大辞泉ではデマンドとニーズの意味を次のように解説している
デマンド【demand】需要。要求。請求。
ニーズ【needs】必要。要求。需要。
介護支援専門員が計画作成の際に「デマンドよりニーズを引き出せ」とか、「デマンドをプランに結びつけるのではなく、ニーズに対して適切なサービスを提供する必要がある」と言われることがあるが、この場合デマンドとニーズの意味は、全く違う意味として使われていることになる。
ここではデマンドという言葉は、ウォンツ(欲求)に近い意味で使われており、自己の欲求を満足させるための要求や請求という意味になるだろう。そしてそれを満たしたとしても、必ずしも暮らしの質は向上しないという意味を含んでいる。
このようにデマンドが、利用者の欲求を満たすだけの要求や請求であるとしたら、ニーズとは単なる欲求を満たすための要求ではないという意味になる。
心理学の用語としてニーズという言葉が使われる場合の意味は、「個人の行動を動機づけたり、ある対象に対する選択的な方向づけの誘引となるような内面的メカニズムであり、欲求または要求という」(日本大百科全書より)とされている。
介護サービスの場で使われるニーズという言葉の意味は、この心理学用語に近い意味で、対象者の内面も含めた問題として、その人の日常をよりよくするために、真に必要とされるものという意味で使われていると解釈できる。
そういう意味であれば、ケアプランに記される具体的サービスは、単にデマンドに対応するのではなく、きちんとニーズを引き出して、それに対応するものであるという考え方は正しいと言える。
しかしここで問題となるのは、デマンドとニーズの違いをどのように見分けるかということである。そして見分けが付いた場合であっても、欲求に基づいた要求をしている利用者に対し、それはニーズではないということをどのように説明して納得してもらうかという問題である。
アセスメントツールで自動的にニーズが引き出せるということはない。ここが難しいところだ。ニーズとは機械的作業で引き出すことはできないのだ。アセスメントツールを利用して引き出した生活課題に対して、何がニーズなのかという検証作業が欠かせないのがケアマネジメントの難しいところである。
時として適切なニーズ把握のバリアになるものが、介護支援専門員の思い込みや、その価値観であったりする。デマンドだと思い込んでいたものが、実は利用者自身から表出・顕在化されているニーズだったりする。
ここをきちんと検証・評価しないとケアマネジメントは機能しないということになる。
そのために介護支援専門員は次のことを自覚している必要がある。それはニーズに対応せよという意味が、「希望や要求が必要性とは違う」という意味に留まらないということである。介護支援専門員がデマンドと思い込んでいる利用者の要望の中にもニーズが含まれているかもしれないことに注意を払うべきである。
時として、デマンドもニーズの一部分と考える視点が必要となるのが生活支援であり、デマンドとは利用者が望む暮らしを探る羅針盤かもしれないという考え方が一方では必要とされるのだ。その上で、できることと、できないことを理解できるような支援関係を築くことが重要なのである。
ここをきちんと見極めた上で、利用者が自覚していないニーズ、自覚していても何らかの理由で顕在化(表出)されていないニーズといった、「隠されたニーズ」の発見が重要になってくる。それを発見するために高い専門性が求められているのである。
この際、ニーズを潜在化させないためには、相談をする利用者側の「心の重み・ハードル」を理解することが大切である。つまり誰しも他者に知られたくない・言いたくなということもあるということを理解する必要があるということだ。自分の困り事を、つつみ隠さず、事実をありのままに他人に告げるということはそれほど簡単なことではないのである。恥ずかしくて言えないという気持ちは、ケアプランを担当する介護支援専門員に対しても抱いてしまう感情であることを理解しなければならない。
そのために介護支援専門員は、相手がどんな気持ちで相談するに至ったかを思いやる気持ちを常に持っていなければならない。
そのうえで、「困っていることと、望んでいること」を区別し、さらに困っていることや望んでいることについては、それが人に対してか、それ以外かというふうに整理・検証していくことが大事である。
その際、利用者本人がニーズを認識できないのはなぜかと考える必要がある。時にそれは抑圧・孤立であったりする。あるいは複雑で複合的な課題が重なりニーズが認識(特定)できないという理由であったりする。場合によっては、介護支援専門員の関わり方で潜在化するニーズもある。
つまり「主訴は何か」「ニーズは何か」「必要なサービスは何か」を考えることは大事だが、その前に利用者が援助者を受け入れることができる信頼を築くためには、介護支援専門員の姿勢が大事であり、ニーズを顕在化させる前段階として、対人援助の最も重要な基本は「人と人との信頼関係」であるということを忘れてはならないわけである。
この姿勢がなければ的確なニーズは抽出できないし、逆に言えば、この姿勢に徹して利用者から信頼を得て初めて、欲求に基づいた要求をしている利用者に対し、それはニーズではないということを説明して納得してもらえるような関係となり得るのである。
そのためにはマナーも求められるわけで、顧客サービスとしてふさわしい言葉遣いや、服装への気遣いというものが求められるのは当然である。
これは説得術ではなく、介護支援専門員のソーシャルワーカーとしての交渉術の一つであるのだから、マナーに欠ける交渉では成功確率は著しく低下するという理解も求められるのである。
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