介護支援専門員の資質向上と今後のあり方に関する調査研究・ケアプラン詳細分析結果には、ケアマネジメントが十分行われていない原因要素の一つに、居宅サービス計画書の記載内容の齟齬が指摘されており、その中には『「〜したい」という表現を用いることに捉われてしまったためか、利用者及び家族の意向をそのまま生活全般の解決すべき課題(ニーズ)に記載しているケアプランも多く見られた。 』とされている部分がある。

まったくその通りで、生活課題に背景要因を書かずに「〜したい」になってしまえば、本当の生活全般の解決すべき課題(ニーズ)が浮かび上がってこなくなり、それに対応するサービスに適切につなげることなんてできなくなってしまう。結果的に「〜したい」という表現に捉われてしまうことは、まず使うサービスありきで、それに合わせた目標や課題(ニーズ)をひねり出すという逆転現象を生み、ケアマネジメントが結果的に機能していない状態を生み出すのである。

しかしその原因を紐解くと、そもそもそのような「〜したい」表現に捉われてしまうように、国が介護支援専門員を教育しているという実態がある。

介護支援専門員実務研修や資格更新研修等で教科書として使っている「四訂・居宅サービス計画書作成の手引」(財団法人・長寿社会開発センター)の内容がひどすぎるのだ。

ここでは、『背景要因を書くと「〇〇のため〇〇できない」のように、ネガティブな表現になりやすいので、「〇〇したい」とできるだけ簡潔に書く方がよい。』(同書15頁)としており、さらにいくつか示されている居宅サービス計画例は『利用者及び家族の意向をそのまま生活全般の解決すべき課題(ニーズ)に記載しているケアプラン』である。しかも目標もそこに書かれてものに対応していない、意味不明のものが多い。悪書と言ってよいこの本が、介護支援専門員の資質を向上させない元凶となっているのである。

例えば同書51頁に例示されている居宅サービス計画・第2表を見てみると、生活全般の解決すべき課題(ニーズ)と、それを解決するための長・短期目標が次のとおり示されている。
・生活全般の解決すべき課題(ニーズ)→穏やかに老いていきたい(長女代弁)
長期目標→新しい土地(長女宅)での生活に慣れて毎日笑顔で暮らす
短期目標→病態に応じた治療や適切なケアを受ける 、身体と頭を鍛えて現在の状態を維持する 、1日1回以上、外出し機敏転換する


この生活課題に対応するモニタリングは可能なのだろうか?穏やかに老いていきたいという長女の希望を生活課題にしてしまったら、それが解決しているのかをどう評価するのだろう?穏やかの意味も、感じ方も百万通り以上ありまるはずだ。本来これは第1表の「利用者及び家族の介護に対する意向」に書くべき内容で、2表のこの部分に書くべき内容ではない。

居宅サービス計画は、利用者同意が必要であるが、その際の説明に使う書式とは、老企第22号で、「当該説明及び同意を要する居宅サービス計画原案とは、いわゆる居宅サービス計画書の第1 表から第3表まで、第7表及び第8表(「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」(平成11年11月12日老企第29号厚生省老人保健福祉局企画課長通知)に示す標準様式を指す。)に相当するものすべてを指すものである。」とされており、いちいちアセスメント表を示して説明しなくとも、利用者が生活課題に対応した具体的サービスが、その目標とともに理解できる内容でなければならないはずなのだ。勿論、この法令によって、説明同意にアセスメント表を使って説明ができないとされるものではないが、そもそも標準様式の内容を埋めれば、そんな必要もないものを、「四訂・居宅サービス計画書作成の手引」に書かれている、馬鹿げた解釈によって、説明に必要な書類を増やしてどうする?利用者がわかりにくくなるだけである。

同書の記載事例に戻ろう。

本ケースは、長期目標を読むと、どうやら長女宅に越してきたケースであるということがわかるが、この課題と目標に対応した具体的サービスは、定期的な受診と通所介護となっており、援助内容の中に認知症と認知症ケアを理解すると書かれている部分がある。つまり本ケースの本当の「生活全般の解決すべき課題(ニーズ)」は、認知症の進行により、一人暮らしが難しくなり、長女宅に居所を移したという背景要因があって、今後予測される認知症の進行により混乱が生ずる可能性があって、それによって在宅生活が困難となる危険性があるというものだろう。

そうであるがゆえに、認知症の進行を防いだり、混乱に繋がらないような具体的支援策が必要になるというものではないのか・・・。

それであるにもかかわらず、「穏やかに老いていきたい(長女代弁)」という一言で、生活全般の解決すべき課題(ニーズ)が書かれて終わっている。この課題からは、よほどたくましい想像力を働かせない限り、認知症に対する適切な対応というサービスは浮かんでこないはずだ。フィクションプランの典型例である。

さらに同頁の2番目の課題と目標を見てみよう。
生活全般の解決すべき課題(ニーズ)→トイレのことを解決し、気分よく過ごしたい(長女代弁)
長期目標→トイレのことを気にせずに、生活する
短期目標→排泄の様子がわかり、汚れたときは更衣する 、ご本人の意向に沿った排泄ケアを検討する 、便秘をしない


課題が「トイレのことを解決し」では、トイレのなんのことなのか評価のしようがない。

トイレの環境なのか、利用者の排泄行為に関する問題なのか意味不明である。

もし失禁が問題であるなら、認知症=失禁するということにならない以上、なぜ失禁するのかという背景要因を検討して、それに適切に対応する具体策が必要であり、それが書かれていないのは極めて不適切である。

短期目標も「本人の意向に沿った排泄ケアを検討する」で終わって良いのだろうか?アセスメントとサービス担当者会議で検討して、必要な排泄ケアの抱負を具体的にして欲しいと思うのは僕だけだろうか?そもそも長期目標が、「トイレのことを気にせずに、生活する」って、トイレの何のことなのかさっぱりわからない。

ひどい内容だが、このようなプラン例をあら探しの結果見つけたのではなく、無作為にページを開いて、そこに載っているプラン例を読むと、すべてのプランにこうしたひどい内容が、そこかしこに書かれているのである。よってこういう悪書で学んではいけないのである。

この本を教科書として使っている研修講師の資質も、疑ったほうが良いだろう。
四訂・居宅サービス計画書作成より

介護・福祉情報掲示板(表板)

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