今から6年前の2007年4月12日に、「介護保険対象範囲の拡大見送りで現実味を帯びた?自己負担2割論」という記事を書いているが、この中で僕は、
「サービス利用者の自己負担割合の見直しと、施設介護者の入所要件を要介護3以上に限定するなどの給付抑制策」が現実味を帯びてきたことを指摘し、さらに社会保障委員会の提言として、『給付費抑制については、「比較的軽度(要支援1・2、要介護1)の利用者向けサービス、並びに介護予防のサービスは、介護保険制度の対象から除外する」』が示されていることを指摘している。
そして2年前の2011年7月15日に書いた、「介護予防・日常生活支援総合事業導入の意味」の中では次のように指摘している。
・今回の制度改正では、何がどの部分に、どのような布石が打たれているのかを探した時、「介護予防・日常生活支援総合事業導入」がそれにあたるだろうと読むことができる。そしてそれは近い将来の軽度者の給付除外、家事援助外しの布石ではないかということは容易に想像がつく。
今、まさにその時の指摘事項が現実になったと言って良いのではないだろうか。ここで改めて、要支援者の保険給付から除外についての一連の流れがどうなっているのかを時系列で振り返ってみたい。
・5/5、厚生労働省が要支援者を介護保険サービスから外し、ボランティアなどを活用した市町村の事業で支援する方向で具体策を検討する方針であることがリーク報道される。
・5/7、厚労大臣会見で方針を否定。発言は以下のとおり。
※今まで介護保険の中で介護給付という形でやっておった部分もあるわけでございまして、それをですね、いきなり地域という話になりますと、なかなかそういうような受け皿ができるのかどうか。基本的に業者だけではなくてNPOでありますとか、いろいろなところが介在をしていただくことが一応基本的な考え方の中にありますから、受け皿がないのにですね、いきなり事業をそちらの方に移していくということになればですね、これはかなり地域によって差が出てくるわけでありますから、そこのところも勘案しなければいけないというふうに思いますので、これから御議論をしっかりいただく中においてですね、どうするか検討の上、最終的に方向性を決めていきたい、このように思っております。
※決めていません。審議会の中でそういう御議論があるということを承知した上でですね、いつからやるかというよりも、まずやれるような受け皿が整うのか、それから当然サービスを受けられる高齢者の方々の御意見もやっぱりお聞きをしていかなきゃならんという話だというふうに思います。いずれにしましてもこれ、介護報酬の改定に絡んでくる話にもなりますから、少なくともそれを見ながらの話になってくると思いますから、決定したわけでもございませんし、今まだ検討、御議論をいただいた上で検討していく、またさらに関係者の方々の御意見もお伺いするというような段階でございます。
・7/21、参議院選挙で政権与党が圧勝。衆参のねじれが解消され安定政権が誕生〜自民党の政権公約「国民会議の議論を踏まえ、社会保障制度について必要な見直しを行う」
・7/29、社会保障制度改革国民会議において最終報告書案を了承→8/6、首相に提出〜要介護度が低い「要支援」の人を対象としたサービスを保険給付から外し、市町事業に移行を明記
・8/11、NHKの番組内で田村厚労省が次の発言を行う。
※「要支援」向けサービスを市町村事業に移す改革案について、「財源は介護保険の財源を使う。変わらないように議論する」
※「サービス提供のところを自治体で知恵を出してもらえれば、費用が抑えられる。いきなりは無理だと思うので、時間をかけて(市町村に)受け皿を作ってもらう」
・8/19、与党は社会保障制度改革国民会議の報告書を踏まえ、政府が改革の手順などを定めるプログラム法案の骨子案を了承。〜骨子案では、介護保険制度の関連法案を2014年の通常国会に提出し、一定以上所得者の自己負担引き上げなどを15年度をめどに実施する方針を明記。現行1割の70〜74歳の医療費窓口負担は、14年度にも本来の2割に引き上げる可能性を示した
・8/21、政府は閣議で骨子を決定し、今秋の臨時国会に法案を提出する予定とする。
以上のようになっている。選挙前後で厚労大臣の発言内容がずいぶん違うことに気がついた人もいるだろう。
一部関係者の中で、政府・与党内で連立を組む公明党が、福祉を守る党として、要支援外しに反対して、この法案が修正されるのではないかと期待し、実際に同党に直接働きかけ、「前向きな返答をもらった」と喜んでいる人がいるが、それは実際には幻想を見ているに過ぎない。
すでに要支援者を現行給付から除外する案を含んだプログラム法案骨子案は、政府与党内で合意され、閣議決定されているのだ。それは公明党も賛成しているという意味である。そして衆参のねじれがない絶対安定政権下では、この法案が必ず国会を通過し、正式な法律として成文化されるという意味である。
公明党は、政権公約の中で「地域包括ケアシステムの推進」ということを書いていたから、おそらく要支援者を現行給付から除外しても、市町村事業として残り、それは11日の田村大臣発言のように、「財源は介護保険の財源を使う」ということで、給付抑制ではなく、そのことが地域包括ケアシステムに必要なことであると支持者にアナウンスすることが出来ると判断して、反対の声を挙げなかったのだろうと思われる。
ところで、「財源は介護保険の財源を使う」とはどう言う意味か。それは市町村に移管される要支援者へのサービスは、現在の地域支援事業を、地域包括ケアの一翼を担うにふさわしい質を備えた効率的な事業(地域包括推進事業(仮称))として再構築するというのだから、「介護予防・日常生活支援総合事業導入」がそれに変わるという意味だろう。
そうであれば、まさに僕が上で紹介した2011年7月15日の記事で指摘したように「介護予防・日常生活支援総合事業導入」が要支援外しの布石であったと言えるのではないだろうか。
しかしながら財源を変えないと言っても、地域支援事業として市町村が行っていた介護予防・日常生活支援総合事業の予算は、上限が4%である。新たに地域包括推進事業(仮称)として要支援者に提供されるサービスも、この予算範囲から大きく広げられる可能性は極めて低く、その事業が、「地域包括ケアの一翼を担うにふさわしい質を備えた効率的な事業」になる可能性はほとんどないと言って良いだろう。
もちろん最終的に決定するまでは、おかしなことはおかしいという声を挙げ続けなければならないと思うが、甘い幻想だけは抱かないようにせねばならない。どちらにしても要支援者のサービスは、既定の政治スケジュールの中で着々と進行しているという現実を知って、その中で何ができるかを模索しなければならないだろう。
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