超党派の国会議員有志で組織される国会版『社会保障制度改革国民会議』は7月1日に、「最終とりまとめ」を行い、その内容を公表している。衆議院議員・河野太郎氏の公式ブログにその内容がアップされているの。あまり目新しい提言や、なるほどとうなづく状況分析はないが、関係者は、一応その内容に目を通しておいたほうが良いだろう。
ここではまず社会保障制度全般について「現行制度は、度重なる制度改定による条件の細分化等の結果、詳細化・複雑化を極めており、受益者であり負担者でもある国民が理解しがたいものに変容してきている。」と問題点を指摘し、「国民にとって安心の拠り所であり、負担も求められる制度だからこそ、負担と給付の関係を可視化できる、わかりやすく簡素な制度であることが求められる。」としている。このことに異存がある人は少ないだろう。
その上で、制度の持続のために、「a)税・保険料収入の安定的確保、b)野放図な歳出拡大の抑制、真に必要とされる分野への絞込みによる歳出の適切な管理、が不可欠である。」と国民の痛みをともなう改革が必要であることを示している。
介護保険制度については、「他の社会保険制度に比して新しい制度であることから、これまで制度定着のためのサービス拡大に重点が置かれてきた面が見られる。しかしながら、既に制度創設から10年以上が経過しており、今後は、負担と給付のバランスをしっかりと図っていく必要がある。」と指摘した上で、「先ずは、在宅介護に比べて負担と給付の水準に乖離が見られる施設介護について、自己負担を2割に引き上げるべきである。その上で、引上げ分によって得られる財源を使って、在宅サービスや居宅系サービスの充実を図っていく必要がある。また、既に医療においては3割負担にまで引上げが進められていることを踏まえ、高所得者の介護サービス利用については自己負担2割への引上げを進めるべきである。」
↑このように自己負担割合の引き上げに踏み込んでいる。同時に、医療費の自己負担割合について、「70 歳以上75 歳未満の方の患者負担について世代間の公平を図る観点から、見直しを検討するとされたにも関わらず、段階的引き上げにも着手できなかったところである。」として、24年2月に閣議決定した2割負担に戻すように提言しており、介護保険制度の自己負担割合を上げるに際し、両者の整合性を図ろうとしている。
ここでは「在宅サービスや居宅系サービス」という言葉を使っており、それが介護保険制度の文言とは微妙に異なっていることが、この社会保障制度改革国民会議有志議員団の専門知識の低さを表しているといえるが、おそらく在宅サービスとは、介護保険制度の訪問・通所系の居宅サービス及び滞在サービスを指し、居宅系サービスとは、特定施設やグループホームを指していると想像できる。
それはさて置くとして、介護保険制度における自己負担割合の引き上げについて考察してみよう。
自己負担割合の引き上げについては、2012年からの制度改正時にも議論されたところであるが、それは実現しなかった。しかし2015年4月〜施行される次期改正介護保険制度において、このことが重要な課題として再び議論されることは間違いのないところで、このとりまとめのように、「まず施設利用者から2割負担、居宅サービス利用者については、一低所得以上の対象者のみ2割負担」とされる可能性は決して低くはない。今からその対策を考えておく必要がある。
ここで施設利用者の2割負担をシュミレーションしてみたい。
要介護度3で、多床室利用者の場合、現行は1日自己負担1割の額は837円である。月30日で計算すると、この額は25.110円である。そうなると高額介護サービス費の負担上限は、第1段階(老齢福祉年金受給者で、世帯全員が市民税非課税の方又は生活保護受給者)と第2段階(世帯全員が市民税非課税で、合計所得金額と課税年金収入額の合計が80万円以下の方)の利用者は月額15.000円、第3段階(世帯全員が市民税非課税で、利用者負担第2段階に該当しない方)の利用者は月額24.600円であるから、現在でも第1段階〜第3段階の利用者は高額サービス費の支給上限までしか負担していないので、自己負担割合が2割になっても、利用料自己負担額は変わらないということになる。
問題は第4段階(上記第1段階〜第3段階に該当しない全ての利用者)の利用者で、自己負担割合が2割になり、30日計算で、負担額が50.220円になった場合、高額介護サービス費の負担上限額である、37.200円の負担が求められることになり、現在より月額で12.090円の負担増となる。
当施設の現在の利用者の状況で言えば、第2段階の人が多く、さらに第1段階〜第3段階の利用者が8割以上を占めているので、自己負担率2割の影響を受け人は2割以下である。残りの2割以下の第4段階の利用者についても、。自己負担率が倍になっても、自己負担額が倍になるということではない。そうした状況ではあるが、施設の相談・援助業務従事者には、利用者ごとに、この負担増に耐えうる経済状況であるのかというアセスメントが求められていくであろう。
ところで居宅サービスの自己負担増が求められている「高所得者」とは、どの程度の収入を得ている人を指しているのかということであるが、これについては2012年の制度改正時に議論された「一定以上所得者の利用者負担のみ引き上げる(年収320万、年金収入200万円以上または医療保険の現役並み所得者) 」のことであると想像できる。
先の改正議論でも、年収320万、年金収入200万円以上または医療保険の現役並み所得者について、「高所得者」と表記されていたが、はたしてその年収は高所得者と呼べるのかという批判があり、途中から「一定以上所得者」と表現を変えているが、今回の取りまとめをみると、そういう議論があったということを知らない有志議員団が提言を取りまとめていることが分かる。
国会議員団の中に介護の専門家がいかに少ないかという証明だろう。そんな中で、介護保険制度が様々に議論されているが、その導き出す答えに及ぼす影響力を考えると、霞ヶ関の豊富な知識に、永田町の権力が勝るとは思えないという結論が、この取りまとめからも見えてくる。
政治は、官僚の手のひらの中で動かされるだけだろう。
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