全国老施協のJS WEEKLY 411 号 には、「なぜ、訪問介護・通所介護のみを外すのか」(厚生労働省老健局振興課長朝川知昭氏の行政報告)が掲載されている。以下にそれを転載させていただく。
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・ 今回の制度改正では、予防給付の見直しとともに、生活支援サービスの充実を行っていく考え。
・ 元気な高齢者も含めて、これからの軽度者に対するサービスの在り方を考えた時に、高齢者をサービスの受け手と考えるだけではなく、むしろ役割をもって積極的に社会に参画をするような地域づくりを目指していくべきだと考えている。
・ 介護保険の給付は、国が一律に基準を定めており、サービス内容を多様化できるような体系になっていない。これは専門的なサービスを守るという意味では非常に良いが、一方で、多様なサービスをつくっていく際、そこを財政的に支援する枠組みとしては難しい仕組みになっている。
・ したがって、これから地域で多様なサービスを増やしていくための支援を強化するにあたって、どこのサービスが最も親和性があるのかといえば、訪問介護、デイサービスという福祉系サービスだと考えている。本来、福祉系のサービスは地域と密接に関わっているもの。このあたりが医療系のサービスと大きく違うところだと考える。
・ 淑徳大学の結城教授から「介護保険の枠組みよりも地域福祉の枠組みではないか」とのご指摘があったとおり、そういう要素が大変強く、福祉の分野そのものだと思っている。地域づくりを合わせて行う際、「多様化するサービスとして地域支援事業に移行するサービスは何か」と考えると、この2つのサービスが最も近いものになる。
・ こういう考え方で、訪問介護、デイサービスを地域支援事業に移行する提案となった。
(以上転載終わり)
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このように説明されているが、訪問介護と通所介護だけを地域支援事業の総合事業にして、介護給付から外す理由として、この説明は納得できると言えるだろうか?

僕は何度読んでもこの意味がわからない。「介護保険の給付は、国が一律に基準を定めており、サービス内容を多様化できるような体系になっていない。」というが、それでは現行の訪問介護と通所介護が、そのことによってどんなデメリットを利用者に与えているというのだろう?地域独自のサービスを提供しなければならない根本的な理由がどこにあるというのかさっぱりわからない。

特に通所介護は、小規模事業所を中心に急激に増えており、そこを利用する多くの要支援者が存在するということは、利用者ニーズに合致しているから、利用する人が増えて、事業者数も増えているという意味ではないのか?

ところで国の給付外しの理由説明の中で、新しい文言を出しているのに気づいた人も多いだろう。それは「親和性」である。ここ言葉を広辞苑で引くと、「物事を組み合わせたときの、相性のよさ。結びつきやすい性質。」という意味であることがわかる。

訪問介護と通所介護という福祉系サービスは、地域支援事業としての新総合事業と、最も相性が良くて結びつきやすいという意味になる。

それに対して、医療系サービスは地域支援事業との親和性がなく、その理由は医療系サービスというものは、地域と密接に関わっているものではないからだということになる。

本当にそうなのか?通所リハビリに親和性がなくて、2単位で午前と午後に分かれてパワーリハビリをメインにした機能訓練に特化した通所介護に親和性があるという理屈は成立するのだろうか?

訪問介護の入浴支援と、訪問看護の入浴支援は、親和性に違いがあるのだろうか。

行政報告に先立って同会で講演を行った結城先生は、介護保険部会などで、予防訪問介護と予防通所介護を地域支援事業とすることで、地域間格差の拡大やローカルルールが生じること等への懸念を示し、利用のハードルが下がることによってモラルハザードなどが起きる危険性を指摘しているが、今回JS Weeklyで示された行政報告では、その前に行われた結城先生の講演での発言である、「地域福祉の枠組み」という言葉を使って、逆に地域支援事業への移行の正当性を説明している。これには結城先生も違うよって言いたいのではないのか。

要するに給付外しは、予防サービスを市町村事業にして、財源構造は変えないものの、給付費の総額上限を決めて管理することで、財源支出を抑えようとするもので、この場合、5期は良いとして、6期に大幅に予防サービス利用者が増えた際にも、財源支出は上限までに抑えるというのだから、同じサービスであっても単価を低くしていかねばならないわけである。そのため単価の低い別サービスを地域保険者の責任で作り出していきなさいと、地域保険者に丸投げしたという意味でしかない。当初これを全予防給付サービスに広げようとしたものの、医師会などの強い反対意見があり、これに一部の政治家なども同調する向きがあったため、給付額が一番延びている予防通所介護と、家事支援がいつも問題となる予防訪問介護を人身御供にして給付から外し、その他のサービスは現行給付に残すことで反対意見を押さえ込むことに成功したということだろう。

全国老施協は、これに対して改めて反対意見を出しているようだが、以前に老健局長宛に提出した「介護保険制度の見直しについて(意見)」の中で、予防給付の市町村移管について移行期間を設け、財政支援などの国の協力体制を整備することなどを提言しているだけで、市町村事業への移管そのものには絶対反対ではなかったのだから、説得力はあまり感じられない。今更何を言っても始まらないのではないかと思ってしまう。戦略ミスと言われても仕方ないのではないだろうか。

このことは非常に残念に感じるのである。

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