再来年4月からの次期介護保険制度改正に直結するプログラム法案(社会保障制度見直しの手順をまとめたもの)は、既に閣議決定され、その中には特養の入所基準の見直しとして、要介護3以上の認定を受けた人だけを入所対象とするという案が含まれている。

僕はこの案が示されてすぐに、「特養の入所基準見直しの影響を考えてみた」という記事を書いて、その新ルールによるデメリットは、事業者側である特養に生ずるのではなく、特養入所が必要な軽度介護者とその家族に生ずることを指摘している。要介護1と要介護2の方々が、特養に入所しているのには、それなりの理由があり、それは必要なことだからである。

このことについては全国老施協も、月間JS老施協10月号の中で、「要介護1、2であっても、認知症や家族介護に限界があるために、受け皿は特養しかないという方々は大勢おられます。こうした方々の生活を支えるためには福祉的な視点が必要です。」として、新ルールの最大の問題は「福祉」の欠如であると指摘している。そして石川老施協会長の発言として、「介護保険制度では要介護1〜5まで設定されているにもかかわらず、3以上しか使えないとするのはある意味、介護保険料を支払っている方々に対する裏切り行為であり、許されることではありません。」という主張を掲載している。

リンクを貼り付けた記事にも書いているように、入所ルールの変更の目的は財源確保であり、厚労省は、現在特養に入所している要介護2以下の人にかかっている介護給付費(自己負担分を除く)を月26万〜28万円程度とみて、これらの人が在宅にシフトした場合、その費用が10万程度になるとして、給付費の抑制効果を見積もっているわけである。

しかし現在特養に入所している要介護2以下の人は全体の一割にも満たず、その費用抑制効果は限定的であるし、そもそも要介護2以下の人を排除して、要介護3以上の人だけが入所するようになった場合には、特養の給付費自体は定員割れしない限り増えるわけである。増える分が特養の給付費より高い、老健や介護療養型医療施設に入所するような人が、特養に入所しやすくなって、老健や療養型医療施設にかける費用の削減につながれば、厚労省の見積もり通りの費用削減になるだろうが、実際には自宅で暮らすことができる要介護3以上の人の、自宅での待機期間が短くなるだけの結果になる可能性が高く、費用削減効果はほとんど認められないという状況になりかねない。

そうであればメリットよりデメリットの方が多いルール改正ということができ、誰もこのことによって良い状態にはならないと言えるだろう。

そのため特養関係者だけではなく、介護保険部会の委員の一部からも疑問の声が挙がっており、マスコミ各社も批判的な論調が多く見られた。

厚労省はこうした声を受けて、明日開催される社会保障審議会介護保険部会では、特養入所を要介護3以上の利用者に限定する案を見直し、一定要件をクリアした要介護1と要介護2の認定者の入所を認める修正案を示す予定である。

修正案によると、常時の見守りが必要な認知症高齢者のほか、周りに支える人がいなかったり、自宅で家族などから虐待を受けたりする可能性がある要介護1と2の認定者ついては入所を認めるとしている。そして入所の可否を最終判断するのは、特養内に組織化されている入所判定委員会とし、詳しい基準は今後検討するとしている。また、特養への入所後に心身の症状が改善して軽度になっても、特養以外での生活が非常に難しい場合と判断されれば、入所の継続を認める方針も部会に示す予定である。

現行の入所判定においても、要介護1や2の方々については、入所順位が上位に来ないことが多く、介護者の負担などの状況判断をして、入所順位を引き上げているなどで対応していることが多いだろうから、修正案は現行ルールが大きく変わる結果にならないことを意味していると言えるのではないだろうか。

そしてその判定を、外部の有識者と施設職員で構成する、「入所判定委員会」で行うことにしたことは、現行の入所判定が正当に行われているという評価と言っても良いのではないだろうか。

そもそも収益上はメリットにならない要介護1や2の人々を、なぜ特養が入所判定委員会の審議を経て入所受け入れしているかという根本的な理由を考えれば、もともと要介護1及び2だからという理由で、それらの人々を特養入所対象から切り捨てる方がおかしいのである。

財源論、給付抑制策ということに目が奪われ、いかに厚労省の担当者が、曇った目で介護問題の実態を見失っているかというのが、今回の特養入所対象者の見直しの迷走に現れていると言ってよいであろう。

もっと現実を、もっと現場をよく見てほしいものである。そうしないから、介護保険制度はどんどん複雑怪奇なものになるだけで、ちっとも良い制度にならない。

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