他人に対して、特別な理由もないのに「苦手だな」とか、「なんとなく嫌だなあ」と感じてしまうことがない人なんて存在するのだろうか?

特別な理由があるわけではないのに、他者に対して何となく波長が合わないと感じたり、やることなすこと気に食わなくて悪感情しか持つことができないということは、それほど珍しいことではない。

介護の仕事に携わっている人で、福祉援助や介護サービスの場で、自分が関わる利用者さんにもそうした感情を抱いてしまうことはないだろうか?利用者のちょっとした態度や言葉にイラついたりすることはないだろうか?そしてその時、利用者さんに対して、そういう否定的な感情を覚えることについて自己嫌悪に陥ったりしないだろうか。

しかし、そうした感情を覚えることに罪悪感を抱く必要はないし、そうした感情を抱く自分を責める必要もないと思う。

感情というものは理屈で説明できるものではない。それは自らの意思ですべてコントロールできるものでもない。人間とはそれほど単純な存在ではないのである。人の心まで科学ですべて解明できることはあり得ないし、人の心のすべてが論理的に説明できるわけがない

人の感情が「すべき論」で動くわけがないのである。

しかし福祉援助や介護サービスの現場で、そうした感情が援助関係に影響を及ぼしては困るわけである。

そういう感情を抱いてしまう相手に対しても、適切な援助関係を築かねばならないわけである。プロである以上、我々はそういう感情を超えたところで、適切な支援の手を差し伸べる使命を持っていると考えなければならない。

だから、自分はどのような感情を、どういう時に、どういう人に対して持つ傾向にあるのかを、自らが積極的に知ろうとする必要があるわけだ。そのことを自覚することで、そうした感情が援助関係に影響を及ぼさないように、その感情を制御しながら援助関係を適切な方向に向けることができるわけである。

このような精神作業を積極的に行うことが「自己覚知」につながるのであり、自己覚知は対人援助に関わる全ての人が意識しておかねばならないものである。

例えば、人によって飲酒は許せるが、喫煙は我慢できないという価値観もあれば、その逆もある。 人によって怠惰が最も許せないという価値観もあれば、嘘をつくことが最も許せないという価値観を持つ人もいる。

相談援助や介護サービスの専門家であるとしても、こうした感情や考え方を持つこと自体は人間として不自然ではないのである。

なぜなら人は他者を見るときに、自分の道徳的標準や感情で判断してしまうことが多いからである。それだけ価値観というものが多様なのである。しかしその時考えなければならないことは、自分の価値観がすべてではないということだ。自分が常に正しいわけではないということだ。そうであるがゆえに、自分がどのような感情や意見を持ちやすいか自覚することが対人援助には不可欠なのである。

このように理屈では排除できない様々な感情を持ってしまうということを前提にして、自分が今、どのような行動をとり、どのように感じているかを客観的に意識することが自己覚知である。

そして自ら抱く様々な感情を、正しいとか、正しくないとか審判するのではなく、そうした感情を抱く自分というものを正しく理解して、それさえも受け入れるというのが自己覚知のもうひとつの意味でもある。

僕は基本的に緑風園で暮らす人、緑風園のサービスを利用するお客様、それらの全ての人を愛している。でも時々、その愛する人々のちょっとした態度や言葉に傷つけられ、ときにそのことに対し怒りや嫌悪の感情を覚えてしまう。しかし僕はそうした感情を抱いてしまう自分を否定して、自分自身を責めようとは思わない。それも自分の一部であると受け入れ、そうした感情を抱きやすい自分というものを意識して職務に携わる。

勿論、自分自身の何かを変えなければならないこともあるが、その前に自分自身を受け入れ、自分自身を許し、自分自身を愛せないと、人に対する愛情は持てないのではないかと考えている。

大きな愛になりたいから、自分自身を愛すことから始めようと考えている。

それは自己弁護ばかりして、他罰的な思考に偏ることとは違うと思っている。全ての人の豊かな暮らしを支援する前提として、自らを愛し、他者を愛するという意味だと思う。

福祉援助・介護サービスに携わる全ての人々に言いたい。

どうぞ自分自身を嫌いにならないでいてください。どうぞ自分を愛し、人を愛する人になってください。あなたの素敵な笑顔が、周囲の人々の笑顔と幸福につながることを忘れないで下さい。

人を幸せにするためにある介護サービス。どうぞその「介護の誇り」を忘れないでください。
君しかできない




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