医療機関の看護師がナースキャップをかぶらなくなっているらしい。

その理由は、キャップの先端が点滴器具などの医療機器に接触し、「狭い病室で作業しにくい」と邪魔になるということが一つ。さらに「頻繁に洗濯できず衛生的に問題」といった衛生面からの不要論。これに加えて男性看護師が増えてきたことも背景にあるようだ。

確かに男性看護師があのキャップをかぶっている姿は想像したくない。女性看護師であってもキャップをしていないデメリットはあまり考えられない。

強いて言えば、看護学校では戴帽式でナースキャップをかぶることによって、その社会的使命を心に刻み、人の命に関わる責任を自覚するのに、いざ看護師の実務に携わった時に、シンボルであったナースキャップがないということに対して、あこがれを失って残念に思う人がいるということだろうか。

しかしそうしたシンボルは、形に現れるものを冠にするのではなく、心の中に深く刻み込んで、自らのハートの中にキャップがあると考えればよいだろう。看護場面で常にそのことを意識すれことのほうがずっと美しい姿なのではないだろうか。誇りある仕事をする限り、美しい心に刻んだシンボルは、その人の現実の姿に現れてくるものだからだ。

僕が過去にナースキャップに対して持った違和感のことを語りたい。

医療機関によっては、ナースキャップに線を入れて、その線の本数で、職制上の地位を表しているようなところが見られた。ぼくはナースキャップに描かれたその複数の線を見ながら、旧軍人の階級章もしくは軍服の袖章の線を想起せざるを得なかった。

そういう権威を、ナースキャップの上に置く必要があるのかという違和感だ。少なくとも看護にとってそんなものは必要ない。であればそんなものかぶる必要はないのではと思っていた時期がある。

当時若かった僕は、権威というものに対し必要以上に反感を覚えていたため、看護師が権威の象徴のようなキャップをかぶってどうするのだと憤りに似た感情を抱いたのだろう。しかし今でも権威の象徴を冠にすることに対する違和感はなくなっていない。看護にそれは必要ないだろう。

看護師は、豊かな知識と高い専門技術を持った人々だと思う。しかし階級章のような権威を、そのシンボルであるナースキャップに置くことを当然だと思い始めた時から、何かを間違えてしまったのではないだろうか。

その最たるものが、言葉遣いへの鈍感さである。

看護を受ける人々を患者と呼び、あたかもそれらの人々が字のごとく、「心を串刺しにされた者」にしてしまった実態はないのだろうか。

自らの命を人質に取られている人々は、年下の看護師から「タメ口」を叩かれても抗議できない。抗議の声のないことをよいことに、乱れた言葉をつかうことが「親しみやすさの表現である」と勘違いして、言葉遣いに気をつかわず、看護対象者を単に患者としか見ず、顧客とか、人生の先輩ということを全く無視し、人格に配慮しない専門職を生んでしまったのではないだろうか。

患者と呼ばれる人々は、そこでは汚い言葉を「親しみやすい」と感じているのではなく、我慢して慣らされているだけだ。病棟で看護師と患者の間で交わされる会話を聞いていると、時にそれは看護師の一方的なお説教のようにしか聞こえないことがある。日常会話でさえも見られないような汚い言葉が飛び交うこともある。そこには看護の専門性は微塵も感じられない。

専門性とは、家族そのものになることではなく、家族ではない第3者が、家族のような愛を持って接することである。そこでは家族にのみ許される乱れた言葉で接することは許されないはずだ。ここの部分の神経が鈍い看護師が何故多いのだろう。

医療現場で、看護師が自らの言葉遣いに気を使わないから、そこで指示命令を受ける立場である介護職員が正しい言葉を使うわけがない。そうした言葉が当たり前だという考えが、医療機関から始まり介護業界にも蔓延している。このことの罪深さを、このことの責任を、すべての看護師はもっと自覚すべきである。

特に医療機関の師長クラス、看護部長などいう職務に就いている人々は、この問題にもっと敏感にならなければならないと思う。そして変えなければならないと思う。

看護の看とは、手を眉上にかざして見るという意味であり、それは「いつくしむ心」 を表したものである。

しかし患者と呼ぶ人々にぞんざいな言葉遣いでしか対応しない看護師に、「いつくしむ心」など感じられないのは僕だけではないだろう。

ナースキャップという冠を外して、もう一度「手を眉上にかざして」、患者と呼ばれる人々に対する会話の中で、言葉がどう使われているか見つめ直して欲しい。

その時の看護師の姿が美しものであるのかどうか、もう一度「手を眉上にかざして」考えて欲しい。

「人を語らずして介護を語るな2〜傍らにいることが許される者」のネットからの購入は
楽天ブックスはこちら
アマゾンはこちら
↑それぞれクリックして購入サイトに飛んでください。

介護・福祉情報掲示板(表板)