昨日昼過ぎ、札幌から登別へ向かう特急列車の中で、電光掲示板で流れているFM北海道の字幕ニュースを見ていると、中村博彦参議院議員死去の報が流れ驚いた。

まずもってご冥福をお祈りしたい。

同氏は、四国徳島県を中心に、たくさんの介護施設等を運営する社会福祉法人健祥会理事長であったが、公職としては全国デイサービスセンター協会の会長などを経て、1999年には全国老施協の会長に就任している。それ以来、老施協改革に取り組んで、全国社会福祉協議会内の一組織であった老施協を、2001年には全社協から独立させた。これにより全国老施協は執行権・決済権のある組織となった。その中で掲げられたスローガンは「行動の老施協」であり、国にも物申すことができる強い組織を創り上げ、2006年には全国第一号の公益社団法人として認可を受けるなど、組織力向上に力を発揮してきたことは評価されて良いだろう。

しかしその実態は「中村個人商店」であると批判する向きもあるし、選挙絡みで老施協という組織が真っ二つに割れて対立した要因も作ったとも言われている。

全国各地を回っていると、中村支持派と、反中村派の対立は結構根深いと感じることも多かった。熱狂的に支持する人がいる反面、その名前を聞くことさえも嫌悪する人がいて驚かされることがあった。ある県の老施協会長からは、面と向かって「中村博彦の取り巻きじゃないだろうな」と言われたこともある。僕はどちらでもないので「何も縁がありません」と苦笑いするしかなかった。
(昨年、中村氏から一度会いたいと電話がかかってきたが、実際にお会いする機会は作れなかった。)

中村氏は、2004年に参議院比例区で初当選した後、2008年の福田内閣で総務大臣政務官に就任した際に、老施協会長を退任し、顧問となったと記憶している。政治活動としては介護福祉議員連盟の創設に奔走し、その事務局長を務めているなど、数少ない介護関係国会議員と言えるであろう。

その中村氏が、自公安定政権ができ、安倍政権が経済政策に重点的に予算づけしている最中に死去された。

介護をめぐる状況としては、社会保障改革国民会議では、財源確保と給付抑制という痛みのともなう最終報告書を作るという局面を迎え、これから2015年の介護保険制度改正に向けた議論の山場にさしかかった時期に、老施協の代表とも言える参議院議員の中村氏が死去されたことは、介護業界にどのような影響を与えるだろうか。少なくとも全国老施協という組織を背景にした国会議員がいなくなったということは事実であり、全国老施協の国に対する力は削がれたと見るべきだろう。

そして社会保障構造改革の中では、医療と介護の給付抑制が論じられざるを得ない中で、医師会や看護協会を代表する国会議員は複数いるが、介護関連組織を代表する国会議員がいなくなるという事実は、介護により厳しい状況を生み出す恐れもあると言えるのではないだろうか。

僕が一番残念に思うことは、中村氏自身は2回の選挙とも、比例区で安定した得票を得て、特に前回選挙では上位当選しているほど選挙に強かったのに、自身の改選時期ではない参議院議員選挙の時に、どうして老施協の代表議員を当選させるような戦略を練らなかったのかということである。

勿論、2007年の参議院選挙で、老施協が当初推薦し、自民党の比例区候補者に決まっていた人を、政党間の思惑絡みで引きずり下ろして、別候補を立てたことが老施協の内部分裂に発展し、選挙でも惨敗した経緯を知らないわけではない。しかし政治家であれば、こうした対立の構造を放置せず、硬軟織り混ぜて関係修復し、今年の参議委員選挙では、老施協を出身母体とする候補者を擁立し、当選させるようにするべきであってと思う。中村氏自身の前回選挙での得票数を考えると、そのことが全く不可能ではなかっただけに、同氏の死去により、老施協が擁立した国会議員がいなくなってしまったという今日の現況は残念でならない。

そのような状況下で全国老施協は、増え続ける介護サービス費に対応して上昇が続く介護保険料が、このままいけば2025年にはその額が10.000円を超えると言われて現状について、「介護保険制度そのものの信頼性が失われ、瓦解する。」として、今年度からの運動目標の一つに、「社会保障費抑制〜介護保険料一万円を阻止する戦略づくり」を掲げている。

そのためにケアプランの有料化(全額保険給付となっている現状から、自己負担を導入)と、介護認定・区分の簡素化を提案している。

そして社会福祉法人を、新成長産業を担う、雇用と高品質介護を作る挑戦型社会福祉法人に変えていくことを主張し、地域を支える拠点施設は高品質介護と認知症ケアの実践で実現すべしと主張している。その基盤となる人材確保については、アジア人材との協働、人材移動の実現を唱えている。

福祉介護サービスを新成長産業とするためには、その分野の職業について、ある程度の人生設計が立てられる報酬を得るということではないとならない。そのために高品質介護を作れというが、そのためにはスキルの高い人材の安定的確保が不可欠で、非常勤職員を主力にサービス展開を考えざるを得ないような報酬体系であれば、そのようなことは実現不可能だろう。

財源の厳しい中、経済政策として介護に国費をかけられるのかどうか、それが問題である。処遇改善加算を、給付費の外枠である補助金に戻した上で、介護給付費が現行ベースを最低限として再設定されることが可能になるのか。非常に厳しい状況が続くと言わざるを得ないだろう。

とにもかくにも、全国老施協という組織を大きく変え、措置から介護保険への改革という時期に、介護事業経営者として、全国老施協会長として、その支持を背にした国会議員として、一時代を築き上げた人が亡くなったという影響は小さくないだろう。

最後にもう一度、その死に対し哀悼の意を表したい。合掌。
介護・福祉情報掲示板(表板)

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