僕は介護福祉士養成専門学校で、非常勤講師として、「認知症の理解」という授業を担当している。

1年時と2年時、それぞれ90分授業を15コマずつ行っている。つまり2年間を通じて、90分×30回の授業ということになる。(各学年で2コマ授業が14日、1コマ授業が1日)

その際のシラバスは2年間を通して学び取るという視点から作成しており、15コマずつ区分しているというより、30コマをひとつの単位として考えている。

講義名からわかるように、この授業は認知症の人を理解することを一番重要視している。単に認知症の人に対するケアの方法論をあれこれ教えるだけではないという意味だ。

そもそも認知症の人に対する具体的ケアは、その人の状況に応じてひとりひとり違ってくるので、定型的な方法論を教えたって始まらない。行動理解につながる症状のメカニズムや、脳科学からの基礎知識は必要になるが、それもすべて認知症とは何か、その症状を持つ人々の内面はどうなっているのかを想像する基礎を作るためにある。そうしないとひとりひとりにあった適切なケアを介護サービスの実践の場で作っていけなくなる。

そのため1年時の10コマ目までは、徹底的に基礎理解を促す講義形式の授業を行う。その中で、ある程度理解度が高まったと判断すれば、次にブレーンストーミングというグループワーク方式で、様々なケース検討を行う。1グループ6名〜7名で6グループを2年間固定化したメンバーで話し合うようにしている。これが2年生の12コマ目まで続き、最後の3コマはまとめの講義形式となるようにしている。

ブレーンストーミングで取り上げるケースは、すべて僕が介護サービスの場で関わったケースであり、すべて完結したケースである。現在進行形のものは取り上げない。なぜなら現場で完結していないケースに答えはないので、学生に最終的にそのケースの評価を示すことができないからだ。

介護サービスの場で完結しているという意味は、成功したという意味ではなく、失敗した例も含まれるという意味だ。あくまで評価を終えて、その結果を学生に示すことができるケースを取り上げている。そこにフィクションは存在しないため、学生は介護サービスの現場の臨場感を持って考えなければならないことになる。

その中で間違ってはいけないことは、認知症の人は何もかもがわからず、全ての人の行動が、認知症の症状とつながっているというわけではないということだ。認知症の人であっても、その症状とは全く関係のない、人としても喜怒哀楽や感情表現は当然あるわけで、認知症の症状とすべてを結びつけてしまうことによって、逆に本当の生活課題が隠されてしまう場合があるということだ。

ブレーンストーミングでは、認知症の人の排泄支援、食事摂取支援、活動参加支援、入浴支援などを実際のケースから考えるが、排泄支援のケース検討の中では、先日「信用してもらえない認知症の人の訴え」で紹介したケースを、ブレーンストーミングで話し合っている。

ここでは認知症というフィルターをかけないで、認知症の人の訴える意味を考えることの重要性を理解してもらえるように指導している。

認知症の理解という授業だから、学生たちがここで話し合うテーマや症状について、すべて認知症と関連付けて考えてしまうのはやむを得ない。そのため各グループの検討結果において、この症状を泌尿器科疾患と考えて対策を考えているグループはほとんどない。

そのため全グループの発表の後、僕が行う総評の中で、このケースの中で、利用者が頻回におしっこしたいと訴えている理由は、実際には認知症の行動心理症状ではなく、病状から生ずる身体の不調に関連する訴えであることを解説し、そこから我々が間違ってはならないことは、認知症という診断がされている人と相対するときに、認知症という症状がある人と言う前に、ひとりの人間として真摯に接することが重要であることを訴えている。

それらの人々は、家族にとっては父であり、母であり、夫であり、妻であるということを理解してもらわねばならない。そうして、認知症の症状のある人ではなく、ひとりの人間として見つめる視点が大切であることに気づいてもらいたい。

そうすることによって、我々が介護サービスの場で相対するのは、個々の症状ではなく、暮らしを営む人そのものであることを、しっかり2年間で理解してもらいたいものだ。

介護の専門性とはそこからスタートするのではないだろうか。

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