介護サービスの質が議論されて久しいが、それはとりもなおさずその事業に従事している人々の、人材としての質が問題とされているのだろうと思う。
業界全体で見れば、有能な人材の数は、介護保険制度施行以前と比べると間違いなく増えてはいる。しかしそれ以上に事業所数が増えているので、有能な人材以上に、人材とは言えないような単なる人員レベルの人が増殖しているのも事実である。そしてその人員の中には、介護サービスを提供するのに向いていないのではないかと疑いたくなるような資質の人が含まれていることも事実だ。
しかもそうした人材とは言えない人たちが、事業管理者の中にも存在することで、事業運営のルールが法令でどのように定められているかさえ知らずに、不適切な運営を行う結果となっていたりする。
その中には悪意がないけれど、知識がないことによって、結果的に不正請求を行ってしまう事業者も存在するのだろう。
このように不正意識がなくても、法令を知らないことで結果的に不適切運営や、不正請求を行ってしまうことを防ぐために、全国各地で「実地指導対策講座」なるものが開催されている。そこには結構人が集まり大流行りという状態だそうである。
しかしそのような「対策講座」に参加しないと、事業運営が適切にできないというのは、ある意味恥ずかしいとも言える。
そもそも実地指導は、事業者の不正を見つけるために行われるものではない。
介護保険施設等実地指導マニュアル(厚生労働省)によれば指導監督事務について、指導と監査を区分することにより次のような異なった目的を示している。
○ 指導は制度管理の適正化とよりよいケアの実現
○ 監査は不正請求や指定基準違反に対する機動的な実施
つまり定期的に行われる実地指導は、不正を発見するのが目的ではないし、ケアの質を担保するために制度管理と運営の最低基準を守っているかが問われるものだ。そこで真面目に事業運営に取り組んでおれば、書類の整備がされていないなどのわずかな齟齬について、指導をきちんと受けることはやぶさかではないはずだ。むしろ指摘事項から学び取って、よりよい事業運営につなげていけば良いと思う。
この時、報酬算定ルールを知らずに返還指導を受けることを恐れることから、「対策講座」が繁盛するのだろうが、事業管理者が、基本法令と報酬告示・解釈通知をきちんと読み込んで事業運営にあたっておれば、そのような事態は防げるはずだ。
各都道府県では、実地指導に関わる自己点検表も出しており、(参照:北海道の実地指導自己点検表)これらを日頃から確認しておれば、わざわざ対策講座を受ける必要もないと思う。
自らが対策講座を受けないと実地指導に臨めない不安がある管理者は、そういうスキル自体を向上させなければならないので、法令を読み込み、点検表を使って日頃から検証するという作業から始めたほうが良いのではないのかと思ったりする。
報酬請求事務担当者も、実地指導対策講座に頼るのではなく、対策講座を受講しなくても良いだけの知識を日頃から身につける努力が必要なのではないかと思う。そうすることがスキルアップにつながるのではないかと思う。それは対策講座で知識を得る何十倍の効果があるものだろうと思う。
当施設は措置時代から、介護保険制度にかけて、長年行政指導を受けているが、そうした対策講座を受けたことはなく、それでも問題なく事業運営できている。
細かな齟齬に対する文書指導は何度か行われたが、報酬返還などに繋がるような不適切サービス・不正請求の指導はされたことがない。そんなことは自慢する問題ではなく、事業者として当たり前のことであると思っている。
なぜなら対策講座を受けないと、実地指導に自信を持って臨めないのであれば、実地指導とは、行政担当者の一方的な指導を受けて、何も指摘されないことが唯一の目的となってしまうからだ。
しかし本来そこでは、介護サービスを提供している事業者として、適切なサービス提供のバリアになっている法令ルールを指摘するなど、現場からの意見発信があって良い機会である。そのことで行政担当者とポジティブな意見交換ができる場であるはずだ。
実地指導とは、そういう貴重な機会なのに、そうした目的を持てない事業者をはびこらせているのが、対策講座の存在の一面であるような気がしてならない。
実地指導の要点のみに絞って対策をレクチャーしてくれる講座は便利なのだろうが、便利さは必ずしもスキルアップに繋がらないし、時にそれは事業者及び事業運営者の育成にとっては障壁にさえなるという事業者意識も必要なのではないだろうか。
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