電子メールが普及してから、メールボックスに入力した文字は、送信ボタンを押すだけで、送りたい人に届けることができるようになった。そしてそのことはごく普通に行われるようになった。

スマートホンの普及で、SNSを使ったコミュニケーションも当たり前になり、今考えたことをその場で文字にして、ラインなどを通じてリアルタイムにその思いを伝えることも当たり前になった。

僕たちの世代は、そんな時代が来ることさえ予測もしないアナログ世代であったが、いざコンピューターとインターネットが普及すると、それを普通に使いこなすようになり、携帯電話からスマートホンやタブレットも使いこなし、SNSだって日常的に利用するようになった。そうしたものが存在しなかった時代の、アナログ生活を送ったことがないような感覚に陥ることさえある。

しかし過去を振り返ると、遠くの人への伝達手段は、固定電話と手紙が主だったわけで、手紙を書く機会は実に多かったように思う。

それは学生時代に送った、好きな女の子へのラブレターであったり、社会人となってからは、出会った人、施設見学をさせてもらった人への礼状であったり、手紙というものはごく日常に存在していた。

しかしネット時代になって、手紙を書く事はめっきり少なくなった。愛の告白をする年齢ではなくなったので、ラブレターが何に変わったかはわからないが、仕事上の関係者への連絡や礼状もメールで済ましてしまうことが多くなった。

業務文書を送る際に、郵便を利用する機会はまだ多いだろうが、私的な部分で郵便を利用するのは、正月の年賀状くらいしかないという人も多いだろう。

ところが、僕の子供たちの世代では、そもそも手紙というものを一度も書いたことがないという人が存在する。物心ついた頃には、既にネットが普及し、携帯電話を持つことが当たり前になっていたから、メールでやり取りすれば済むというわけである。

しかしそうであるがゆえに、彼らの世代は、僕らの世代が自然に覚えることができたコミュニケーションルールというものを失ってしまっているのではないかと思う。

手紙というのは、書く時間と、それを郵送する時間にタイムラグがあるために、高ぶった感情の時に書いた文章を、そのまま送らずに済むという経験をしたことがある人は多いのではないだろうか。

例えば、夜書いたラブレターを、朝、郵便ポストに投函する前に読み返すと、人に見せられないような恥ずかしい文章が踊っていて、とてもじゃないけど好きな人に送られるものじゃあないということに気づいて、破り捨てた経験を持っている人は多いのではないだろうか。それも何度も・・・。

それを教訓にして、感情が高ぶっている時や、夜には手紙を書かないと決めている人もいるはずである。僕は、今でもネット掲示板のレスポンスでさえ、夜、陽が沈んだあとは書き込まないようにしている。夜はたいてい酔っ払っているという理由もあるが、それ以上に陽が落ちてから、人の感情はセンチメンタルになりやすく、ネガティブにも陥りやすい。日中の感情とはまったく違うので、うっかり夜レスポンスを書き込むと、必要以上に感情的・感傷的な文章になって、他者から誤解を受ける原因になってしまうことがあることを知っているからだ。

しかし手紙を書いたことのない人たちは、今思ったことをタイムラグなく文字にして送ってしまうということを習慣化しているために、必要以上に感情的なやりとりが頻繁に行われ、そのことで歪んだ人間関係を生じさせてしまうことがある。そしてそのことに気がついていないという恐ろしさがそこには存在する。

これが個人メールでのやりとりだけで行われているうちはまだ良いが、SNSなどを通じて複数の人との同時コミュニケーションの場で行われることで、問題はより複雑化する。特にラインは、ほかのSNSよりも関係性の深い、密度の濃い関係の友人・知人との共同コミュニケーションだから、そうした関係であるがゆえに、思いついたことをタイムラグなく送ってしまうということで、正常ではない感情のぶつかり合いが生じて、深刻なトラブルが発生する危険性が高いのではないだろうか。

そんな心配をすること自体が、年をとった証拠だと言われればその通りであるが、コミュニケーションの方法が変わることで、世界一ボキャブラリーの豊富な日本語が、どんどんその語彙(こい)を狭め、言葉の美しさを失っていくように思えてならない。

それは日本語の中から言霊(ことだま)が失われていくことのように思えて、少し寂しい思いになる。

だから僕は、言霊の意味をもう一度思い出してもらうような、ある企画を模索中である。

介護・福祉情報掲示板(表板)

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