉強し、無事卒業できたとしても、資格が必ず取れるわけではないのである。そうなると現在は就職率が100%であったとしても、介護福祉士の受験資格があるというだけでは採用しない事業者も多いだろうし、仮に採用するとしても資格試験に合格していない人は正規職員としての採用は難しいであろう。

その結果、就職率は確実に下がり、試験に合格した人は今よりよい待遇で就業できる一方で、資格試験に合格できない人の待遇は、今より格段下がる可能性が高く、その格差がクローズアップされてくる可能性が高い。

そうであれば、そこで介護福祉士養成校に求められるものは、就職率ではなく、国家試験合格率ということになる。

ところで先週の記事でも指摘したが、介護福祉士養成校の人気は必ずしも高くなく、学校数やクラス数も減少傾向にあるが、それは生徒を集められないと学校経営自体が難しくなることを意味しており、入学者をかき集めているという状況が少なからず存在する。それは将来、介護サービスの戦力となり得るスキルを持たない人まで入学してしまうという現状を生んでおり、いくら丁寧に熱心に教育しても、社会から求められているスキルを身につけることができないまま卒業してしまうという学生が少なからず存在する。

卒業審査を厳しくして、入学しても卒業できないという評判がたてば、入学者はますます減り、学校経営は成り立たないわけであるから、そうした学生であっても、教員は追試を何度も行い、最後にはレポート提出でお茶を濁して何とか進級や卒業にこぎつけ、そのことでやっと資格を取っているという学生が少なからず存在するというのが、現在の介護福祉士養成校の一面の真実でもある。そういう学生をどう教育し、試験合格レベルまで知識を獲得させていくかということが重要な課題である。

そして試験合格率の低いところには、ますます生徒が集まらず、経営できない恐れが出てくることを考えると、今後の介護福祉士養成校の教員には、試験合格するための授業が求められてくるであろう。

つまり将来の介護サービスを担う人材としての人間教育より優先して、受験対策としての授業が求められるし、人を成長させる教育に熱心な教員より、試験合格率を上げる手腕に長けた教員が評価されることになるであろう。

試験に合格する程度の知識を身につけることは求められることだろうが、同時に対人援助に必要なスキルとしての、人間教育が片隅に追いやられ、受験テクニックにだけ長けた有資格者が生まれていくことに一抹の不安がないわけではない。

例えば一部の福祉系大学が、社会福祉士合格率を高めようとして、社会福祉士試験予備校みたいな状態になって、研究教育機関としての機能が低下し、社会福祉援助者としての有能な人材が生まれにくくなっているのと同様の状態が懸念されるわけである。

対人援助サービスの質を担保するための人間教育と、資格試験に合格するための受験テクニックという2つの課題を、今後の介護福祉士養成校は背負っていかねばならないことになり、教員の質というものも改めて問われてくるのではないかと考える。

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