「座位が変われば暮らしが変わる」(中央法規出版)の著者、大渕哲也氏は、「介護は単に命を永らえさせるためのものであってほしくない。被介護者と介護者と、それぞれの人生をより豊かにする技術であってほしい」(同氏のホームページより引用)をモットーにしている越後のカリスマ理学療法士さんである。

そして大渕氏は全国から拘縮予防や座位姿勢調整の講師として引っ張りだこである。

大渕氏と僕の出会いは10年以上前に遡る。ネットを通じてコミュニケーションを交わしたのがきっかけで、僕が物書きとして業界紙に文章を書くようになったのも、大渕氏が日総研出版社の編集担当者に僕を紹介していただいたのがキッカケになっている。

大渕氏は、僕の施設にも来たことがあるが、その時はあいにく僕は不在。(ファイターズの日本シリーズ観戦で札幌ドームに行ってました。)ということで長年のお付き合いにも関わらず、まだ一度もお会いしたことがなかった。

その大渕氏が、全国高齢者施設看護師会主催のセミナー講師として、札幌で講義をすると聴いて、ぜひ受講したいと頼んだところ、講演主催者のご厚意により、僕と職員の2名を招待いただいた。そのため先週土曜日に講義を拝聴してきた。その会場で初めてお会いした大渕氏は、とても気さくな優しい方であった。しかも講義内容が目からウロコの「暮らしを創るケア」のヒントが満載で、わかりやすいものであった。そのおかげで、まだまだ介護サービス現場で頑張らなければならないと思える力をいただいた。

大渕さんのセミナー14
講義は午前と午後にそれぞれ3時間(10分の休憩が途中に入る)、合計6時間に渡るものである。

まず正しい座位姿勢がなぜ必要で、正しい姿勢とはどんなものかということが、身体メカニズムとともに説明された。

高齢者施設の利用者に多く見られる「すべり座位」(お尻が座面で滑って、座面の前にお尻が押し出され、ひっくり返ったような姿勢)は、本来座位の際に座面にあたるはずの坐骨結節ではなく、仙骨部が座面に当たり、褥瘡が生じやすい不良姿勢で、それは座位と呼べない、臥位であると指摘された。

そしてその姿勢は、身体各部位に必要以上の圧迫・屈曲を強いる姿勢で、筋緊張を増幅させ、高齢者に辛い姿勢を強いるもので、そのために表情も険しくなることを教えられた。さらにその姿勢は、身体変形の増悪を促進させ内臓機能にも悪影響を与えることや、褥瘡の発生につながること、それに加えて、「すべり座位」は呼吸の浅薄化につながり、SPO2を低下させ、それが食事摂取機能の低下にもつながり、「臥床したがる」ことにつながったり、全身の廃用を促進させるだけではなく、栄養状態の悪化から健康不良につながることをわかりやすく解説していただいた。

座位姿勢を利用者の個別の状況に合わせて、正しく変えることで、三大介護(食事、排泄、入浴)の改善に繋がることもよくわかった。食事が自力でうまく摂取できないこと、むせること、詰まること、排泄がきちんとできないことなどは、座位姿勢がいかに影響するかということが理解でき、どうしたら自力で食事摂取できたり、むせないで食べれたり、トイレでスムースに排泄できたり、安全で快適な入浴ができるかということがわかった。

足を体の側に引いて前傾姿勢が取れないと食事がスムースに飲み込めないし、テーブルの位置が胸より低い位置にないと、そもそも食器の中のものが見えず、食事も自力で摂れない。自分の顔をテーブルの位置まで下げて、その状態でラーメンを食べることができるかを考えれば、食器の置かれる位置・高さの重要性が理解できるだろう。排便も、足を体側に引いて、体より前に出さず、前屈して初めて踏ん張ることができる。便器の上でそっくり返っていては排便できない。そのためトイレ内で前屈姿勢を介助するだけで、排便がスムースにできる人がいるということ。むせないで食べることができたり、トイレでスムースに排泄できたり、安全で快適な入浴ができるかには座位姿勢が重要になってくる。

