昨日の新聞各紙で報道されているが、厚生労働省は3日、特別養護老人ホームと老人保健施設に入所する低所得者に食費と居住費を補助する、特定入所者介護サービス費(補足給付)の支給要件を見直す方針を固めた。
具体的には、年金等の収入以外に、入所の際に本人が資産を申告し、給付対象とするかどうか判断する仕組みを導入するとしている。同時に、今まで所得として見てこなかった遺族年金や障害年金なども収入として認定するとしている。
これにより収入が少なくても、一定額以上の預貯金など資産がある人は補足給付の支給対象外となり、第4段階として標準費用内で施設が定めた食費と居住費の全額を自己負担することになる。
24年制度改正時の議論の中でも、「所得だけでなく、世帯の資産まで勘案して補足給付の要否を決定する仕組みを導入する 」という意見が出されたが、この時は論議が深まらないままに時間切れで、その方針は見送られている。しかし政府の社会保障制度改革国民会議でも負担の公平性を図るため見直すべきだとの指摘がされ、食費と居住費が原則自己負担の在宅介護と施設介護との格差是正や、年々増え続ける介護給付費の抑制のためには、補足給付の支給基準の見直しが不可欠とされたものである。
このことをどう見るのか?まず現在の補足給付の対象となっている利用者負担段階である第1段階〜第3段階までの要件を確認しておこう。
(第1段階)市町村民税世帯非課税で老齢福祉年金を受給されている方など
(第2段階)市町村民税世帯非課税で合計所得金額と課税年金(非課税年金である遺族年金と障害年金が含まれないという意味)の合計が80万円以下の方等
(第3段階)市町村民税世帯非課税で第1段階と第2段階以外の方。
次に各段階別負担額を特養の基準で見ると次のようになる。

※老健の場合は、居住費(滞在費)の従来型居室が、第1段階と第2段階で490円、第3段階で1.310円、第4段階で1.640円となっている。
現在合計所得として算定されない遺族年金や障害年金なども所得認定されれば、第2段階や第3段階の認定者にかなりの影響が出るだろう。しかし非課税年金も実際に生活費に充当できる収入なのだから、財源が厳しい状況を考えると、施設入所する場合を考えると、それを所得認定した上で、負担段階を決定することはやむを得ないのではないと言えるかもしれない。ただし激変緩和措置は必要だろう。
資産の申告については、入所者の預貯金などの所有資産に基準額を設定し、基準額に基づき給付の可否を決めるとしている。
申告ということは、生活保護のような資産調査を伴うかどうか、今のところ明らかではないために、正直者がバカを見るのではないかとか、申告しなければ負担段階は変わらないという声が挙がっているが、それは甘いと言わざるを得ない。
なぜなら今回の見直し案をよく読むと、そこには土地や不動産所有者への貸付と死後精算という方法が示されている。これは被保護者のリバースモゲージ制度(不動産を担保にして毎月生活費を金融機関から支給してもらうという制度。返済にあたっては本人の死後に担保の不動産を処分することで元手の回収をすることになる。)をモデルにしていると想定でき、そうであれば、市町村の調査権を活用し、一定程度の資産調査が行われる方向で検討されるのではないかということが予測されるからである。
申告しないことで得をするということにはならないであろう。
補足給付については、全国老人保健施設協会が、介護保険を財源とすることを見直し、福祉施策として公費(福祉財源)を投入する等の制度設計の見直しをすることを要望しており、老施協関係者の一部にも公的扶助への転換で、介護給付費抑制につなげるべきであるという声があったが、このことは完全に否定され、利用者の資産活用の強化ということで、補足給付の保険給付を維持することになる。
今後のタイムスケジュールとしては、厚労省は9月にも、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)介護保険部会に補足給付制度の見直し案を提示し、同部会で給付の対象や事務手続きの方法などを具体的に詰めた後、来年の次期通常国会(26年1月常会)に介護保険法改正案の提出を目指すとしている。この方向で急速に流れは加速し、この方針を変えることが極めて難しい状況であるといえよう。
国民の痛みがますます強く求められる制度改正となっていくが、この痛みに耐えられずに、ショック死する国民がでないように、慎重に議論してもらいたいものだ。何しろ、これは国民の暮らしと命に直結する問題であるからだ。
それは本当に耐えられる痛みなのだろうか、痛みを求める先は、もっと資産や所得のある、「豊かな層」に向けられるべきではないかということを、慎重に考えていかないと、社会的弱者だけを痛めつけ、格差を助長するだけの結果に終わりかねないと危惧するのである。
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預貯金等の資産がどのように把握され、基準額をどのあたりに設定するのかによりますが、一定以下の所得の方々の生活をこれ以上苦しめないでほしいなと切に願います。
消費税の問題もあります。逆進性の高い租税は本当に所得の少ない方々にとっては死活問題です。なのに高額所得者や大企業の法人税は守られる・・・。お金持ちしか生き残れない日本では先がありません。皆さんで声を挙げていきましょう!