自宅で家族と暮らす要介護者を支援する際の難しさとは、家族が抱える問題が、要介護者に影響することを防ぐ手立てが別に必要になるという点である。

要介護者本人と、必要な社会資源の調整ということにとどまらず、要介護者の生活障害の一因になっている家族の問題についても、何らかの形で関わらねばならなくなるケースというのは多いはずだ。

介護支援専門員も、利用者に対する居宅サービス計画を立案し、それに沿った総合的援助を行う際に、居宅サービス計画が機能しない一要因が、家族の存在そのものであるというケースに出くわすことは少なからずあるだろう。

その際には、家族支援は私の仕事ではないと言っておられず、そのことを含めた総合支援能力、調整能力が求められてくる。

例えば、主介護者自身が精神的な障害を抱えて、それ自体が要介護者の生活障害になっているケースなどである。

この場合、主介護者の病状に対するアプローチは不可欠であり、利用者支援と切り離して考えられない。しかし一方で、主介護者からは、介護支援専門員は利用者にだけ関わってくれれば良いので、自分のことは構わずにいてくれと拒否的な態度を取られることも多い。

「あなた自身の問題が、利用者の問題と関わりがあるのです」という説明をしたところで、それを簡単に受け入れてくれるとは限らず、そこでいかに介護支援専門員等のソーシャルワーカーが、主介護者から信頼を得て、主介護者の問題を含めて全体的に関わることができるかが重大な課題となる。そういう意味で居宅における支援というものは独特の難しさがある。

その時必要とされるのは、社会福祉援助技術であることは否定しないが、しばしば「人間力」「包容力」というものが必要不可欠であると感じることがある。そうした力を持っているワーカーは、とても頼もしく思える。

この点で言えば施設サービスの場合は、こうした問題のハードルが在宅時より低くなる。

なぜならそうした問題を抱えたケースでも、施設サービスに移行した途端に、介護施設という新たな居所で、家族の負の影響を排除して、生活支援のみに関わることができるというメリットがあるからだ。

あまり詳しい内容を書く事はできないが、次のようなケースがあった。

介護保険制度が施行された直後のことであるが、高齢者夫婦と、一人息子が同居していた世帯で、脳出血後遺症で左半身麻痺となった夫の介護を、70代の妻が担っていたケースである。

高齢の妻の介護負担を軽減するため、当施設併設の居宅介護支援事業所の介護支援専門員が、ヘルパーとショートステイのサービスを組み込みながら支援していたケースである。僕は当時、ショートステイの担当者として、本ケースに直接関わりを持ち、短期入所生活介護計画を作成していた。

このケースの一番の生活障害は、要介護者の身体状況ではなく、息子の存在そのものであった。

50代の息子は、アルコール中毒症で定職もなく、一家は生活保護を受給して暮らしていた。昼間から酒を飲んで、身体介護のため訪問するヘルパーにからんで、ホームケルプサービス提供そのものに支障が来すことが頻回にあった。

酒を飲んで、親である利用者や妻に暴力を振るうこともあった。当然のことながら、親子関係は非常に険悪なものになっていた。

アルコール中毒の治療が必要だということで、精神科医療機関のソーシャルワーカーの協力も得て、受診・治療につながるアプローチを行ったが、なんとか外来受診につながったものの、酒を飲まずにはいられず、同じことが何度も繰り返され、最後には訪問介護サービスを提供してくれる事業所がなくなって、緊急避難として連続利用30日のリセットルールを使いながらショートステイを長期間利用し、特養の空きベッドが生じた際に入所に至ったケースである。

入所後も、この息子は酔ったまま施設にやってきて、入所中の親に大声で怒鳴り散らしたり、手を挙げそうになったりしたため、妻の同意を得て、息子の面会を制限することにした。酒が入っている状態での面会を禁止した。それでも施設に訪問してくるが、玄関から中に入れないようにして、素面の状態なら会わせると言って、そこから追い帰す様なことが何度かあった。

当施設に入所された父親や、自宅で息子と暮らし続ける母親も、そうした息子の状況に困惑するばかりであった。確かに父親が施設入所したことにより、父親自体の暮らしの障害は大幅に改善した。しかし生活の質という面から考えると、長期的に見れば、息子の状況が改善しない限り、この親子、一家が抱える生活障害が解決されたということにはならず、親子関係が完全に崩れて、家族として成立しない状況になることが考えられた。

このケースでは、やはり息子がアルコール中毒に対する病識をもって、抱える問題を理解することが必要であった。この部分で、施設の介護支援専門員からは主たるアプローチはできなかった。

本ケースでは、精神科の相談員であるPSWが積極的に関わってくれて、いつしか息子の信頼を得るようになり、息子の相談に乗りながら、施設入所している父親に逢うために押しかける理由や、心情を理解し、酒を飲んでいない時に、一緒に施設に訪問して、父親との面会に立ち会うなどの支援を行ってくれた。

施設側も、PSWからもたらされる情報を元に、定期的に息子や母親の状況確認と、父親の様子を伝えるために、電話連絡したり、訪問したりした。

この間は、所属が異なる担当者が、上下関係なく、お互いに必要な情報のやり取りをして、精神科医療機関の医師も巻き込んで、スムースな連携ができた。結果として、息子はアルコール中毒の治療も行うようになり、酔ったまま施設を訪問してトラブルを起こすこともなくなった。

最終的には、ある事情で、息子が先に亡くなってしまったが、親子関係が破綻してどうしようもなくなるまでには至らず、施設入所後な、以前より親子関係の改善が見られ、家庭崩壊とまではならなかったケースである。

その時、プライベートの時間も使って、積極的に介入してくれたPSWの存在がなかったら、もっと問題は複雑化しただろう。彼の調整力のおかげで、少しずつではあるが、親子の関係が改善していった。

本年度の、介護保険制度改正の最大の目的は、地域包括ケアシステム構築のスタートのとしという意味だろうが、その中では保健・医療・福祉の連携が重要になる。そのために介護報酬にも、医療報酬にも、連携に関わる対応の加算が新設されているが、そこにはソーシャルワーカーの介入が条件とされていない。

本来、多職種連携は所属を超えたソーシャルワーカーの介入がより重要になってくるはずだ。

それがなければ、「連携」という言葉が、単に医師が福祉・介護サービスを指揮命令系統の中に組み込んで、指示をして終わりということになりかねないと思う。ここが大きな課題だろう。

どちらにしても、所属する組織の利害を超えて、人の暮らしに関わる使命感を持つ誰かが調整役にならない限り、人の命や暮らしは簡単に崩れてしまうということを忘れてはならないのだろうと思う。そのことができているか、押し詰まったこの時期にもう一度自らを振り返って考えたいと思う。

「人を語らずして介護を語るな2〜傍らにいることが許される者」のネットからの購入は
楽天ブックスはこちら
アマゾンはこちら
↑それぞれクリックして購入サイトに飛んでください。

介護・福祉情報掲示板(表板)