1948年(昭和23)の法務庁法務長官通達「懲戒の程度」によると、体罰とは、「身体に対する侵害、被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒」とされている。

Wikipediaでは、「殴打等の、身体を通じた罰のことである。」としている。

どちらにしても、それは懲戒とか、罰(ばつ)であるということだ。では懲戒とか罰とはなんだろう?

懲戒とは、「不正または不当な行為に対して制裁を加えるなどして、こらしめること。」という意味である。「罰(ばつ)とは、法令や特定集団における決まりごと、道徳などに違反したものに対する、公もしくは集団が行う多くは当人に不利益または不快になることである。」とされている。

そのことを念頭にして、今、社会問題となっているくだんの件について考えてみたい。

大阪市立桜宮高校2年生の男子生徒が、バスケットボール部の顧問から殴られた翌日に自殺した問題をめぐっては、いろいろな意見が出されている。それは体罰是非論にもつながっており、教育的指導としては、体罰はすべて否定されるわけではないという意見を述べる人も存在する。

しかしこの問題は、そもそも「体罰」の問題なのだろうか?自殺した生徒を殴ったというバスケットボール部の男性顧問(47)の行為は、「体罰」なのであろうか?

報道を見る限り、自殺した生徒が殴られた理由は、試合中にリバウンドをきちんと取れなかったとか、ボールに飛びつかないとか、試合中のミスを理由にしたものだ。これは不正でも不当な行為でも、道徳に違反する行為でもない。単に試合中のパフォーマンスが、指導顧問の求めた結果と違っているというだけだ。間違ってはならないのは、自殺した生徒は、練習をさぼったとか、試合中に不適切な態度をとったとか、悪いことをしたとかいうわけではないのである。

そうであれば、この顧問の行為を「体罰」と呼んで、そのことから問題を議論することは間違っているのではないだろうか。この顧問が生徒を日常的に殴っていた行為とは、体罰ではなく、「みせしめとして繰り返し暴力をふるっていた。」ということに他ならない。しかもそれは絶対服従の関係にあって、反撃や抗議ができない生徒に対する一方的な暴力である。それは教育とか指導とかとは言えない行為である。

教育指導の方法に対する行き過ぎた行政指導は、現場が萎縮するなどという論理で、この顧問が行っていたことを一部でも肯定するような考え方があることはおかしいと思う。

暴力でチームを支配し、暴力でしか指導できなかった顧問の考え方や、その教育者としての能力の低さを問題にすべきだ。

僕は中・高校生時代に軟式庭球部に所属し、3年生の時には主将も務めていた。そのチームは地域で勝ち上がり全道大会に出場するような結果を残していた。社会人になってからも軟式野球チームの主将として全国優勝の経験もしている。しかしその経験の中で、殴られて指導されたことは一度もないし、自分も誰かを殴ったことはない。そもそも練習は技術を高めるけれど、殴られて技術がうまくなることはない。試合の中のパフォーマンスが低かったとしても、殴ってそれが良くなるなんてことはないだろう。

常軌を逸した暴力指導を行っていた当事者は、教員資格を持った教育者だろう。単なるスポーツ指導者ではない。スポーツの結果を求めるだけではなく、人としての成長とは何か、人間としての存在価値を教え育むのが教育者だ。

試合中の生徒のパフォーマンスについて、自分の思うパフォーマンスと違うからといって、常軌を逸した暴力を日常的に振るう行為が教育だとでも言うのだろうか。

僕が切なく思うのは、こんな間違った考えを持った顧問と出会わなければ、この生徒はもっと人生を楽しめたはずだろうにということである。

残された遺族の無念はいかばかりだろう。

母親が最後にこの生徒を見たときの姿は、生徒が机に向かっていた姿だということだ。その時母親は、この時期の、そんな時間に勉強しているのもおかしいなと思ったそうであるが、勉強を止めるのも変だから、声をかけなかったそうである。しかしそれは勉強している姿ではなく、「覚悟ができた」と遺書を書いている姿であったそうである。あまりに切ない現実だ。こんなことがあって良いのか・・・。

こうした理由で、こうした形で人生の幕を閉じなければならない若者がいたということを、結果責任としてすべての大人が考えなければならないと思う。こんなことに言い訳は必要ないのである。

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