要支援者については配食や掃除、買い物といったサービス利用が多く、自立支援につながらないとの批判がある。限られた財源を重度の要介護者に振り向けるべきとの考えから、介護保険の給付対象から外してボランティアなどを活用した市町村の事業に移すべきだとの議論がされている。

この動きが表面化したのは、今年のゴールデンウイーク最中に、厚生労働省が一部報道機関に、次期改正(2015年4月〜)では、要支援者のサービスを介護給付から外して、市町村事業に転換する方針であるとリークしたときからである。
(参照:要支援者の給付除外について

しかしその2日後、閣議後に行われた、田村厚生労働大臣の記者会見の中で、大臣と記者が次のようなやりとりを行っている。

記者
 社会保障制度改革国民会議の方で、介護保険の軽度者について、市町村事業として委託した方がいいという提案が出ていますけれども、厚労省としては今後どのように。
大臣
 そういう御議論があることも承知をいたしておりますし、以前からそういう御議論というのは何度も出てきている話でございます。一方で、今まで介護保険の中で介護給付という形でやっておった部分もあるわけでございまして、それをですね、いきなり地域という話になりますと、なかなかそういうような受け皿ができるのかどうか。基本的に業者だけではなくてNPOでありますとか、いろいろなところが介在をしていただくことが一応基本的な考え方の中にありますから、受け皿がないのにですね、いきなり事業をそちらの方に移していくということになればですね、これはかなり地域によって差が出てくるわけでありますから、そこのところも勘案しなければいけないというふうに思いますので、これから御議論をしっかりいただく中においてですね、どうするか検討の上、最終的に方向性を決めていきたい、このように思っております。
記者
 それは審議会で審議をした上で検討していくということでいいですか。一部報道で「方針を決めた」っていう。
大臣
 決めていません。審議会の中でそういう御議論があるということを承知した上でですね、いつからやるかというよりも、まずやれるような受け皿が整うのか、それから当然サービスを受けられる高齢者の方々の御意見もやっぱりお聞きをしていかなきゃならんという話だというふうに思います。いずれにしましてもこれ、介護報酬の改定に絡んでくる話にもなりますから、少なくともそれを見ながらの話になってくると思いますから、決定したわけでもございませんし、今まだ検討、御議論をいただいた上で検討していく、またさらに関係者の方々の御意見もお伺いするというような段階でございます。

大臣は国として要支援者を給付から除外することを方針としているわけではないと強調しているが、この大臣発言については省内で冷ややかな意見が出されており、一部の関係者は、「参議院議員選挙前に、消費税を上げる時期の要支援者の給付外しは明言できないだけだろう。」という見方をしている。

特に政府の中期的な経済財政運営の方向性を示す「骨太の方針」では、財政再建の指標である国と地方の「基礎的財政収支(プライマリーバランス)」を2020年度までに黒字化する国際公約を守ることを明記し、その目標達成に向け、医療や介護、年金などの社会保障支出についても「聖域とせず、見直しに取り組む」ことを盛り込んでいろのだから、介護保険制度もこの影響を受けないわけがない。

利用者負担1割の負担割合の見直しは必至だし、要支援者の給付除外という方向も、その中では正論とされていくだろう。

このことに関しては、介護保険部会では、「介護予防の効果が薄ければ給付対象から外す検討も必要」との意見が出る一方で、「市町村事業が受け皿となるかには不安がある」「検証が必要」との慎重論も出されたが、厚生労働省内では、着々と要支援者のサービスを、介護給付から外す方向できな臭い動きが進めされていることは間違いのないところである。

例えば、2015年からいきなり要支援の給付をなくすのではなく、経過措置としてサービスを使っている人は引き続き保険給付をする案とか、要支援認定そのものをなくすのではなく、一部のサービスのみ要支援者が使えないという方向から入るという案が出てくることでもわかる。

このような経過措置案が実現されるとしたら、例えば2015年時点で、要支援者は医療系の予防サービスは使うことができるが、予防訪問介護と予防通所介護だけ使えなくなるという方向もあり得るのである。それを橋頭堡にして、徐々に使えないサービスを広げ、2015年以降の早い時期に要支援者のサービスをすべて保険給付から外すというソフトランディングで反対論を押しつぶそうとするものである。

こうすることによって、今現在、市町村で介護予防・日常生活支援総合事業を実施していないところも、必然的に順次それを行っていくより他に道はなくなり、2015年の次の2018年改正では、市町村に代替サービスがないという状態ではなくなるため、全市町村で予防サービスに替わるサービスが実施できるという理屈になる。

要支援者の給付除外に反論する最大の拠りどころである「市町村の受け皿には地域格差があって、予防サービスを実施できない地域が多い」という理由がなくなるというわけである。

このように削減幅を縮小し、そこを橋頭堡にして、削減サービスを徐々に広げるという戦略的給付抑制策が幅をきかせてくる可能性が高まっている。

そうすると新たに見えてくるものがある。

それは要支援者を給付対象外にしたって、そこで削減できる財源は現行給付のわずか5%、400億円しかないわけだから、狙いはそこではないということだ。

これを躍起になって行うという意味は、要支援者の給付除外が実現できたら、それを橋頭堡にして、次は軽介護者、つまり要介護1と要介護2の保険給付除外が見据えられているという意味である。少なくとも要介護1と要介護2の認定者については、近い将来、施設サービス利用をできなくして、居宅サービスのみしか使えなくなるようにしようという意図は見え見えで、あわよくば給付から外して、これも市町村事業に持っていきたいというのが厚労省の考え方であろう。

サービスを利用している最大の層である、要介護1と要介護2を給付除外したとき、はじめて国が狙う給付抑制効果が顕れるというわけである。

しかしそれは同時に、要介護高齢者の暮らしと命を危険にさらす方向でもある。

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