チャゲ&飛鳥のヒット曲SAY YESの中に、「言葉は、心を超えない。とても伝えたがるけど、心に勝てない。」というフレーズがある。なかなか的を射た歌詞である。確かに言葉で自分の思いを伝えることは難しいし、それには限界がある。

しかし言葉は文章にすることで、より真意や思いが伝えやすくなる。そこに心とか、思いをすべて込めることはできないかもしれないが、言葉を文字にし、文章にすることで、読み手はしばしば文章には直接表現されていない筆者の真意をくみとることができたりする。

このことを「行間を読む」というが、そのもうひとつの意味は、書き手は意識的に、文字面(もじづら)だけでは伝わらない思いを行間に込めて、文章として伝えることができるということである。

つまり行間に込めた思いが伝わる文章を書くことができるということも、書き手としてのスキルなのである。

ところで我が国の介護保険制度では、介護サービス等を提供する場合に、その中心的役割を介護支援専門員に担わせている。そしてその際に展開される主要な援助技術であるケアマネジメントにおいては、介護サービス計画書(ケアプラン)を作成して、利用者の同意を得て、それを交付した上で、実際のサービスが提供されることになっている。

それは単に提供されるサービスの内容を示し、かかる費用を示すだけにとどまらず、解決すべき生活課題が何かを示しながら、それを解決する手段として段階的な目標を明示した上で、必要なサービス等を示し、介護支援専門員をはじめ各種のサービス担当者が、どのようなチームケアを行おうとするのかを明らかにするものだ。そのために総合的な援助の方針を記載することによって、生活課題を解決した先に、どのような暮らしの質が保たれるのかということも明らかにされるものと考えられる。

介護サービス計画書が、説明同意を得て始めて原案が本プランとなるという意味は、文字と言葉で、それらのことをわかりやすく伝えるという意味がある。そして全てを記憶にとどめておくことができない人間であるがゆえに、ここで文章化された計画書の交付を受けることによって、利用者は提供されるサービスの内容や意味を、その文章を読むことによって後に、記憶にとどまっていない内容や意味を確認するわけである。計画書はそういう意味でも重要で、そこに書かれている文章も、きちんとそのことが確認できる内容になっていなければならないのである。

そうであれば、介護支援専門員とは、それらのことが文章で伝えられるようなスキルを持たねばならないということになる。そのことは、文章力が介護支援専門員の大事なスキルであるということを意味し、それを鍛え磨いていく責任が介護支援専門員に求められるということになる。

このことについて、僕は「求められる文章力を得る手段」の中で、良い書き手は良い読み手から生まれ、作家は全て読者から生まれるという原理から考えて、文章力を鍛えるためには、書く練習をするだけではなく、むしろ文章を毎日読む習慣をつけて、主語と述語の置き方、文章の区切り方、句読点の使い方等がどうなっているかを意識して読む人になるべきだろうと指摘している。

今もこの考え方は変わっていない。

ところが、このスキルを重視しない介護支援専門員が多いことも事実である。そして文章力を鍛えることに興味を持たず、その努力をしない介護支援専門員が頼るのが、「ケアプラン作成文例」なるものである。

一定の課題を持った要介護者等のケアプランに書くべき内容を、いくつかの文例として示しているサイトなり、指南本がある。それを参考にして、実際に担当する利用者のサービス計画の中に、その参考文例の一部のみを変えて、計画書を作っている介護支援専門員が存在する。

その結果、アセスメントは違っているのに、1表と2表の内容が、どの利用者の計画も似たりよったりの内容となっている例がある。さほどひどくはなくとも、ひとりひとりの計画書内容は確かに違っているのだが、とってつけたような文章で、その利用者に求められる目標に対応していなかったり、生活課題を解決した先に、どのような暮らしの質が保たれるのかが見えない計画書も多い。

介護支援専門員が、文例に頼ってはダメなのだ。そんなものに頼ってしまえば、利用者が本当に求めているものを見つけることのできる視点を曇らせてしまう。介護支援専門員にとって最も重要なスキルとは、利用者の様々な状況変化に応じた、その時々の思いに気づくことができるスキルである。そのためには介護支援専門員に想像力が求められるわけであるが、文例に頼って、自分でその利用者にあった内容を、自分の文章で伝えようとしない人は、この想像力を鍛えられないのである。

そもそも自分の力で文章を書くということは、自分の言葉を持つことなのだ。文例に頼る人は、自分の言葉を持てなくなる。

マザーテレサがよく使っていた言葉に
思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、それはいつか人格になるから。
人格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。

という名言がある。言葉はあなたの人格なのである。そんなものを文例に頼ってどうする。文例に頼る人も、文例を作って教える人も、自分の言葉を持つことの意味をもう少し重大に考えて欲しいと思う。

そういう意味でケアプラン作成文例など百害あって一利なしである。少なくとも利用者の個別ニーズに真剣に寄り添って、その人に真に必要なサービスをみつけようとするなら、そんなものに頼らず、自分の表現で、利用者に伝えるスキルを身につけないとならない。

介護支援専門員は、介護サービス計画作成においても、自分の方法で文章を書くことが大事だ。なぜならオリジナリティこそが、個別のニーズに対応できる支援方法を探り当てるスキルだからである。

個別化の原則とは、文例に頼らず、自分自身の文章で、自分が関わる利用者の計画書を作る姿勢にも通じるということも意識して欲しい。


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