今年の9月はじめ、留萌管内・遠別町の地域包括支援センターの方からメールをいただいた。それは同町で12月に開催する「家族介護教室」の講師依頼であった。
同じ道内でも、遠別は稚内市に近い北の方で、登別からは車で6時間近くかかる町である。特に冬場は雪深い場所を通って行かねばならず、自家用車で自ら運転して行くには不安がある場所だ。さらに同町には鉄道路線がないため、公共の交通手段としては、札幌を経由して高速バスで行かねばならない場所である。そうであれば待ち時間を含めると片道の移動に7時間以上かかってしまう。特に北海道は今、大雪の日が多くなっている。遠別に向かう途中の留萌、羽幌方面も連日の雪である。そのため高速道路も通行止めになる日が多く、天候によっては移動時間がかなり延びる可能性がある。
しかし遠別町というのは僕にとっては特別な場所であるために、距離も時期も関係なく、今行きたい場所である。
なぜなら遠別町は、母の生まれ育った町なのである。今年退任した前町長も親戚である。
そこには今でも母の実家があり、僕は子供の頃から夏休みや冬休みになると、遠別に行ってその家で過ごすことが多かった。当時そこには祖母と、僕にとっては叔父にあたる母の弟夫妻が住んでいた。祖父は漁師だったそうだが、母が子供の頃海の事故で若くして亡くなっており、祖父の顔を僕は写真でしか知らない。そういう家庭環境で、祖母は母と母の弟を魚の行商をして育てたそうである。
僕は祖母のことを「遠別ばあちゃん」と呼んで育ってきた。とても優しい祖母だった。その祖母も、僕に長男が生まれた年に亡くなっている。
祖母の亡き後、実家は叔父の家族が暮らしていたが、叔父の二人の娘も結婚して、そこは叔父夫妻だけが住む家になった。この叔父もとても優しい人で、子供の頃から随分可愛がられたものだ。しかしその叔父も数年前に癌で他界してしまった。とても残念である。ひとり残された叔母にも子供の頃から可愛がってもらっており、その娘たちとは兄弟にように育てられた。久しく、その家にも行っていないので、今回の講演機会は、叔母の家に寄って、祖母や叔父に線香をあげお参りする良い機会でもあると考えた。
さらにこの時期に遠別町に行きたいと思うのには、もうひとつの理由がある。
僕の母は、数年前にくも膜下出血で倒れ、手術後の昏睡状態の時に脳梗塞を起こして意思疎通も困難な状態となり、現在医療機関で寝たきり状態となって過ごしている。
その母親は、鼻腔栄養を行っているが、十分な栄養も取れなくなってきており、日に日に痩せてきている。その顔はすっかり小さくなってしまった。そして心臓の働きも悪く、肺も炎症を起こして真っ白な状態である。先日、医師よりごく近い時期にターミナルケアに移行せねばならないことを告げられている。
年内に急変することはないだろうが、来年の早い時期に僕にはある覚悟が求められるだろう。少なくとも来年のこの時期に母は生存していないだろう。
そうであるがゆえに、母に替わって母のふるさとの様子を見て、実家の仏壇にお参りして、母が生きているあいだに、そのことを報告したいという気持ちが強い。今の状態の母にそのことを話しても、それは伝わらず、何も理解できない可能性は高いが、どうしてもそうしたいのである。
講演会場となっている「遠別町ふれあいステーション」は母の実家のすぐ近くである。そしてその会場の真向かいには特養がある。この特養の2代目の施設長は、癌で亡くなった叔父であった。そんな縁もある。叔父さんも天国で、同町での僕の講演を聞いてくれるのではないだろうか。
その講演は明日午後6時30分〜90分間の予定で行われることになる。
僕はその講演のために、明日朝9:51発の高速バス(道南バス)に乗り札幌に向かう。札幌には11:54に着き、そこで沿岸バスという会社の高速バスに乗り換える。札幌発が13:00で、遠別には17:04到着予定である。予定通りに到着したとして7時間13分の移動時間であるが、おそらく到着はもう少し遅くなると予測している。
母がもう二度と見ることができない景色を、僕が代わりにこの目に焼き付けて、心にも焼き付けて、病床の物言えぬ母に伝えることが、母が元気なあいだに何一つ親孝行をしなかった僕にとって、今できる唯一の事なのではないかと思っている。たとえそれが母のためではなく、自分のためにしかならないとしても・・・。
年内最後の講演旅行として選んだ道内講演には、そう言う意味があるのだ。
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介護・福祉情報掲示板(表板)
何かで聞いたことがあります。
「大きな泣き声で産まれてきた瞬間に、親孝行は完了している」と。
それと、masaさん。
直接会ったことはありませんし目上の方に失礼ですが、とても美しいです。
コメントせずにいられませんでした。