東京にオリンピックが来る。様々な問題や意見があるだろうが、2020年のオリンピックの開催地に東京が選ばれたというニュースには心が踊らされる。前回の東京オリンピックは1964年で、僕が4歳の時であったが、僕の記憶の中の東京オリンピックとは、物心ついた以後の映像の記憶でしかない。

2020年まで生きていたら、60歳で生のオリンピック競技を初めて見ることができるかもしれない。このことに心を踊らされて悪いということはないだろう。そう言う意味で、オリンピック誘致に尽力した政治家にも、財界人にも、アスリートにも、全ての人に感謝の気持ちを表したい。

一方、福島原発問題では、特に汚染水問題は本当にコントロールされているのかといえば、これを全面的に認めることはできない。本当に大丈夫かという不安はある。実情はもっと深刻なものだろうと思うが、一国の首相がオリンピックを誘致するためのプレゼンテーションで、コントロールし安全性には疑いがないことを世界に向けて発言したのだから、その言葉の重みは疑いようもなく、国の威信と責任において、完全に安全な方向に対策を急いでくれるものと信じたいと思う。

ところで今後7年間、東京を中心にした周辺都市では、オリンピックに向けた会場整備だけではなく、交通アクセスや新しいインフラ整備が勧められることは小学生でもわかる理屈で、建設業を中心にした新たな雇用が生まれることが期待されるだろうし、五輪開催のための積立金4.000億円が市場に出て行くのだから、それに伴う景気の上昇も期待できるであろう。

国家予算も文科省、厚労省ともにオリンピック関連予算が特別に回されていくだろう。

しかし、そうした社会情勢と財政事情の中で、介護関連事業者にはどのような影響が出るのだろう。

都会だけではなく、建設業界等の雇用状況が今よりよくなり、景気が良くなっても、社会保障関連予算は財源論の中で削減を前提に考えられていく。世の景気やオリンピックに向けての高揚感とは関係のない介護業界には予算も配分されない。そのため、介護の仕事をしようとする人がますます少なくなるという状況は、もっと深刻化するのではないかと不安になる。

それは都市部やその周辺地域だけではなく日本中の問題であろう。そのことでオリンピックにケチをつけるということではなく、今後の社会情勢全般を考えたときに、僕の胸に去来する不安が増幅しているという意味である。

さらに言えば、そうした今後の状況と関係のないところでも既に人材不足、若者の介護離れは深刻化している。

先日、大阪府の社協から学生向けセミナーの講師依頼があったが、その依頼メールには、「福祉・介護現場の人材確保は大変深刻な状況でございます。就職フェア等のイベントを開催しても来場者が年々減少し、福祉や介護の仕事に対する関心が低下しているような印象を受けています。」、という内容が記されていた。

こうした状況を憂いて、新たな試みとして福祉の現場を目指す学生のみならず、一般の学生も対象に、僕の基調講演と若手リーダーによる実践報告、トークセッションを通じ、福祉・介護の現場の魅力ややりがいを感じてもらい、今後の福祉・介護人材の確保に繋げるためのセミナーを新たに開催したいとの依頼内容で、「菊地様による基調講演と福祉現場で活躍する若手からの実践報告とトークセッションを通じて、福祉・介護現場の仕事の魅力、やりがい等を学生に伝え、今後の福祉・介護人材の確保につなげられればと考えています。」との一文も添えられていた。

大阪府社協という組織が、こうした対策に尽力してくれることは大変有意義で、介護施設の施設長としてはありがたいことではあるが、事態はそれほど深刻だということでもあり、今後ますます人材確保困難という状況に対する懸念せざるを得ない。

この依頼を先週木曜日に受けたが、セミナー予定日が11/9(木)になっていた。かねてからの予定として、11/8(金)の午後に道内美幌町で講演予定があり(道内といっても新千歳空港から女満別空港まで飛行機移動が必要な場所である)、11/10(日)の午前中に大阪市内で日総研セミナーの講師を務めて、その日のうちに北海道に帰る予定を立てており、たまたま11/9を移動日にし、既に伊丹空港に13:35着の便の航空チケットを予約していた。そのためその時間から会場まで移動して間に合うのであれば、受諾可能と返信し、その日の基調講演とシンポジウムのコーディネーター役をお受けすることになった。

当日、何人の学生が集まってくれるのかわからないが、受講した人々に我々の仕事の素晴らしさを伝えたいと思う。しかしそれは単なる理想論であって、真実を包み隠すことであれば、本当の思いは伝わらないし、いざ介護の職業を目指そうとしたところで、現実の状況に絶望感を持って人材確保に繋がらないおそれもあるため、新しい現実を作るための当たり前のケアのあり方というもの、そこに参加できる若者のモチベーションというものを考えながら話をしてきたいと思う。

どちらにしても人材不足の状況を何とかするために、我々は手をこまねいて政策批判をするだけではなく、自分ができることを、自分ができるところで、一生懸命汗をかきながら実行し続けていく必要があるだろう。

できることをしないで、批判ばかりしていても、それは単なる批評家目線でしかなくなり、誰もそのことを受け入れてはくれないであろう。

介護・福祉情報掲示板(表板)

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