認知症高齢者の方が、誤飲・誤嚥を起こす理由は様々である。

当たり前のことを確認しておくが、「誤飲」とは異物を飲み込む事故を指し、「誤嚥」とは飲食物を飲み込んだ後の咽頭・食道・気道・肺の事故 のことを指す。

見当識障害により詰め込み食いがある人や、糖尿病による低血糖・空腹感の強い人等のように飢餓感がある人は「誤飲リスク」が高い。この場合は、食事の際に支援者の見守りが不可欠であるし、環境アセスメントを行って、身の回りに食べ物と間違えて口に入れてしまうようなものを置かない注意も求められる。

自宅や施設等では、洗剤を飲んでしまうという事例が数多く見られているので、その保管場所には注意が必要だ。特に消毒に使う漂白剤などは、命の危険性に直接結びつくので、絶対に手の届く場所に置いてはいけない。

一方、誤嚥事故の事例をみると、認知症の初期段階で起こる誤嚥事故には嚥下機能低下が伴わないものが多い。

例えば向精神薬や眠剤系を服薬し、傾眠傾向がある人は誤嚥リスクが高い。食事摂取をする際にしっかり覚醒するように、眠剤調整などが不可欠になる。

また食事摂取するという行為自体を認知できないことで、口の中で食べ物を飲み込まずに残しているものが、何かの拍子に咽頭〜気管に入ってしまうことも多い。最初はきちんと飲み込んでいたとしても、食事の途中から「食事をしている」ということを忘れてしまう場合や、最初から食物だと認識していないのに、無理に口の中に食物を入れられてしまう場合などに起こりやすい事故である。この場合は、食事介助を行う人が、きちんと声をかけたり、その場で食事をするということがわかるように説明することが必要になる。そしてその前提は、今声かけたこともすぐ忘れてしまうということであり、何度も声をかけることを厭わないことである。

そしてこの時期の誤嚥事故予防対策としては、食事形態の変更は必要ないという理解が必要だ。嚥下機能低下があるわけではないのでペースト状にしてもしょうがない。 逆にペースト状にすることによって、認知症の方は、そのようなものを食事だと認識できずに、さらに前述したような事故が起こりやすくなる。

普通食を基本にして、その方の嗜好を十分にアセスメントして、食事であると認識できるように、味や香りや、盛りつけも含めた工夫が求められる。

しかしこの時期の状態をことさら取り上げて、認知症によって嚥下機能低下は起こらないのだから、食事形態を絶対に変えてはならないと考えるのは間違いである。そう思い込んでいる人は、認知症の方の晩期に接したことがない人だろう。

そもそも認知症の原因は様々であるが、例えばアルツハイマー型認知症の方の晩期は、脳細胞が減って、口や喉の筋肉の動きをコントロールできなくなるためむせやすくなる場合が多い。医師によっては、これをCTスキャンなどで確認して、脳室の隙間が広がって来る時期と結びつけて、ここから摂食障害が生ずると考える人もいる。

少なくとも脳細胞の変質による摂食障害・嚥下機能低下がないということは有り得ないのである。

こうした状態になっても、すぐに食事摂取が困難になることはないが、この時期には食事形態の変更の検討が必要になる。食事形態を工夫することでしばらくの間はむせないで食べることができるからである。

しかしこの状態がさらに進行すると口を開けなくなったり、咀嚼せずいつまでも口の中に食べ物をためたりするようになる。

これは嚥下機能低下がない時期の、食べ物を認識できずに口の中にためてしまう状態とは異なり、既に食物を口腔摂取する筋力コントロールができない状態と言える。

こうした時期は、胃瘻等の経管栄養を検討することになるだろう。胃瘻を造れば栄養が取れないということで死に結びつくことはなくなる。

しかし、この状態は、体が食べ物を必要としなくなっている状態といえるのではないか。 終末期の選択肢のひとつ として「自然死」ということを真剣に考えて、看取り介護に移行する、という選択肢があっても良いのではないかと考える。

このことも、もっと広く議論されなければならないと思う。

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