全国老施協のJS WEEkLY Vol410(11/29)に、「第7回正副会長・委員長会議」の中で行われた、高橋泰・国際医療福祉大学大学院教授の「人口減少に向かう日本の医療福祉の現状と将来予測」と題した講演内容が報告されている。下記にその部分を転載させていただく。
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最初に、高齢者人口の推移や人口減少の推移を説明した高橋教授は、「2030 年に向けて後期高齢者は700 万人増加する一方、若年人口は今後100 年以上減少し、2030 年以降は急激に人口が減少、22 世紀初頭には、日本の人口は半減する」と指摘。
次に、地域別高齢者収容能力の現状と将来予測について解説。介護保険施設と高齢者住宅を含めた総要支援高齢者収容能力について、高橋教授は、「今後、地域によって2極化していく」と、とりわけ東京をはじめとした大都市圏の深刻な状況を強調した。「首都圏では、区東北部を除く23 区内や川崎南部、横浜南部、北多摩南部、東葛南・北部など、軒並み100%以上増床が必要」と危機的な状況を示した。
こうした状況を踏まえ、高橋教授は、「今後、大都市圏ですべての入所ニーズに応えるための施設整備は非常に困難で、医療・介護の充実した地方への移住も選択肢となりうる。加えて、在宅での自立期間を伸ばし、延命治療から自然死を進める取り組みに移行させていくことにより、医療・介護・福祉の必要度を3分の1減らせれば、現状の社会インフラで乗り切れる」と、展望も示された。(JS WEEkLY Vol410より転載)
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あらためて数字で示されると、我が国の高齢者介護の厳しい現状が浮かび上がってくる。

人口減少社会の中で、後期高齢者数はさらに増え続け、都市部では要支援高齢者収容能力に限界が生ずるという。(収容という言葉はいかがなものかと思うが、講演の中で使われている言葉であり、そのまま転載させてもらう)

しかし都市部で収容能力が限界に達した時に、医療・介護の充実した地方への移住が必要になるとして、それを受け入れることができる「医療・介護の充実した地方」が2030年にどこに、どの程度存在するかが問題である。

地方の施設や高齢者向け住宅であってもさほど空きがないのが現状だろうから、今後に向けて地方にさらに箱ものを作って収容能力を上げるとして、そこでサービス提供する人手が存在するのかという問題がある。そう考えると、「収容能力がある」ということと、「介護が充実している」ということは別に考える必要がある問題であることにも気づくと思う。

すでに介護サービスの現場では、事業指定を受けて器を作っても、そこで適切なサービスを提供できるだけの人材が集まらないことが一番のネックである。施設管理者の最大の悩みは、人材をどう集めるかというところであり、人材教育の前に、教育すべき人集めに奔走しなければならない現状がある。

実際に介護施設をはじめとしたサービスの現場では、常に人が足りず、常に職員募集をかけているという施設が多いのではないだろうか。

そんな中で、震災復興と東京オリンピックに関連し、建築業を中心にして雇用ニーズは増大している。

例えば新しい築地市場の建設にあたって、東京都の入札が3件中1件しか成立しなかったように、建設業界でも仕事はあるのに人が足りず入札に応じられないという情勢が生まれている。そのため少なくなる若年労働者を確保しようとして、様々な対策が講じられていくだろうが、資金が潤沢に落とされる建設業界と異なり、介護業界は財政削減という荒波も同時に訪れているのだから、その近未来像は一段と厳しいものになるだろう。

さらに言えば、社会福祉法人に対する厳しい評価という情勢がある。

JS WEEkLY Vol410でも既報されているように、政府の規制改革会議は11 月27 日、社会福祉法人の財務状況をめぐる議論を行い、公表数字を集計できた894法人(済生会:2011年度、聖隷福祉事業団:2011年度、厚労省所管病院あり複合体16法人:2011年度、厚労省所管病院なし社福286法人:2011年度、自治体所管病院あり複合体56法人:2011年度、東京都所管病院なし社福534法人:2012年度)の経常黒字額は合計779億円。単純計算にはなるが、この数字をもとに1万6,391法人の黒字総額を推計すると、合計5,056億円に上るという。これを経常収入に対する黒字比率に当てはめると、約6%になり2012年度の東京証券取引所上場企業の平均経常利益率4.6%を上回る形となったことを受けて、法人税や固定資産税の非課税優遇措置を受けているが、一般企業との公平性の観点から、優遇制度を見直すべきという声も上がっている。

この数字に対する評価には、反論要素が多々あるが、どちらにしてもこの情勢下で2015年からの介護報酬改定議論が行われるのだから、社会福祉法人が主たる経営主体である特養の介護報酬は厳しいものになることが容易に予測できる。給付費のアップどころか、下げられる可能性さえある中で、人件費をさらにかけて人集めをするということが困難となる介護業界に、今後人員不足が解消できるほど人が集まる要素はあるのだろうか。

「在宅での自立期間を伸ばし、延命治療から自然死を進める取り組みに移行させていくことにより、医療・介護・福祉の必要度を3分の1減らせれば、現状の社会インフラで乗り切れる」と指摘されているが、在宅での自立期間を伸ばす方法論が確立できているわけでもなく、今後も確立できるとは限らず、むしろ指摘されている情勢下で、介護予防の取り組みが市町村に丸投げされていくことによって地域間格差が広がるだろう。そうした中で高齢化はますます進行するのに、自立して在宅で暮らす高齢者が増えて今以上に介護サービスを使わずに済むなんていうことがあり得るだろうか?元気で自立する人以上に、加齢に伴う廃用によってサービスを使う人が増えるのではないだろうか。

自然死議論は重要であるし、延命治療絶対主義から脱皮することも求められるであろうが、そうであるがゆえに終末期の介護の必要性は増えるのではないだろうか?

後期高齢者の数の増加を見ると、その絶対数が減らない限り、医療・介護・福祉の必要度を3分の1減らすなんてことはできないと考えざるを得ないのではないだろうか?

しかしこれはサービス提供する事業者だけの問題ではないということを、政治家も官僚ももっと深刻に考えて欲しい。超高齢社会の中で、高齢者がその最晩年期に暮らしの場所に困るということでは、先進国どころか国家としての基盤が揺らぐということである。国民の命と暮らしを守るための介護なのである。

国民が安心して暮らすことのできる社会とは、自らの力だけでは生活が成り立たなくなった時に、適切なセーフティネットが存在する社会である。高齢期に、人生の最晩年期に、誰もが安心して暮らしを送ることができるための介護サービスというのは、社会のセーフティネットのはずである。

高齢期という時期は、特別な人だけに訪れるものではなく、すべての人が向かい合う可能性のある時期であり、その時期に誰の手も借りずに生き続けることができる人の方が少ないという現状を考えると、国家として福祉・介護というセーフティネットを張り巡らす取り組みが一段と求められるのではないだろうか。

介護・福祉情報掲示板(表板)

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