先週末の土〜日にかけて、大阪市で2講演を行ってきた。

土曜日の午後からは、いつも僕を招いてくれる大阪市老連の研修会で「2015年の介護保険制度改正に向けて、いま何ができるか」というテーマで、改正内容を解説しながら、そこから読み取ることのできる国の意図や、その次以降の制度改正に向けての布石について、僕なりに読み取ったことをお話してきた。これらのことは、このブログでも随時情報発信していく機会があるだろう。

翌日の日曜日は、社会福祉法人健成会・特別養護老人ホーム加賀屋の森・施設開設職員研修にお招きいただき、前日とは全く異なる講演内容で、介護実践論をお話してきた。

実はこの日は、利用定員100名のユニット型特養「加賀屋の森」の開設の日であった。当日の講演は10:00〜120分であったが、この日の午後から2名の利用者が新規入所される予定になっているということである。まさにオープン当日の職員研修会である。

そこで働く職員の皆さんも、同法人の別施設で実習を受けてきているとはいえ、多くの方が介護施設職員として未経験からスタートするという。若い方が多く、本当にフレッシュな状態の皆さんが僕の話を聞いた直後に、お客様を迎え、介護サービスを提供するという日である。そうであるなら、その瞬間から活かすことができる実践論を、具体的かつわかりやすくお話しなければならないと心して話をさせていただいた。

講演冒頭で僕は、受講されている職員さん向かって、「皆さんが、介護職員として未経験であるということをネガティブに考える必要はないし、それはデメリットになることではなく、メリットもあるということも理解してください。」とメッセージを送った。介護施設の職員として経験がない、介護サービス事業そのものに従事した経験のない人であるからこそ、世間一般の常識感覚を失っていないはずだから、施設サービスでもその常識を忘れず、それをそのまま新設施設の常識基準にして欲しいとお願いした。

理想と現実は違うという言葉に逃げることなく、理想に近づくしっかりとした介護サービスを、顧客サービスという意識を持って作っていくことが大事であると話させていただいた。

そのための具体的方法論として、日々の暮らしを護る介護サービスの基本につながる方法をお話した。当然そこには顧客サービスとしてふさわしい接遇という考え方がなければならず、そのことを「介護サービスの割れ窓理論」を中心に説明した。

施設サービスが三大介護(食事・排泄・入浴)の提供に振り回され、それ以外のサービスに目が向かないことは生活の質に繋がらないという指摘がある。確かにその通りであるが、それは三大介護をおざなりにしろとか、それを軽視して良いという意味ではない。三大介護という「基本サービス」を適切な方法で提供できるということが当然その根幹にあった上での話である。

食事の楽しみを奪い、それが単なる栄養補給の方法に陥っていないか。その時に利用者は安楽姿勢で安心できる方法で食事摂取ができているのか。

トイレで排泄すればよいということではなく、そこで排泄している状況は適切なものなのか。トイレの便器に10分も20分も座らされ放置されている状態は排泄ケアではないのである。

湯船に入って心身ともにリフレッシュするという入浴習慣を持つ人々に対して、単に身体を清潔にするだけの入浴方法を押し付けていないのか。そのことに目が向けられているかということが、生活の質につながるのではないだろうか。

離床活動にしても、座ったきりの状態を作っても意味がない。人は逢いたい人がいて、行きたい場所があって、始めて生きたいと思うのである。そういう暮らしを作っているのかが問題だ。療法あって暮らしなしの特養は生活施設とは言えない。認知症の女性に対する化粧も「療法」として行うのではなく、「日常」のケアサービスとして行われて初めて心身活性化に繋がるのである。

そんな話を緑風園で経験したエピソードを交えてお話してきた。

受講されているみなさんは、施設のオープン研修ということで、少し緊張しながらも真剣な姿勢で聞いていただいたが、最初はどんな難しい話がされるのだろうと少し警戒心もあったのではないだろうか。

だが話を進めていくと、そのような警戒心や緊張感が取れていくのが感じられた。受講されている方々の表情はどんどん豊かになり、みなさん目をキラキラ輝かせて最後まで真剣に聴いてくださった。講演終了後は、たくさんの職員さんから、「改めて頑張ろうと思えました。」、「力になりました。」、「勇気をもらいました。」、「私も誰かの赤い花になるように頑張ります。」等などという言葉をかけていただいた。会場で販売していただいた、僕の著作本もたくさんの方々が買ってくださり恐縮である。

こういう素敵な人たちが新しく作る施設は、きっと素晴らしい施設になっていくのではないかと思った。僕もその場所に赤い花の種を撒くというお手伝いを少しだけ出来たのかもしれない。

ところで、この日の大阪も時折激しい雨が降った。大阪入りする直前に台風も近づいているという情報も入っていた。9月は台風の発生しやすいシーズンであるし、敬老の日が近づくと、施設内でのイベントも多くなるので、毎年この時期は道外講演予定をあまり入れないようにしている。

そのため次の道外講演は、9/21(土)広島県三次市の十日市きんさいセンターで行う講演まで予定がない。しかしその講演を皮切りに、11月末まで土日はずっと講演の旅が続いていく。三次市講演では、介護実践論を180分かけてじっくりお話する予定である。3連休の始まりの日ではあるが、お近くの方はぜひ会場においでいただきたい。その講演の日に台風が来ないことを願っている。
(参照:masaの講演予定

その講演まで、施設に腰を据えて、様々なエピソードを日々刻んでいこうと思う。
そのこともいつか、どこかの会場でお話することになるかもしれない。それでは次回は、三次市でお会いしましょう。
介護・福祉情報掲示板(表板)

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