介護サービス従事者の賃金はなぜ低いのかという議論がある。この答えは一つではないだろう。

しかし一つだけ言えることは、介護保険制度施行以後、たくさんの小規模事業者が増えたことで、そうした事業者の賃金体系が低いことが、全体の平均収入を下げている要因のひとつになっていることは間違いないところだ。

そうした事業者には、給料表のないところも多く、手当や賞与も正職員としての体裁を備えていないかのようなレベルになっていることも多い。

一方で、特養等を経営する社会福祉法人で、給料表のない法人はないだろう。しかも措置費の時代から運営していた法人は、国家公務員準拠の給料表等の待遇を引き継いでいる場合が多い。当然のことながら、小規模民間事業者との給与格差がそこで生まれるわけである。このことを社会福祉法人が、人件費支出を抑制するために給与削減を図らないという「甘え」だと一刀両断しても良いものなのか?それは介護サービス全体の事業者の賃金を、低い水準に合わせても良いという理屈につながっていくものである。

介護労働というものが、もっと賃金的にも恵まれた労働となりうるようにな社会的な認知度を上げるためには、事業者間で低い方向に足を引っ張りあうのではなく、待遇の良い事業者があるとすれば、そちらが本来の適正賃金であるとして、高い方をスタンダートとするような方向で議論するべきだろう。そして全事業所がその方向に向かえるような介護報酬が考えられなければならない。それがされず人件費支出を適正に支出している事業者が、「甘えの構造」を持っているかのような、僻みっぽい議論が横行することによって、介護労働という重労働で、かつ重要な労働の対価が上がらないことを、関係者はもっと真剣に考えるべきである。

ここで考えて欲しいことがある。

安倍政権は、小泉政権でとった政策に回帰し、「骨太の方針」でプライマリーバランスを2020年までに黒字化する国際公約を明記している。そこでは社会保障費も聖域化しないとしているのだから、毎年自然増として支出が増える2.200億円の社会保障費の捻出のために、既存の給付を削減することは当然行われる。

しかし一方では、介護サービスを担う人材不足という声が高まり、この確保のための政策は不可欠となっていくだろう。

そうであれば財源不足の中で、人件費に回せる財源も限られている状況で、人を増やすためにはどうしたらよいかという矛盾と相対していかねばならない。

その時、人件費を手厚くして、サービスの量も確保し、かつ国の費用負担を増やさない方法を考えたら、コストパフォーマンスの高さに注目した政策を取らざるを得なくなるのではないのか?

それは今以上に、かつ緊急性をもって推進されるべき政策となっていくのではないだろうか。

単純に考えて、体力のある大きな法人が、たくさんの職員を抱えて、広域的に多種類のサービス提供をすれば、コストパフォーマンスは高まり、介護報酬をそんなに多く給付しなくとも職員給与はある程度の水準を保つことが可能になる。小規模事業者ではそれは難しいから、ここで一旦、整理して潰れるところは潰れてもらって、潰れたくないところは大きな法人に事業吸収されて、事業主体の大規模化を図っていこうという政策がとられる可能性が高いという意味だ。

現に今年今年3月に出された「地域包括ケアシステムの構築における今後の検討のための論点」(地域包括ケア研究会)には、次のような記述がある。

・統合的なサービスの提供、キャリアアップの仕組みなどの人材確保、効率的な経営の観点からも、「事業所の単位」と「事業者の単位」を分けて考え、人事・採用・教育・営業など、規模の経済が働きやすい業務については、業務提携や統合などを推進していくことが必要ではないだろうか。また、事業者の単位を拡大することで、能力開発を促す配置、ジョブローテーションの機会の増加にあわせた昇格・昇給、研修の充実等を行いやすくなり、職員に対してキャリアパスをより明確に示すことが可能になるのではないだろうか。

・事業者間の業務提携、複数の法人間の連携などを通じて、複数のサービスがネットワーク化された主体から提供されることは、統合的なケアを提供していくという地域包括ケアシステムの方向性にも親和性があり、その実現の一つのあり方と考えられる。定期巡回・随時対応型訪問介護看護などの複数職種によるサービスの一体的提供も、こうした事業者の中規模・大規模化によってより円滑に行われる可能性が高いのではないだろうか。

・そのためには、事業者間の業務提携、複数の法人間の連携などを容易にするための制度的な枠組みの見直しについても、国の政策として積極的に推進していく必要があるのではないだろうか。


このように事業者規模の拡大が求められているのである。事業所の単位は拡大せず、ユニットケアの推進も必要だが、その事業所を経営する事業者の規模は、今以上に広域的かつ大規模化が必要ということだ。これは社会福祉法人等の吸収合併を推進していく必要があるということを意味しており、安倍政権の政策にも合致していくと考えられるのではないだろうか。そうなると小規模事業者は、事業規模の拡大の中で荒波に飲み込まれ、吸収されるか、下請け化するしか道はなくなるかもしれない。

地域包括ケアシステムを推進する今後の介護保険制度は、囲い込みを不適切であるとする考えを大きく後退させ、新たな段階に入ったということになる。

それは一定地域で事業規模が小さな事業者が乱立するのではなく、大規模な事業主体にサービスを集約させ、コストパフォーマンスを高めるとともに、大きな事業主体の中で、いろいろなサービスを利用者状況に合わせて適時提供するという、いわば「囲い込み」を推進するのが、地域包括ケアシステムの真の姿というわけである。

どちらにしても、今までのように小規模事業者が介護事業に経営参入することが推奨され、介護報酬も小規模事業ほど手厚く設定されるという状況ではなくなりつつある。次期改正はそう言う意味でも、小規模事業者に厳しい改正になる可能性が高い。                                                                

小規模事業者の経営者諸氏は、こうした僕の見解を荒唐無稽であると笑って見過ごすことができるのだろうか?

介護・福祉情報掲示板(表板)

人を語らずして介護を語るな THE FINAL 誰かの赤い花になるために」の楽天ブックスからの購入はこちらから。(送料無料です。

「人を語らずして介護を語るな2〜傍らにいることが許される者」のネットからの購入は
楽天ブックスはこちら
↑それぞれクリックして購入サイトに飛んでください。