本年4月からの介護保険制度改正、介護報酬改定において、厚生労働省老健局内部で一番問題視されたのは、1号被保険者の保険料を一定金額以内に抑えることだそうである。

その目安となる金額が、5.000円以内とされたのは皆さんもよくご存知だろう。

そのために2012年度に限定した形で、都道府県が財政安定化基金の一部を取り崩し、保険料上昇の緩和に充てることができる特例規定が設けられた。この取り崩しと、市町村の介護給付費準備基金の取り崩しで、保険料軽減効果が月額244円あったとされている。

しかしそれでも第5期(2012年4月〜2015年3月)の1号被保険者の平均保険料月額は、第4期4.260円から、全国平均で月額4.927円と、19.5%の大幅アップとなっている。

高齢化による自然増分を考えると、この平均額が第6期(2015年4月〜2017年3月)に5.000円を超えることは確実と言える状況なのである。

そうであるがゆえに、第6期における介護報酬が決まる次期報酬改定でもこの1号保険料を引き上げないためにどうしたらよいかということが問題となり、老健局内部では既にそのことが話題になっているそうである。

2014年から段階的に消費税が10%に上がる予定になっているのだから、介護保険サービスに対する国費の支出割合を、現行の5割から6割に引き上げれば良いという声も聞かれそうだが、このことについて財務省が簡単に首を縦に振るなんてことは考えにくいだろう。

そうであれば、利用者1割負担の引き上げとか、居宅介護支援事業所による居宅サービス計画作成費用の自己負担導入とか、2号保険料の総報酬割りとか、今回の制度改正で議論されたことが再度論点として挙がってくるだろうが、高齢化が進行することによる自然増がある中で1号保険料を抑えるための方策として、給付費抑制策がその議論に中心になることは必然であると考えられる。

そんな中で、介護給付費の引き上げはどの程度可能となるのだろう?

我々施設サービス関係者からすれば、地方分権改革推進計画及び地方分権一括法により、厚生労働省令で定める 特養の居室定員(1名)が「参酌すべき基準」とされ、それに伴って今年度の報酬改定で、多床室の報酬が住環境を理由として、大幅な報酬減とされたことは非常に理不尽なものに感じている。

なぜなら介護報酬とは、介護サービスの対価という意味があり、そうであれば個室より多床室の方が介護の手間がかかるのに、住環境を理由にした報酬減額は筋が通らないと考えるしからである。
(参照:池田省三氏の主張と老施協のイマイチ)。

このことに関して、池田氏は僕に対する反論文の中で、
『介護報酬は「介護サービス」の価格であり、その水準は社会的合意を必要とする。したがって、サービスの質によって価格が異なるのは当たり前である。加算方式はその一つの手法と言えよう。また、「手間がかかっていようが、品質が悪ければ価格は下がる」ということになる。』と主張している。

しかしこの主張はおかしい。多床室はもともと経済的理由などで、必要とされた介護施設のスタンダード居室であったもので、そこでの生活の質は、ユニット型個室が誕生した以前と比べて、「住環境も含めた、暮らしの品質が下がっている。」という事実はなく、ユニット型居室はそれ以上の住環境を生みだしたという状況があるとすれば、氏が最初に主張しているように、「サービスの質によって価格が異なるのは当たり前である。加算方式はその一つの手法と言えよう。」という理屈によって介護報酬単価が決められるべきである。

つまり何万人もの人々が暮らし続けた多床室に対する報酬単価は、措置費の基準から介護給付費に移行した際に、サービスの価格として設定されているんだから、ここで従来型個室やユニット個室とのサービスの価格差を設定する必要があるなら、介護サービスの手間を含めて適正価格として設定されたはずの多床室報酬を下げるのではなく、それより住環境上優れた新しい個室という環境に対して加算するのが筋である。だから今年度からの多床室報酬の大減算は、理屈も筋が通るものではなく決して受け入れられるものではないのである。

そうであるがゆえに、次期介護報酬改定では、この報酬を23年度までの基準をベースに再査定する必要がある。その時、1号被保険者の保険料の上昇をできる限り抑えるために、抑制すべきものは抑制する案を示していかねばならないが、それは「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」の報酬だろうと思う。

この単価はあまりに高すぎる。

特養多床室と24時間巡回サービスの報酬比較

上の表が、特養の多床室と定期巡回・随時対応型訪問介護看護であるが、特養の機能は看護サービスも含めてのものだから、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の訪問看護を行う場合の報酬と比較するのがわかりやすい。

介護1と2では、特養多床室の方がかなり高いが、要介護3ではその差が縮小し、要介護4では6単位しか特養多床室報酬は高くない。要介護5ではこれが逆転し、定期巡回・随時対応型訪問介護看護費の方が高くなっている。

もともと定期巡回・随時対応型訪問介護看護費は在宅重中度者の地域での生活を支えるという目的があり、あり方委員会の中間報告書では、利用対象者を「要介護3以上としてはどうか」という記述もあったが、要介護者の介護サービスを利用する権利との整合性が取れず、利用対象者は要介護者全てとしたものとした。しかし介護報酬単価を見る限り、定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業者が収益を上げるには報酬単価の高い利用者をある程度の数確保する必要があると考えることができ、実質、要介護3以上の在宅者にサービス提供を促進する誘導策をとっていると想像できる。

しかしこの報酬設定額はどう考えてもおかしい。繰り返しになるが、特養の多床室報酬と比べて定期巡回・随時対応型訪問介護看護費は高すぎると言いたい。

なぜなら定期巡回・随時対応型訪問介護看護とは、あくまで居宅サービスであるから、訪問介護と訪問看護に係る業務の費用しか含まれていないため、身体介護に使う様々な物品の費用は利用者負担であり、例えばおむつ交換が必要な利用者のオムツ代金や、清拭に使うペーパーその他の費用はすべて利用者負担で、事業者負担することはない。

しかも居宅サービスは、趣味・娯楽のサービスを含まないから、それに対する支出もない。

それに対し施設サービスは、日常生活に必要な車椅子等の介護用品や、オムツや清拭用品、レクリエーションや通院支援費、その他諸々の費用を全て含んでいるとして、施設がそれらの費用を支払う必要がある。趣味や娯楽サービスの費用も全部含んでいるとして、レクリエーションや行事やクラブ活動等の費用を「教養娯楽費」として支出せねば運営基準違反となる。

このように圧倒的に支出費用が少ない居宅サービスの介護報酬が、施設サービスと同程度であるというのはおかしいのである。

さらに言えば施設サービスは、すべて施設職員により身体介護をはじめとした全サービスがまかなうものだが、定期巡回・随時対応型訪問介護看護は24時間地域を巡回すると言っても、それぞれの要介護者の主介護者は、ほとんどの場合、「家族」であり、重度要介護者は定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスだけで在宅で生活が続けられるわけではない。

それなのに要介護5の費用が逆転し、特養の多床室より、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の方が高いのはおかしいのである。

支出費用から考えると、特養等、施設サービスの介護報酬は定期巡回・随時対応型訪問介護看護の報酬よりもっと高くなければならないし、逆に定期巡回・随時対応型訪問介護看護費はもっと低い報酬を設定すべきである。

次期報酬改定議論では、このことをもっと前面に出して主張すべきである。そして特養の多床室報酬を適正レベルまで引き上げたベースから再査定すべきである。

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