厚労省の「介護保険事業状況報告」という資料の中に、「要介護度別の施設利用者数」という資料が掲載されている。

この数字は平成22年度のもので、この中になぜ要支援1と要支援2の利用者数が計上されているのか疑問であるが、(経過措置は切れているはずである。)どちらにしても、ここでは要介護2までの利用者を、「軽度者」として括り、その利用割合が全体の17%であることを示している。つまりこの17%の利用者が、施設サービスを使うことを問題視している資料であるといえよう。
当然そのことは次期制度改正での議論の中に含まれてくると考えられていたが、今週初めに、厚生労働省は2015年4月からの介護保険制度改正時に、特養の入所基準を見直し、要介護度3以上に限って入所を認める方針であることを明らかにした。
これにより2015年度から要介護1と2に判定された方は、新規に特養入所ができなくなるわけである。(既に入所している要介護1と2の方は、引き続き入所対象となる。)
その理由は、画像で示したように、要介護2までの人は軽度介護者であり、施設利用せずとも、居宅サービスを受けながら暮らすことが可能であるとしているものだ。
そこには自宅での介護に比べ、特養をはじめとする施設型の介護は費用が膨むという考えがあり、要介護2までの人の入所を制限することで介護の給付費抑制につなげるという考え方を厚労省は示している。
特養の入所者が要介護3以上に限定されたとしても、特養に入所希望する人の数が、特養に空きができるほど減るわけではなく、待機者数の劇的な減少も考えにくい。すると将来的に特養の入所者すべてが要介護3以上になったとしても、報酬単価の低い要介護1と2の人がいなくなって、報酬単価がそれより高い要介護3以上の人ばかりになるのだから、今と同数の施設数で比較した場合、特養への施設給付費総額は増えるわけである。
施設サービスで要介護1及び2の人と要介護3の人との給付費の月額差額は、約22.000円〜42.000円程度だろうか。ここの部分は現行より給付増となる。
厚労省は、そのことも踏まえたうえで、現在特養に入所している要介護2以下の人にかかっている介護給付費(自己負担分を除く)を月26万〜28万円程度とみて、これらの人が在宅にシフトした場合、その費用が10万程度になるとして、給付費の抑制効果を見積もっているわけである。
施設経営者の立場で言えば、現在でも入所判定ルールなどの影響で、要介護2以下の利用者は、数える程しかいなく、利用者の平均要介護度が3の後半数値から4以上になっている現状を鑑み、さらにこの基準変更で収入が減るということではないことから、そのことは経営上の問題にはあまり影響してこないように思われる。
しかしそれ以外に問題となってくることがあると思う。
現在特養入所については基準省令で「介護福祉施設サービスを受ける必要性が高いと認められるものを優先的に入所させるよう努めなければならない」と定められた規定に基づき、要介護度等を勘案した各施設の入所判定ルールに基づいて、入所判定委員会で入所順や入所可否を決定している。
(参照:適正入所判定をなぜ悪意に解釈するのか)
この場合、どうしても要介護度が高いほうが優先入所対象となりやすい傾向にある。そうした中で、要介護1や2の人が上位にランクされ、入所に結びつくには、それ相応の理由があり、多くの場合それは、運動能力が衰えていない認知症の方が、独居生活が難しくなったとか、高齢者世帯で、連れ合いの身体状況から介護が難しくなったというケースである。
つまりこれらの方々は、インフォーマルな支援なしに、在宅生活困難という理由なのだから、簡単に在宅復帰できるわけがないのである。そうであれば2015年以降、こうした方は特養に入所申請さえできない状況で、自宅で暮らせないという状況が生じた時に、どこに行けば良いのだろうか。
受け皿として考えられるのは、特定施設・グループホームであろう。そのほかサービス付き高齢者向け住宅に住み替えて、24時間巡回サービスを使うという選択肢もあり得るだろうが、地域資源がニーズを充足するだけ存在するかということが問題となるし、そもそもそれらは、補足給付のないサービスなのだから、経済的負担に耐えられるかという問題も生ずるだろう。
さらにもう一つの大きな問題が考えられる。それは要介護度の改善(軽度化)によって、行き場を失う要介護者の問題である。
現在特養で暮らしている要介護度2以下の人は、もともと要介護3以上の判定を受けて入所された後に、特養で日常生活を送る中で離床機会が増え、身体機能を活用することで機能改善し、心身活性化が促進され精神状態が安定し、要介護状態区分の軽度変更に結びついた人が多いはずである。特に社会的入院で、医療機関であまり理由もないまま、終日臥床状態で、嚥下機能も低下していないのに経管栄養で対応されていた人が、特養に入所したその日から、ベッドから離れて口から食事を摂るようになるというケースは、さほど珍しくない。そうした方のうち幾人かは歩くことができる下肢筋力が残っており、歩行機会を得て暮らしが変わっていく。そうした結果、要介護更新変更時に要介護状態区分が4や5から2に変更になるという方もいるという事実がある。
そうすると、今後はそうした方の要介護状態が経度変更によって2以下になれば、その特養で暮らす権利を失ってしまい、場合によっては行き場所が見つけられなくなるのだから、要介護状態2以下=必ず在宅で生活できるという方程式が成立しない限り、特養のソーシャルワーカーの業務の視点の中に、「利用者の要介護状態区分を、いかに2以下に改善させないか」という、おかしな考え方が入り込まないとも限らないのである。
国は何故今、特養に要介護1と2の人々が暮らしているかということを、真剣に考えたことはないのであろう。介護保険制度は、ますます人の暮らしとかけ離れたところに向かっているように思う。
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在宅で認知症が進行してきた独居の方、介護者の体調悪化で誰も見る人がいなくなる方。
「今すぐ」状態です。
一方、要介護3〜5の方々はすでに別の施設に入所されていたり(費用面で特養を希望)、入院されている方が多く「今すぐ」と言えるのか…
要支援切りにしてもそうですが、受け皿が整備されていない状況で「給付抑制」のもとに利用制限を設けるのであれば、社会保険方式そのものから見直さない以上、国家による詐欺行為にしか思えません。