印象的だったのは、すべり座位には、その原因となるものがあるので、それを改善せずに、滑り止めシートを使って、摩擦によってすべらなくするのは、利用者に苦痛を与えるだけの「身体拘束」であるということ。不良姿勢の改善は、リラクゼーションであるという一面があることを忘れてはいけないということである。ポイントは、仙骨骨盤のサポートによって、骨盤起立をサポートすることで、座位は安定して、リラックスできる良恣意に結びつくということ。

僕と一緒に参加した副主任ケアワーカーは講義後、「説明を聴いていると、あの人のことだ、あの人の状態と同じだと、次々と利用者の顔や状態が思い浮かんできて、6時間があっという間に過ぎて、短く感じた」と感想を述べていた。帰りの車中でも、あれはこういうふうに利用できるとか、あの利用者の状態は改善が必要で、こうしなければならない、あれを行ったままではいけないねという話で盛り上がった。具体的に何をどう変えるかというヒントをいくつも得られれた貴重なセミナーであった。

このセミナーには、僕の後援会長でもある?北見市の地域密着型特養フルーツの安達施設長も、夜行バスで5時間かけて受講しに来ていた。(ちなみに朝6:00札幌駅着のバスで着いて、受講後0:00近くに北見市につくバスで変えるという鬼のような強行日程である)僕より先に会場入りしていた安達氏は、そのやせ型の体型を見込まれ、セミナーの中で座位姿勢等を説明するモデルに指名されていたようである。
大渕さんのセミナー4
車椅子の座面であるスリングシートは、畳むためにできているため、いかに座りづらく、体重分散がされにくい。支持性も不良であるということを理解できるように、まず普通の座位の際に、坐骨結節がどのように座面と接しているかをシートの裏側を触って確認したり、体を押したり引いたりするため、女性がモデルでは具合が悪いとのこと。そして骨がよく確認できる、やせ型の体型の人が良いということで安達さんは、これにぴったりはまったということだろう。
大渕さんのセミナー
肩甲骨部分が車椅子の背に当たらないために姿勢保持が不安定となっているケースについて、肩甲骨の一部を保持圧迫することで、いかに姿勢が安定するかの説明。車椅子のこの部分に板を貼るなどの改良型の画像と共に、実際にモデルに安定度を体感してもらっているところ。(ちょっと説明が難しくてわかりづらいかも・・・ごめんなさい。)
大渕さんのセミナー5
大渕さんのセミナー3
体幹保持が難しく体が左側に傾く人に、傾く側に体交枕などを入れてるのは間違いであるという説明。この場合は傾く側にお尻を寄せて坐骨結節の位置調整。
大渕さんのセミナー8
大渕さんのセミナー7
お腹はわざと出している。これは脊柱の位置を確認しながら説明するため。
大渕さんのセミナー9
左側に傾く人の場合で、脊柱が傾いても顔の位置を真っ直ぐにするために骨坐骨結節の位置を調整すれば座位安定する。そのためお尻をずらした反対側にこのような枕等をいれると姿勢が安定する。つまり体交枕などを入れるのは傾く側とは反対側。傾く側にそれを入れると、坐骨結節が安定していないのだから、その枕を乗り越えるようにさらに体の傾きが強くなる。
大渕さんのセミナー10
その人にあった安定した姿勢となる顔の位置などを確認するために、大渕氏がベッド上で個別アセスメントを行う方法を、モデルを使って説明して実技が終わった。
大渕さんのセミナー11
大渕さんのセミナー12
姿勢を保持するの道具は、手作りのものでも構わないということで、これはバスタオルロール。硬さや太さを調整できるので重宝するとのこと。ここの間に紐を通して車椅子のグリップの部分からぶら下げ使用するが、そのときどのくらいの高さや位置が良いかということを、講義が終了後に図々しくも個人レクチャーを受けた。

※大渕さん、説明に間違いがったらコメントで修正の指摘をお願いします。

最後にその日の3ショットを公開。
大渕さんのセミナー2
勉強になる1日であった。

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