ある朝、出勤するとデスクの上に、相談室より各セクションに向けて緊急回覧文書が置かれていた。そこには赤文字で重要という文字が書かれている。

回覧
その内容を以下に転記する。
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入所申込希望者のご家族対応をしていた際に以下のような話がありました。

「去年に利用した施設で虐待にあった。それ以降、本人は施設に対して悪い印象を持つようになった。市や北海道には伝え研修等を重ねるとの話だった。」

その施設で受けた虐待とは

1.トイレに入っている最中に、何の言葉かけもなく職員が勝手に入ってきて、トイレの棚にあるものを持っていった。

2.下着を取り替えなければと、本人は嫌がっているのに無理やり裸にされた。

3.本人がしたいことを伝えても「その時間ではない」と言われ、させてもらえない。

4.朝6時に起きてから夜寝るまでずっと起こされたまま。

5.トイレは手を挙げないと連れて行ってもらえない。

6.プライバシーが何もなかった。

この言葉が、自分自身の援助について見直す、そのきっかけになる事を願います。近くにいるユニットメンバー間で、この件について話してみてください。
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以上である。数字は、この回覧文を記事にするうえで、便宜上僕がつけたものである。

よその施設で起こったことを、他人事とせず、自らの施設でも同じことがないように、施設長からの指示がなくても、現場職員がお互いに注意し合う姿勢は良いことだと思う。こういう確認は、ずっと続けて欲しいものである。

しかし指摘された内容を一つ一つ考えていくと、その施設の異常ぶりに背筋が冷たくなる思いがするのは僕だけだろうか。

1については、当たり前の感覚を麻痺させているとしか思えない。施設ならば、トイレで排泄している姿を誰かに見られても良いと思う感覚は変だ。羞恥心をもつ感覚を大事にしなければならないのに、それを無理やり失なうように働きかけているとしか言えない。そうした場所では、人間は自らの心を壊し、人格を捨てなければ生きていけなくなる。それはケアではない。

2、着替えが必要な状況であっても、そこで着替えが必要であるという説明責任を果たして、利用者が納得しないと利用者は服を脱いで着替えるという必要性を感じない。説明責任を果たさず、事業者側が必要な行為を押し付け、着替えを強制する行為とは、「嫌がる利用者服を脱がす」という暴力にしか過ぎなくなる。なぜ着替えることを嫌がるのかという想像力を働かせて、利用者の思いに寄り添うことが、介護の専門性であるということを忘れないで欲しい。そもそも日頃から適切なサービスを行い、職員と利用者が信頼関係を築いておれば、このような介護拒否は起きないだろう。なぜなら、この利用者は、その施設の不適切なサービスについて理路整然と訴えているという事実があり、認知症の行動・心理症状による介護拒否とは思えないからだ。

3は、まさに集団処遇の弊害。利用者の希望より、施設の都合からしか物事を考えられない弊害そのもの。そんな場所に「暮らし」が存在するわけがない。まさに牢獄である。

4は、寝たきり老人を作らないというスローガンで、座ったきり老人を作った30年前の特養の姿がまだ残っているという意味か・・・。過去の亡霊である。座るには理由が必要なのだ。会いたい人がいて、行きたい場所があって、人は初めて「生きたい」と思うのである。その目的を忘れて座らせておけば良いというものではないし、そもそも座る体力というのも、人それぞれである。1日のうち、どの時間帯に、どのような状態で座っていられるのかというアプローチのない座ったきりでは、座位という形の強制をずっと強いているようなものだ。

5は不適切さを通り越して滑稽である。施設のルールの押し付けもここまでいくと凄まじい。そもそも排泄ケアというのは、人の羞恥心に関連するデリケートなケアなのだから、デリカシーを働かせて、周囲の人々にトイレに誘導するということも、気づかれないように付き添うことが、より求められているのに、いちいち挙手させて、いまトイレに行きますと宣言させないとならない理由はなんだろう。この滑稽さ、異常さに気がつかない人々の感覚は異常だ。

6、そんな施設だから、こう思われるのは当然だろう。恐ろしいことである。

それにしても施設の常識が、世間の非常識という状態が無くならないことが哀しいことだ。将来自分の身に降りかかってくることなのに・・・。

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